賛否が交錯するジョコビッチの下位選手救済案。救う側の内山靖崇と、救われる側の高橋悠介、それぞれの思いは?【男子テニス】

賛否が交錯するジョコビッチの下位選手救済案。救う側の内山靖崇と、救われる側の高橋悠介、それぞれの思いは?【男子テニス】

世界90位の内山は、下位選手を救済することには賛意を示すが、その方法については彼なりの考えを持つ。写真:山崎賢人(THE DIGEST写真部)

「全く、事前の通達はなかったです。僕も皆さんと同じニュースで知りました。トップ100がお金を出すと書いてあったので、『オレも入ってるじゃん!?』という感じで」

 現在、世界ランキング90位。昨年10月に100の壁を破った内山靖崇は、そのニュースを見て「ビックリしました」と苦笑いした。

 ノバク・ジョコビッチが提唱する、コロナ禍で苦境に立たされたテニス選手救済のための基金設立の話題が流れたのは、10日ほど前のことである。シングルス上位100位、ダブルス上位20位の選手たちから寄付金を募り、それを250位〜700位あたりの選手たちに分配しようという大規模なプランだ。

 この提案は称賛を浴びる一方で、一部の選手からは「下位にはプロフェッショナルではない者もいる。そんな選手にも支援が必要なのか?」との声も上がる。それら賛否両論渦巻くなか、トップ100に入って日の浅い内山は、双方の立場を慮った。
 
「下位選手を救済するという着想そのものには、賛成です。ただ最近、西岡(良仁)とも話したのですが、それを選手が払うべきなのか? 僕が250位以下の選手と対戦して負けることもあるわけだし、同じ土俵で戦っている選手同士でお金を授受するのは、どうだろうとは思います。

 ならば選手への援助はATP(男子プロテニス協会)やITF(国際テニス連盟)にやってもらい、僕らが援助するのは、運営が厳しくなっているATPチャレンジャーや、ITFの大会が良いのではと思いました」
  内山が、250位以下の選手にも抱くライバル心とは敬意であり、同時に、かつて自分がその地位にいた時でも、上位選手と伍して戦う力はあったというプライドにも依拠しているだろう。

 一方で、もし今の状況下で自分のランキングが400位より低かったら、自信やモチベーションを保つのは難しいかもと仮想する。

「なぜ400位かというと、そこがチャレンジャーに出られるギリギリのランキングだから。フューチャーズ(チャレンジャーより下位のITF主催大会)を回るのって、一番お金が掛かるんです。ホスピタリティもないし賞金も少ない。ポイントも少ないので、何回も勝たないと次のレベルに上がれない。チャレンジャーだと、優勝すればランキングもジャンプアップするのでモチベーションも上がるんですが、フューチャーズとなると、僕なら次の人生も考え始めるかもなって……」
  それは27歳という年齢、そしてツアーレベルに身を置いた今だからこそわかる、プロテニスの世界の道理だろう。そして、内山らの動向に目を向けその背を追う日本の後進たちが、感じている真理でもある。

 3年前の全日本選手権優勝者の高橋悠介も、その一人だ。「最低でもチャレンジャーで回っていける300位や、少なくても350位に早く行かないと」――当面の目標ラインを、高橋はそこに引く。

 現在のランキングは416位。20歳にして全日本を制し、ランキングも238位まで上げていた高橋は、そこからの2年半、苦しい時期を過ごしていた。肩書きや周囲の声を、気に留めたつもりはない。だが、自ずと上がる自分への期待は重圧となり、心身の歯車を狂わせていた。

 勝利に見放され、主戦場もチャレンジャーから再びフューチャーズへと落ちた時、目に映ったのは2つの大会群の間に横たわる、決定的な差異だった。

「フューチャーズだとコートはボロボロのこともあるし、初戦で負ければ、賞金はホテル1泊分で消えてしまう。ポイントも少ないし、先が見えない。でもチャレンジャーなら100位以内の選手もいるので、そのレベルで戦っているという自覚も出るし、上の選手の取り組みなども間近で見られます。チャレンジャーに定着し、そこでまず生き残るのが、金銭面でもモチベーションでも大事かなって思います」
  篤実な口調で一語一語つむぐ彼は、件の援助金に関しても、しっかりとした意見を持つ。

「まずはジョコビッチのようなトップ選手が、下位の選手のこともファミリーと捉えてくれているというか、『みんなで一緒に頑張ろう』というメッセージを感じるので、そういう考え方ができるのはすごいと思いました。

 ただ、自分が受け取る側としてどうかと考えた時……、確かに今は賞金はないですが、遠征費もない。賞金より遠征費が上回ることも多いので、それを考えると、救済金を受け取っていいのかと思ってしまいます。でもそう思えるのは、自分には三菱電機さんなどのスポンサーが付いているからで、世界で見れば僕よりランキングが上でもスポンサーのない選手はたくさんいる。そういう選手には支援金は必要だと思います。選手たちが辞めていけば、テニス界全体が弱ってしまうことになりますから」
  それでも、実際に基金が設立されたとすれば、その時には「強くなることで還元したい」と、穏やかな語り口に強い意志を込める。

「そのお金を使って強くなり、下の選手たちに還元したり、払ってくれた選手たちのライバルになってお返ししたい。支払われるなら割り切って受け取り、そのぶん強くなると考えた方が良いのかなと思います。払う側としても、申し訳なさそうに受け取られても困るでしょうから」

 ライバルとなり、切磋琢磨することでテニス界に貢献するという高橋の哲学には、この2年間もがき苦しみ、ようやく光明を見い出した中での思想の推移が反映される。

「世界のビッグ3やビッグ4を見ても、ライバルとの相乗効果で強くなり、それを見て他の選手も引き上げられている状況があると思います。もちろん僕も試合で負けたくないですが、全体のレベルが上がる中で他の選手よりも強くなってやると考えた方が、自分のためにもなりますから。
  そういう考え方をするようになったのは、この1〜2年ですね。それが心のゆとりにつながってると思うし、逆に、心のゆとりが生まれるかもと思って、そういうふうに考えたところもあるし。そのような考え方を与えてくれたのは、同じ三菱電機所属の杉田(祐一)選手や、内山君なんです。2人は僕のことも気にかけて、練習にも誘ってくれる。上の選手が『みんなで強くなろう』と言ってくれることが大きいと思います」

 新型コロナウイルス禍によるツアーの停止は、テニス界が抱えていた問題を浮き彫りにし、同時に選手個々が自身を見つめ、社会や他者とのつながりを再構築する機会を生みもした。

 それら生まれた多様な視座や関係性が、この競技を一層豊かにする――そんな未来が、きっとある。

文●内田暁

【PHOTO】世界で戦う熱き日本人プレーヤーたち!
 

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