「やるからには本気でやる」河内一真が、高校テニス部とプロの"最後の試合"をクラウドファンディングで企画

「やるからには本気でやる」河内一真が、高校テニス部とプロの"最後の試合"をクラウドファンディングで企画

インターハイ中止を受け、高校で頑張ってきた部活生たちに「何かできないか」という思いで最後の試合を企画した河内。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

 「大会がなくなってつらい思いをしているのは、高校球児だけではない。テニスをやっている子たちも一緒だ。だったら彼らのために、自分たちが何かしてあげられないだろうか――?」

 緊急事態宣言下の、5月中旬。“夏の甲子園”中止に落胆する高校生たちのニュースを見た時、河内一真の頭に真っ先に浮かんだのは、同じように深く悲しんでいるであろう高校テニス部員たちのことだった。

 夏のインターハイ中止は、甲子園に先んじてすでに決まっている。インターハイを目標にしてきた高校生たち……特に、この夏を3年間の集大成に位置づけていた最上級生のことを思うと、心が痛んだ。その共感は、河内自身が経験した、高校時代の青春の思い出にも依拠している。

「自分も高校テニス出身なので、春の選抜や夏のインターハイでの優勝を目標にしていました。その時の団体戦の経験は、他とは違う特別なものだったんです。だから部活動をやってきた子たちに、団体戦をやる機会を与えてあげたいっていうのが、一番大きな思いでした」
 
 日本のトップジュニアだった河内は、少年時代から全国優勝や、世界の頂点をもかけた多くの試合を経験していた。その彼にしてみても、インターハイなどの団体戦は、他では味わえぬ緊張感や高揚感を覚える特別な舞台だったという。

 だからこそ彼は、その舞台を奪われてしまった高校生たちに、真剣勝負の機会を与えたいと願った。もちろん、この状況下では大掛かりな大会などはできない。
ならば、どうするのが良いか? 
  ツアーを共に転戦する機会も多く、やはり高校テニス出身で似た志を持つ乾祐一郎とも相談した結果、「自分たちプロ選手たちが、高校を訪問して団体戦をすればいいのではないか?」とのアイディアが出た。1校ずつ訪問するなら、多くの人が集まることもないし、会場や施設も部員たちが使い慣れた場所を使える。感染リスクを抑えるという意味でも、これは効果的に思えた。

 一方で浮上する問題点は、複数名のプロがその都度学校に出向くとなれば、移動や宿泊の経費が相当に掛かるということだ。スケジュールも広範に及ぶため、場所や日程に応じて訪問選手を組み替えられるように、相当数のプロ選手に賛同してもらう必要もあるだろう。

 そこで河内らは、まずは複数の企業に支援してもらえないか話を持ち込んだ。だが、どの企業も苦境に立たされているこの新型コロナ禍の最中では、色よい返事は得られない。

 何か他の手段はないものか……そう思案していた時に目にしたのが、7月上旬に開催される賞金大会、『Beat COVID-19 Open』発足のニュースだった。この大会では、運営費から賞金までを、クラウドファンディングで一般のファンから広く集める予定だという。
このような手段でイベントができるのかと、ヒントを得た気がした。しかも河内は、この大会の発起人であるサンワカンパニーの山根太郎社長を個人的に知っている。

 そこで、山根社長にも連絡を取り助言を得たうえで、自分たちもクラウドファンディングで経費を集めることにした。
  “「下克上バトル」プロ軍団vs高校生の本気の団体戦!!”

 プロジェクト名には真っすぐに、イベント企画趣旨を込める。

 訪問校の数は、現時点では8を予定。参加資格は、直近2年以内にインターハイ、または選抜の団体戦に出場経験のある高等学校。団体戦の開催時期は、8月下旬から9月を予定している。

 なぜ、自分たちプロと、高校生の団体戦での対戦なのか――。戦いの場を失った高校生たちに何かをしてあげたいと考えた時、河内が至ったこのイベント形式の背景には、彼自身のテニスキャリアが色濃く染み付いてもいる。

 先述したように、ジュニア時代の彼はジュニアデビスカップの日本優勝に貢献し、高校時代にはインターハイで母校を初優勝に導くなど、まさにエリート街道を走っていた。だがプロ転向後は、かねてから鈍い光を放っていた不吉な兆しが、一気に表面化する。

 イップス――。その黒いくびきは、まずは彼のサービスを決定的に破壊し、やがてはフォアハンドをも束縛した。原因は、分からない。解決の目処も立たない。それでも彼は、諦めなかった。試合に勝てなくても、対戦相手にぎこちないフォームをからかわれても、「逃げ出すよりは、ましだった」からだ。

 何年間も、もがき、苦しみ、やがてひとつの転機となったのは、「以前の自分に戻る必要はない」と、今の自分を受け入れたことだったという。そこからは新たな自分を模索して、ゼロから……いや、マイナスから技を積み上げた。

 そうして、プロ転向から7年。まだ時折、イップスの気配を右腕に感じながらも、今の彼はそれをも制御する術を体得した。穏やかな表情と、明るい口調に一本芯を通す強い意志は、それら踏破してきた足跡が生んでいるのだろう。
 「こっちも、やるからには本気でやる。なので高校生たちには、これを一つの試合として本気で捉えて欲しいなって思います」

 そう断言する河内は、いずれ対戦するであろう高校生たちに、次のエールを送った。

「3年生にとっては、本当に最後の団体戦かもしれない。だからこれが、自分たちの集大成だという思いで参加して欲しい。1年生には、プロとの対戦を来年へのモチベーションだったり、スキルアップにつなげて欲しいっていうのが一番大きいです。そして僕らとの試合を通じて、プロを目指す学生も増えてくれたら嬉しいです。この対戦をきっかけに、さらなる高いところを目標にしてもらえたらと思います」。

取材・文●内田暁

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