錦織圭ローマ大会2回戦敗退で見えてきた「経験」という名の新たなる課題【海外テニス】

錦織圭ローマ大会2回戦敗退で見えてきた「経験」という名の新たなる課題【海外テニス】

1年以上の長期離脱により失ったものを取り戻すべく、今は一つでも多く試合に出ることを望んでいる錦織。(C)Getty Images

かつて錦織圭は、18歳の頃の自分のプレー動画を見て「よくこんなところを狙っていくな…」と、若き自身の豪胆なプレーに驚いたことがあると言った。

 この日、18歳の新鋭と対戦した錦織は、同じような思いを抱いただろうか? 

 イタリア国際の2回戦。対戦相手は、スタン・ワウリンカになるだろうという大方の予想を覆し、そのワウリンカを初戦で圧倒したロレンツォ・ムゼッティ。

 セレナ・ウィリアムズのコーチとして名を馳せるパトリック・ムラトグルにその才能を見いだされ、昨年の全豪オープン・ジュニアを制した実績も持つ、地元イタリア期待のニューフェースだ。

 ムラトグルが設立した『チャンピオン・シード・ファンデーション』の支援を受けるムゼッティは、同じ基金の卒業生である、ステファノス・チチパスともどこか似た資質の持ち主だ。

 バックハンドは片手打ちで、スライスやロブなど多彩なショットを操るオールラウンダー。

 ただテニスプレーヤーとしての彼の本質は、少しでもチャンスがあればリスクを取り、勇猛に攻める攻撃性にあるだろう。昨年までは、時としてその性向がミスの量産や精神的な乱れにもつながり、「アップダウンが激しい1年だった」と振り返る。だからこそ、内面の成長こそがテニス向上の鍵と信じた彼は、「試合を通じて落ち着き、コート上では常にポジティブな姿勢を保つようにした」と言った。
  錦織との試合でも、ムゼッティはその決意を貫く。

 錦織が放つバックサイドへの高く弾むボールを、「最も得意」だというフォアに果敢に回り込んで、逆クロスで叩く。序盤は、気持ちがはやったかボールが大きくラインを割ることも多かったが、若者は臆することなく攻め続けた。

 第3ゲームで錦織に2本のブレークポイントを握られるが、この危機を息を呑むドロップショットや豪快なフォアのパッシングショットで切り抜けると、途端に心身の歯車が噛み合いだす。

 続くゲームをフォアで攻め抜きブレークすると、以降も勢いを緩めない。恐れを知らぬ18歳が、第1セットを6−3で奪取した。

 第1セット後にトイレットブレークを取った錦織は、この間に初対戦の相手のプレーを分析し、作戦を立案しただろうか。

 第2セットに入ると、錦織が主導権をつかむ場面が徐々に増えていった。相手のバックサイドを高く弾むスピンで突き、体勢が崩れたところをドロップショットやボレーで揺さぶりポイントを重ねる。錦織が言うところの、「けっこう良いポイント」「100点のプレー」が多く見られた時間帯だった。
  結果を先に言ってしまうと、平衡状態で進んだ錦織サービスの第9ゲーム途中で、停電による試合中断というアクシデントが発生。再開後の錦織は5ポイント中4ポイントを失い、このゲームを落とし、そして試合そのものに敗れた。

 ただ当の錦織は、中断そのものは「人生で初めてでびっくりはしましたが、そんなに気にならなかった」と敗因にあげることはしない。それ以上に彼が悔いたのは、中断直前の相手サービスゲームでの、自らの一つのプレーだった。

 このゲームでのムゼッティはやや硬さが見られ、最初のポイントをフォアのイージーミスで失うと、続くポイントではダブルフォールト。次のサービスもファーストを外し、セカンドサービスは錦織のバックサイドに甘く入ってきた。

 このボールを鋭く打ち返した錦織は、迷うことなくネットに出る。果たして相手の力ない返球は、錦織の正面に。余裕を持って錦織は、バックのボレーでこれを叩いた。

 ところがボールは、無情にもネットの白帯に掛かり、錦織のコートにポトリと落ちる。両手をネットについて頭を垂れる後ろ姿が、錦織の胸中を物語っていただろう。

「あんな簡単なボールをミスったのが、大きなポイントになった」

 後に錦織は、その場面をこう述懐した。

「良いポイントがあるけれど、悪いポイントも自然と出てくるのが、ちょっと安定感がないところ。なのでそこを減らしていきたい」
  試合全体から得た手応えや課題を、錦織はそのように捉えている。果敢にトライしたネットプレーに関しても、「クレーでも、こうやって(ネットプレーを)混ぜていけるんだなっていうのがわかった」と、新たな収穫もあった様子だ。

 全仏オープン開幕は約10日後に迫るが、来週のヨーロピアン・オープン(ドイツ・ハンブルグ)にも出場予定。

「今年は、グランドスラムに照準を合わせるとか言ってられない状況。なるべく試合数をこなせればというのが第一目標です」と言い、今は何よりも実戦経験を切望している。

 2年前のジャパンオープンで、当時20歳のチチパスを圧倒した時、錦織は相手の若さに微かな羨望を滲ませながらも、「今は良い意味で落ち着いて、どっしり構えていられる。昔の方がもちろん思い切りの良さはありましたが、色々と経験して今があるんだなと感じた」と明言した。

 ケガとコロナ禍による1年のツアー離脱を経て、30歳になった錦織は今、再び「経験」を欲している。

 これまで踏破してきた道に、現在模索する攻撃的スタイルが重なった時、円熟味に豪胆さを加味した、新たな錦織圭のテニスが生まれるはずだ。

文=内田暁

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