地道なノーギャラ活動から広がった仕事の輪。テニス芸人“ボヨン・ボルグ”が誕生するまで【後編】

地道なノーギャラ活動から広がった仕事の輪。テニス芸人“ボヨン・ボルグ”が誕生するまで【後編】

加藤未唯とバモス!わたなべが参加した和歌山のイベント。バモス!には笑いを通じてテニスの楽しさを伝えたいという情熱がある。写真:内田暁

相方と別れ、自身も芸人生活の瀬戸際に立った“バモス!わたなべ”が、テニス芸人として活動しようと思った時、まず考えたのは、著名選手の形態模写をすることだった。ただ彼の頭を悩ませたのが、経費の問題である。

 現役選手はその時々でウェアやラケットが変わり、そうなると、真似する方も買い替えが必要となりお金がかかる。

「だったら、引退したレジェンド選手にすればいい!」
 そう思いつき、ネットで「テニス/レジェンド」と検索した時、真っ先に上がってきたのが、ヘアバンドに長い金髪が印象的なイケメン選手。

 名前の読み方すらよくわからなかったが、「ビジュアルのインパクトもあるし、僕が彼の格好をしたら笑いが取れるのでは」と直感した。もちろんそのレジェンドこそが、ビヨン・ボルグである。

 ただここで立ちはだかる問題が、ボルグが身に付けているラケットやシューズは、今では簡単に手に入らないこと。「白いポロシャツに、手作りラケットでごまかすしかないか」……と途方に暮れつつ下北沢の町を歩いていると、偶然にもテニスショップの前を通りかかる。
 「こんな所に、こんなお店があったんだ」
そう思い扉をくぐると、なんと入ってすぐの棚に、ボルグ愛用のドネー社のビンテージラケットが展示されているではないか!

「ボルグを知ってるんですか!?」
 思わず勢い込んで店長に尋ねると、返ってきたのは「当たり前じゃないか!」の叱責の声。

 そこで自らの素性と状況を打ち明けると、「わかった、俺に任せてくれ」との心強い言葉を掛けられた。その店長は、ボルグ愛用のものと同じウェアとシューズを見つけ出し、さらにはラケットも「君の情熱はわかったから」と、半額ほどで譲ってくれたという。

 かくして「テニス芸人」を志してからひと月ほどで、“ボヨン・ボルグ”が誕生した。

 そこからのわたなべは、「テニス芸人という自分の存在を知ってもらうため、グランドスラムも含めたテニス大会やイベントなど、自腹・ノーギャラ覚悟で行きまくった」。

 “ボヨン・ボルグ”の公式デビューは、2017年4月に開催された「有明の森スポーツフェスタ」。テニス専門誌『スマッシュ』のブースで手伝いのバイトをしていると、その場で、全国選抜高校テニスの関係者と出会い、同大会の「応援副団長」の肩書を得ることができたのだ。
  そこからは運命の輪が回り始めたかのように、次々と新たな出会いや仕事が舞い込んでくる。『スマッシュ』の誌面企画に出るようになり、すると誌面を介してダイドードリンコの関係者と知り合い、同社が企画したイベントにも呼ばれるようになった。

 さらに大きかったのが、2018年全米オープンでの、大坂なおみの優勝。テレビがテニス情報を多く取り扱うようになる中で、「テニスに詳しい芸人」の需要も高まったからだ。

「ネットで“テニス/芸人”って検索したら僕がヒットするようになったので、いくつかの情報バラエティ番組に呼んでいただけた。あれで一気に『吉本にテニス芸人ってのがいるようだ』と知られたみたいです」

 ついに感じることができた、スポットライトの当たる場所に足を踏み入れたという充実感。同時にその頃を境に、彼は、お笑い芸人としてライブ等に出るのをやめたという。

「テニス芸人一本でやろう」
 そう心に決めたのは、数珠つなぎに続いた出会いと仕事の広がりに、「テニスに導かれている」と感じたからだ。そして、その運命の輪の内に身を置くことが「僕自身、うれしかったし楽しかった」からに他ならない。
  だからこそ彼は、芸人という肩書以上に、テニスという競技……あるいは、テニスコミュニティを重視する。なおかつ「テレビに出る」ことにこだわるのは、やはりそれが、一般の人々に最もリーチできる手段だからだ。

「テニスを普及したい、少しでも多くの人にテニスの魅力を伝えたい」
 そんな使命感にも似た情熱を、彼は厚い胸いっぱいに詰め込んでいる。

「僕はテニスを見る人も、やる人も増やしたい。例えば今回の和歌山のイベントにしても、来てくれたお客さんは、絶対に加藤未唯選手を好きになったと思うんです。僕からしたら『テニスをやっているのに加藤選手を知らなかったらもったいない、未唯ちゃん知らなかったら損してるよ!』って思うので、選手のことを多くの人に知ってもらいたいんです。

 それにテニスはやるスポーツとしても、競技者は寿命が長いというデータもあるし、生涯スポーツとしてできる。やらない理由なんてないですよね」

 そう言葉に熱を込める彼の、将来の夢は「自分のテニスアカデミーを作ること」。
「年に1回は、プロの選手を呼んでイベントやクリニックをやったり、コートを開放してみんなで試合をやったり……そんなテニスのお祭りを開くアカデミーを作りたいんです」

 ふらっと公園に来る感覚で、テニスができる場所を作ること――それこそが、今の彼が目指す「人生のゴール」だ。

取材・文●内田暁

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