波形純理、38歳の決断――所属先を離れ、再びグランドスラムへの夢を追う【女子テニス】

波形純理、38歳の決断――所属先を離れ、再びグランドスラムへの夢を追う【女子テニス】

かつてグランドスラム本戦も経験し、105位までランキングを上げた波形純理。テニスへの情熱は今も衰えず、所属先を離れて戦う決断をした。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

「グランドスラムを目指してずっと試合を回っていたんですけど、ちょっと引っ掛かる部分があったんですよ」

 昨年は、どんなシーズンだったんですか……という問いに、波形純理は胸の内を探りながら、率直な言葉を返した。昨年の夏に37歳を迎えたが、ランキングはまだ300位台前半。その前年の2018年には200位前後をキープし、グランドスラム予選にも全て出場した。

 その予選の舞台に戻り、さらに先の本戦に出たい――。そう切望しながらも、心技体が真っすぐテニスを指していない違和感が、常にどこかに引っ掛かっていたという。

 理由は、わかってはいた。出すべき答も、見えている。
「所属先の伊予銀行を辞めることにしたんです……自ら」
 それが彼女が選んだ、最良の道だった。

 愛媛県松山市に拠点を持つ伊予銀行は、波形にとって長く「最も楽しいホームコート」であった。

 愛媛での生活も楽しい。その日々の充実感こそが、何よりの「試合で勝つための原動力」でもある。ここ数年で最も良い結果を残した2017年はまさに、ホームコートや私生活の充溢が、試合のコートに還元される好循環の中にいた。
  だが、2017年の愛媛国体終了を機にチーム体制が変わると、波形を取り巻く環境やチームからの要望にも変化が生じる。

 個人の試合よりも国体に向けての練習を重視する機運が強まり、波形にも、チームと足並みを揃えることが求められた。グランドスラム予選を控えている時ですら、来たる国体を視野に入れ、砂入り人工芝コートでの合宿が組まれるようになっていく。

 それら移ろう環境の中で、気付けばあんなに好きだったホームコートが、「のびのびできない、帰りたいと思えない場所」に変容してしまったという。1つのボタンの掛け違いは、信頼関係を足元から崩し、やがては修復不可能な状態に陥っていた。

 その悩みの中で突入した、コロナ禍によるツアー中断や非常事態宣言は、ツアーキャリア20年目のベテランに、1つの決断を迫った。

 テニスを辞めようという思いは、全くない。まだ自分の中に、グランドスラムへと駆り立てる情熱が燃えていることは、確信できた。問題は、その火を焚く拠点をどこにするかだ。
  愛媛に残れば、練習環境は維持できる。だが、本当にそれが目標へと続く道なのかと自問した時、返ってくる答は「イエス」ではなかった。

 愛媛を離れれば、しばらくテニスの練習はできないだろう。ラケットを握らぬ日々が続くことに、不安がないわけではない。それでも波形は「東京に残り、テニスを休むという選択ができたんです」と、声に明るい色を乗せる。

「テニスはやらずに、トレーニングをやっていました。そこで成長したなって思えたし、伊予銀行を辞める決断もできたんです」

 スポンサーや拠点を失うことを周囲は心配するが、当の本人は「なぜか大丈夫だと思えている。それが一番の強みです」と快活に笑った。

 現在の波形の立ち位置は、本人いわく「ふらふら流浪のプレーヤー」。母校の早稲田大学やテニススクールを渡り歩きながら、以前から磨きたいと思っていた課題にも取り組んでいるという。

 そのテーマが、「スピン系のショットを取り入れること」。そして「ネットプレーにつなげる展開」。最近はポイント練習の中でも、それらができている手応を感じられているという。
  ちなみに最近の波形が、最も頻繁に練習を共にするのが、18歳の佐藤久真莉。先の全日本選手権では、ベスト8の波形の上を行く、4強入りを果たしたホープだ。
「久真莉ちゃんとは良い練習ができるし、(野球の)巨人軍好きという共通項もあって、最近一番仲良くしているんです」と笑う彼女の若さの源泉には、若手との時間の共有もあるのだろう。

 未だ続くコロナ禍の中で、テニス界の先行きはまだ不透明なまま。それでも波形は、「今はいつでも試合に出られるようにスタンバイしています。来年の1月からでも、これが1年伸びたとしても大丈夫」と、泰然自若の体で構えている。

 野球観戦やおいしい食事を楽しみつつ、その先に追うのはもちろん、テニス選手が誰もが目指す、あのステージだ。
「やはり目標は、グランドスラム。2年前に予選に出て、でも勝てなかった悔しさがありますから」

 出場するのは、年々難しくなっているかもしれない……という疑念も、時折胸をよぎりはする。それでも揺らぎない声で、彼女ははっきりと言った。

「でもそこを目指していれば、良いことあるよなって気がしています」と。

取材・文●内田暁

【PHOTO】38歳の波形がベスト8入り。2020全日本選手権での女子選手プレー集
 

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