なぜ自ら大会を作ったのか? 伊達公子が語る“世界目線”のジュニア育成ビジョン

なぜ自ら大会を作ったのか? 伊達公子が語る“世界目線”のジュニア育成ビジョン

伊達はオーディションで選んだメンバーを集めて定期的にキャンプを開催し、自ら指導に当たっている。今回の大会創設も、そうしたジュニア強化活動の一環だ。写真提供:ヨネックス株式会社

それは、「至ってシンプルな流れでした」と伊達公子は言った。

 去る11月30日から12月6日にかけて、愛媛県松山市で開催された、ITF(国際テニス連盟)公認の国際ジュニア大会。その大会を、自ら“ゼネラル・プロデューサー”の肩書を背負い立ち上げた背景についてである。

 1990年代に世界の4位まで上り詰めた伊達が、ジュニア育成を目的とした“伊達公子×YONEX PROJECT(以下伊達プロジェクト)”を立ち上げたのが、昨年の晩春。14歳以下のジュニアを対象とし、数年後にはグランドスラム・ジュニア出場を1つの目標に掲げた。

 その目的地に向け選手が歩むべき道を考えた際、「ジュニアランキング100位を目指した時、まだプロではないので、資金面で難しくなかなか海外に行けない。でも日本開催の大会は少ない」という現実が重くのしかかる。

 ならば、世界に羽ばたくための順路としての国際大会を自分で作ろう――それが伊達の言うところの、「至ってシンプルな流れ」である。
  ジュニア育成および国内のテニス環境整備に乗り出した伊達が、ぶれることなく視線を向ける先が、「世界」である。

 ハードコート増設の必要性を繰り返し訴えるのも、ハードコートこそが世界で最も普及しているサーフェスだから。ツアーの主戦場もハードコートのなか、日本主流の砂入り人工芝に慣れてしまっては、世界から取り残されるとの危機感があるからだ。

 また、今回のジュニア大会を愛媛で開いたことにも、地方でテニスが広がる1つの起爆剤にしたいとの狙いがあった。

「私は、ずっとハードコートにこだわっていたし、あそこ(開催地の愛媛県総合運動公園)にはインドアも新設されたので、雨天でもできることが大切でした。

 それに大会を作るなら、ただ開催するだけでなく、ジュニアにとっても環境や経験をプラスにする場にしたいと思っていました。1つの大会を開催することで、ITFのルール改正などに関する理解度もその地域で広がっていく。国際大会開催が環境整備の一環になればいいし、その地域のジュニアたちも、世界を身近に感じる機会があることで刺激になると思うんです」

 それが、彼女が国際ジュニア大会を立ち上げた背景に広がる理念である。
  新型コロナウイルスの感染拡大により、国境を越えた移動が大きく規制される昨今では、日本国内の大会増加や環境拡充は、テニス人気の火を消さぬための必須条件であるだろう。

 それはジュニアだけでなく、ツアーレベルで戦うプロも同様だ。世界的に見ても、欧米で賞金大会やエキジビションイベントが複数開催され、日本でも「賞金大会やリーグ戦など、国内でもトッププロが参戦し、お金を稼げるシステムを作るべきだ」との声も一部では上がっている。

 ただそのような趨勢は、理念を失うと時代に逆行しかねないと、伊達は見る。

「何を目的にするかがクリアであれば、その(ドメスティックな大会を充実させる)考え方もありなのかなと思いますが……。私的な考えでいうと、環境がハードコートでもレッドクレーでもないなかでやっていくと、本来の目的がどこかを考えていかないと、本当の意味でのドメスティックに過ぎないものになってしまう。世界に向いている目線のレベルを、1つ下げてしまう側面もあると思うんです。

 このコロナ禍で、とにかく今は試合数をこなすことが目的だと割り切り、それを全員が認識しているのであれば、サーフェスを問わずやることもありかなとは思います。ですが完全にドメスティックになってしまうのは、私は違うかなと思います」
  あくまで目線は世界へ――。
 それこそが、彼女の中で変わらぬ哲学。同時に彼女が願うのは、テニスを含むスポーツの火そのものが、このコロナの時代で消えてしまわないことである。

「もちろん、こういう状況のなかで何が大切かと考えた時、スポーツが何より一番とはならないかもしれない。けれど見方を変えれば、今誰もがなかなか好きなことができず、目標を失いがちななかで、こういう時だからこそスポーツが存在し、観客もスポーツを見ることによってモチベーションを上げることにつながると思います。そうであってほしいと思うので、スポーツがなくなるのはできるだけ避けたいと思います」

 スポーツで人々に夢を与えるためにも、目指す先はより高い次元へ――。
 かつて自分が戦った世界に視線を定め、彼女はその舞台へと続く、順路を築いていく。

取材・文●内田暁

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