テニス選手、穂積絵莉の心のアップダウンと成長。「1日24時間では足りない」と初めて思った充実した日々

テニス選手、穂積絵莉の心のアップダウンと成長。「1日24時間では足りない」と初めて思った充実した日々

今年の全日本選手権2回戦で日比野菜緒と対戦し、「すごく良い試合ができた」と手応えを得た穂積。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

コロナ禍のテニス界では、上位選手だとグランドスラムやツアーの大きな大会に出場も可能だが、ランキングが373位にまで下がっている穂積絵莉にとっては、出られる大会がほとんどなかった。そこで、普段は時間をかけられない、プレーの細かい部分まで見直すことに決めた。

 例えば打点。本当に今打っている場所がベストなのかを検証した。すると打点が前過ぎて身体が開いていることや、フォアでは肩が上がりやすいことが判明。スタンスも他の選手を見ていると意外に狭いので、実際に狭くして打ってみると、「こっちの方が力が伝わりやすい」と実感もした。これらの改善点に取り組んでいくことで、ツアー中断中にプレーは着実に向上していった。

 そして、9月の高崎オープンを、再開後の初めての大会に決めた。練習の成果を出す時だと、異様に気合いが入っていたのは間違いない。「初戦の2日前ぐらいから緊張していて、人生で初めて試合前日の晩御飯、味がわかりませんでした」。自分にかける期待が大きかったぶん、緊張を乗り越えられずに試合に挑むことになってしまった。

「1回戦から全然良いパフォーマンスが出せなくて、何とか気持ちだけで勝っている感じ」となり、準決勝で敗退。「やってきたことが、ほぼ出せずに終わりました…」
  なぜ、やってきたことが出せなかったのか。全日本選手権を1カ月後に控えに、どうしていくのか。チームで話し合いの場がもたれた。練習の取り組み方、自分の気持ちの持ち方、私生活でどういう意識が必要か……。

 穂積は自分を見つめ直した。対応力や柔軟性が足りないと考え、日常でも「予定がズレた時にパッと切り替える」ことを意識するようにした。「受け入れる力が元々弱い」と思い、自分と真逆の意見でも、まずは受け入れて考えてみようと、普段の生活から自分を変えるように心掛けた。

 加えて、話していく中で気づいたのは、コーチと本人の「スピード感のギャップ」。自分は3カ月でできればいいと思っていたことを、コーチは1カ月でできたらいいと考えていたのだ。そこで「ゆっくりしている時間はない」と自分に言い聞かせて行動した。

 今まで3カ月でしていたことを、1カ月でするのだから、生活は大きく変わった。「人生で初めて1日24時間では足りないと思いました。やること多すぎて。今までのように動画を見たり漫画を読む時間がなくて、『えーもう寝る時間』と思ったり(笑)」

 それをやり遂げた穂積は充実した表情で言う、「すごく自分が変わったと思えた1カ月だったんです」
  そして迎えた全日本選手権。1回戦に勝ちはしたが、自分の実力の30%ぐらいしか出せなかった。「私、またこれなの?」と本人はショックを受け、前回同様にコーチに怒られると思っていた。しかし、コーチからは想像しない言葉が返って来る。

「もっと楽しみなよ」。この言葉が意図するところは、この1カ月十分にやってきたんだから、後は相手との駆け引きをするゲームを楽しむだけだよということだった。

 穂積は夜、この言葉について考えた。ジュニアの頃、ショットの組み立てを自然と感覚で行なっていたけれど、プロになって戦術についてすごく考えるクセがつき、試合では常に考え続けている。昔は感覚10割だったのが、今は考え9割・感覚1割ぐらいの状態。

「元々自分が持っていた感覚を大事にしよう。2回戦はもう少し自分の感覚を信じてやってみよう」と決意した。
  2回戦の相手は第1シードで世界71位(※大会時)の日比野菜緒。373位の穂積にとってランキングでは差を付けられたが、同年代で切磋琢磨してきた友人でもある。その日比野相手に、4-6、6-2、4-6のフルセットの激戦を演じた。

「1球目だけ、どこに打つかを考えて、後は全部感覚でやったら、すごく楽しくて、すごく良い試合ができたんです。これが今シーズン最後の試合になりましたが、感覚と考えるバランスが自分にとって大切だということが、わかった試合でした」

 穂積はこの約1年で大きく変わった。プレーの細部を修正し、実力を発揮できるように生活態度も変え、テニスを上達させるために多くの時間を費やし成長スピードを速くした。そして、試合での感覚と考えることのバランスの大切さが鍵になることもわかった。

 オフシーズンは引き続き、「成長できたと思えた1カ月を、もっと内容の濃いものにしていけば、テニスのレベルも人としても成長すると思うので、まずはそれを続けるのが課題です」と生き生きと話す。この1年で積み重ねた努力が、思うように発揮することができれば、2021年は“新生穂積絵莉”が見られるに違いない。

◆穂積絵莉/Eri Hozumi (日本住宅ローン)
1994年2月17日神奈川県生まれ。168センチ、60キロ、右利き。
8歳でテニスを始める。12年1月にプロ転向。シングルスでは13年全日本選手権優勝、17年全豪で本戦に出場。キャリアハイは144位(14年11月10日付)。ダブルスではツアー2大会に優勝、リオデジャネイロ五輪出場、18年全仏では二宮真琴と組んで準優勝。キャリアハイは28位(19年5月27日付)

取材・文●赤松恵珠子(スマッシュ編集部)

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