極度の緊張に襲われた大坂を覚醒させた、フィセッテコーチの言葉【全豪オープン】〈SMASH〉

極度の緊張に襲われた大坂を覚醒させた、フィセッテコーチの言葉【全豪オープン】〈SMASH〉

2年ぶりの全豪優勝へ向けて好調なスタートを切った大坂。(C)Getty Images

開幕前夜は、神経が高ぶって、眠りにつくことができなかった。

 まんじりともせず朝を迎え、試合前に会場でウォームアップを終えても、やはり緊張はほぐれない。

 初戦で対戦するアナスタシア・パブリチェンコワと最後に試合をしたのは、2019年10月の東レパンパシフィック決勝戦。タフな相手であることも、心が泡立つ理由の一つだ。

 最後に、このロッド・レーバー・アリーナで戦った時のことも、チラリと頭をよぎった。

 それは1年前の、全豪オープン3回戦。対戦相手は16歳の新鋭、コリ・ガウフ。大会屈指の好カードとして注目を集めた一戦は、大坂にとって「絶対に負けたくなかった試合」であり、ゆえに敗戦後は、かつてないほどに落ち込んだ悪夢的な記憶でもある。
  ただ、そのような緊張に襲われるだろうことは、「想定内」だったと彼女は言う。グランドスラム初戦前夜の浅い眠りも、すでに幾度も通ってきた道だからだ。
 それに今の彼女には、不安や弱さをさらけ出せる相手がいる。

「コーチのウィム(・フィセッテ)に、自分がいかにナーバスかを試合前に打ち明けたわ。そしたら彼は、私がどれだけオフシーズンに、厳しい練習をしてきたか思い出させてくれた。そして今がその成果を発揮する時であり、そのために何をすべきかを話してくれた」

 コーチとのそのような対話が、彼女を落ち着け、やるべきことを明確にした。

 試合開始直後から大坂は、緊張の痕跡などまったく見せることなく、フォアの強打を広角に打ち分けていく。第2ゲームでは、ベースラインはるか後方から鮮烈なウイナーを叩き込み、客席の3割ほどを埋めたファンの歓声を呼んだ。
  第1セットを6−1で奪った大坂は、以降も、アクセルを踏み込む足を緩める気配がない。第2セットは、奪った10本のウイナーに対し、エラーはわずかに3本。好敵手を1時間8分で圧する、完勝といえる内容だった。

 前述したような、試合前に密に話し合えるコーチとの関係性は、一年前には欠けていたピースだと大坂は言う。

「去年は彼の前に出ると、緊張してあまり話せなかった。でも今は、何でも話せるようになった。彼のオッチョコチョイな一面もけっこう見えてきたしね」

 大坂がそう笑えば、フィセッテも「去年の全豪オープンの後から、密にコミュニケーションを取るようになったんだ」と、大坂の言葉を裏付ける。
 「特にフェドカップ(昨年2月)の時に、じっくりと話し合った。去年の全豪の頃は、彼女が試合前にナーバスになっている時、僕は話しかけるべきかどうか迷い、結果、あまり話しかけなかった。だがそのことを彼女に聞いたら、『そんなことない、そういう時はむしろ話したい』と言う。だから昨年の全米オープンの時には、試合の前もよく話すようになり、信頼関係を築けたと思う」

 ちなみに去年のこの時期、大坂はフィセッテを「プロフェッサー」と呼んでいたが、「今ではもう、そんな風には呼ばれないね。ただの『ウィム』だよ」と、知性派で知られるコーチは苦笑いをこぼした。

 今の彼女は、自分の弱さを隠そうとはしない。

 緊張や不安を自明のこととして受け止め、その重圧を信頼できるチームスタッフたちと共有しながら、2年ぶりの全豪頂点奪取に向け、大坂はこれ以上ない好スタートを切った。

文●内田暁

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