公正取引委員会はアップルを牽制しているのか?

公正取引委員会はアップルを牽制しているのか?

@DIME アットダイム

■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議

 スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は公正取引委員会による携帯電話市場への関わり方について話し合います。

房野氏:公正取引委員会(公取委)が「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書を公表しました。通信サービスと端末が一体化された販売方法や、通信料から端末代金を割り引くやり方、割賦販売、中古端末の扱いについて、見直されるべきと指摘しています。また、その内容がAppleを牽制しているのではないかという指摘もあります。これについての考えを聞かせてください。


房野氏

石川氏:公取委の報告書の件は、業界内の人に聞いても知っている人があまりいなくて、水面下で動いている感じ。謎に満ちている雰囲気で、読み解く必要があると思っています。

 一番問題視されているのは、代理店が端末の価格を自由に決められないことらしくて、あるキャリアの場合は販売代理店がある程度コントロールできるけれど、あるキャリアの場合は価格をいじれないことになっているらしくて、そこが問題視されているのではないかという話を聞きました。ここが叩かれると面倒なことになるだろうし、『iPhone 7』にどう影響するかは注目だと思います。


石川氏

石野氏:報告書の内容は厳しいですね。あれだと“実質0円”どころか、月々の割引もどこまでならOKなのか、という感じで、素直に従うと端末は高くなるでしょうね。iPhone狙い撃ちというのも、まさにそうだと思うし、XperiaやGalaxyも巻き込まれるような内容になっている。だからこそ、安い端末が必要になる可能性がある。今の状態が違反ということになって公正取引委員会が入るとなると、キャリアは月々の割引をやりにくくなると思います。根底には、MVNOとの不公平な競争という状況があるとは思うんですが。


石野氏

石川氏:MVNOとの不公平な競争とはいうものの、MVNOは後から出てきた。先に主要キャリアが割賦販売をやっていたのだから、後から参入したMVNOは、それとは違う売り方でユーザーにお得感を出せばいい。割賦販売は実質的に10年も行なわれていて、なんで今さら叩いてくるのか理解できない。

石野氏:確かに遅いですね。叩くんだったら、ソフトバンクが「新スーパーボーナス」(2006年開始)を始めたときに叩けば、業界は変わっていたかもしれない。

法林氏:捉え方はすごく難しいね。公取委としては、自由に価格を決めていい、ということを大前提としているけれど、もし販売代理店が自由に価格を決めていいなら、「前のiPhoneが在庫で100台余っているから、この際、2台契約だったら2台目を安くして2万円で売ろう」みたいなことをしてもいいはず。自由にしていいいというルールは、本来はそうであるはずだから、“0円”になっても誰も文句はいえないはずなんだけど、かたや総務省の言い分だと0円販売はダメということになっている。回線に紐付いた売り方もダメだという。でも、どう売るかは自由のはず。つまり大原則が揺らいでいる気がしています。自由にやらせたいのか価格統制をしたいのか、はっきりしてほしい。公取委の言い分も分かるところはあるけれど、政府側としての考え方がぶれている。いったいどうしたいのかとユーザーは思うし、ユーザーとしては当然、基本的に安く買えればいいという気持ちがある。

 2年間同じキャリアを使って、端末を安く買える代わりに料金がちょっとくらい高くてもいいという人もいれば、月額1600円でデータは3GBしか使えないけれど、これで足りるし、端末代は別に5万円払うという人がいてもいいと思う。それを無理やり競争させる環境を作る必要があるのか。ましてや割賦販売にまで四の五のいわれる覚えはないという気がする。BMWとNISSANの車で残価設定ローンの率を同じにしなくちゃいけないのかということですよ。ちょっとおかしいよね。もし仮に分割払いはダメとなっても、キャリアは◯◯ファイナンスという子会社を作って、分割払いの手続きは隣の部屋で対応します、みたいなことになるだけ。

 公取委が突っ込むべきところは、調達を含めた部分の公正さ。たとえば同じキャリアのスマホを買っているのに、端末によってパケット代の単価が異なる設定になっているとか、割引率が違うとか。かつてiPhoneだけパケット代が優遇されていたことがあったけれど、それは対策した方がいいと思う。


法林氏

石野氏:iPhoneには今年の3月まで、1GB余計にもらえるキャンペーンが続いていましたね。

法林氏:ああいうのを指摘するべき。

石川氏:報告書に中古端末が国内に流通しないのはおかしいんじゃないかという指摘もありますが、キャリアにいわせると、海外の方が高く売れるとか手離れがいいということがあるらしい。高く買ってくれるところに売るのは当然です。

法林氏:当たり前のことだね。

石川氏:なんか、どうもあの報告書は、誰かが入れ知恵をしていて、それを鵜呑みにしている感じがするんですよね。あのMVNOかな、このMVNOかな、みたいな。

法林氏:浅はかな指摘が多いよね。中古車を街中の店で売ろうが、新潟に持って行ってロシアに売ろうが関係ない。「ウチはメルセデス専門店だから他の店より10万円高く買いますよ」っていうお店があっていい。「メルセデスは中東で高く売れるんですよ」といって海外に売ったって、どうこういうことではない。あの報告書は、根本的に突っ込みどころを間違っているところが多いのが気になりました。公取委は通信業界のことを、よく勉強してから言ってほしい。

石川氏:MVNOは、今の状況だからこそ存在価値がある。キャリアに対して、今の売り方や割賦販売を止めさせて、MVNOと同じ売り方でやらせたら、結果、MVNOが負けると思う。ある意味、大手キャリアが殿様商売をやっているからこそ、MVNOはありがたがられているわけで、なぜそれを解体してMVNO側に近づけるのか。そんなことをしたら、紆余曲折を経て最終的には大手キャリアしか残らなくなる。それは正しい競争政策ではないと思います。

法林氏:お役所はダメですよ。「こういう風にするべき」みたいなデザインを考えている人たちが、本当に業界のことを分かっているのだろうかと、すごく感じる。2007年の「モバイルビジネス研究会」のときからずっと違和感を持っています。でも直らない。

石川氏:キャリアの中には料金や端末の売り方について一生懸命考えている人がいて、販売代理店はユーザーに直接向かい合って端末を売っている。彼らは端末をどう売るべきかということを真剣に考えている。そういう人を差し置いて、総務省や公取委がああだこうだいっても説得力がないし、ユーザーニーズに合っていない。引っ掻き回すだけ引っ掻き回してバイバイ、みたいな形になっていて、なんともいえないですね。

石野氏:公取委は、コンシューマ向けサービスに対してどうこういう機関ではなくて、会社と会社の取引をチェックするのがメイン。インテルやハーゲンダッツが勧告を受けたのも、つい最近、アマゾンが立ち入り検査を受けたのもそう。本来入るべきはAppleとキャリア、ソニーとキャリアとかの関係だという気がします。そこに不公平な契約があるんだったら、直球で切り込んでいった方がいいと思う。この報告書は裏の意図が見えるんだけど、別なものに絡めようとしていて、すっきりしないものになっている印象です。

法林氏:違法なものを売っているわけではないので、それに首を突っ込むのはどうかと思う。

■Apple優遇は是正されるべき

房野氏:今回の件に、ダンピングや談合などの要素はあるでしょうか。

石野氏:そこに切り込みたいような雰囲気はちょっとありますけど、できないからまずは、という感じがする。

石川氏:Appleからキャリアに対して「iPhoneを優遇しろ」みたいな。いや、分かりませんが。


FeliCaへ対応した『iPhone 7』

法林氏:「ウチのiPhoneを扱いたいんだったら、iPhoneを優遇した料金プランやキャンペーンをしろ」といっているかどうか知らないけど。

房野氏:本当のところは分かりませんが、料金プランや月々の割引額から、明らかにiPhoneは優遇されてきましたね。

石野氏:アウトですね。

法林氏:公取委はそれを止めさせたい意図があるだろうし、確かにやめるべきだと思うんです。

石野氏:ただ、やり方として遠回しになっているんですよね。

石川氏:この間の「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」のときも、その議論があって、なぜiPhoneは優遇されているのかと指摘する有識者もいました。たぶん、そこが発端になっているのだろうという気はします。北さん(野村総合研究所上席コンサルタント 北俊一氏)辺りもそこを問題視していて、どうやったら追求できるかということでの今回の報告書になっているんだと思います。

法林氏:そういう状況があるからこそ、公取委の報告書が出る2日くらい前にAppleは広告を出して、こんなたくさんの雇用を生んだとアピールした。ただ、京セラ社員7万人を数に加えるのはちょっと違うよね。京セラはAppleの下請け会社じゃないんだから。

房野氏:公取委は、国益を守りたいという意図があるでしょうか。Appleはアメリカ籍で日本に税金が入らないから、というような考えはあるでしょうか。

石野氏:公取委のウェブサイトにも、「事業者と消費者の利益のために」と書かれていますから、主にBtoBで、独占的な地位を利用して公正な取引がされていないと、それが最終的に消費者の不利益につながるということで、それを止めさせるための機関でしょう。最終的には消費者のため。外国籍だから、ということはないと思います。裏の裏で何があるかは分からないけど、それをやっていたら外資系企業は日本に参入してこなくなるので。

法林氏:一番深いところに何かあるかもしれないけれど、基本的にはちゃんと企業同士が公正な取引ができるように考えている。僕らの仕事も同じことで、「来月から原稿料は2割引き」「消費税が10%になったので今年から内税」と言われても逆らえないという状態に対し、「それはダメ」と言える機関。

石野氏:そういうところにこそ切り込んでほしい。

■端末と通信一体化の商慣習を変える必要は本当にあるのか

房野氏:根本的な質問なんですけど、携帯電話業界はそんなにダークな取引をしているんですか?

一同:(苦笑)

石野氏:いやあ……まあ、クリーンかそうじゃないかといったら、完全にはクリーンじゃないかな(笑)

法林氏:微妙ですね。今だから言えるかな……フィーチャーフォン時代は、メーカーさんが、もう少し端末を買い取ってほしいというときに「押し込みに行く」という言い方をしていたのを聞いたことがあります。「次のモデルが出るから、最後に◯十万台押し込み」みたいなこと。それが売れればいいけど、売れなくて不良在庫として残ることもある。結果的に料金に影響するとなるとマズイ。

石川氏:端末と回線を分けて売るべきという議論があって、確かにそれが理想かもしれないけど、それはパソコンと同じ買い方になるということ。パソコンを買って、インターネットにつなぐにはプロバイダ契約をして、自分で接続設定して、すべて使えるようにするというのはハードルが高いわけですよ。
 iモードがすばらしかったのは、端末とiモードがセットになっていたこと。店頭で端末を買えば通信料込みの端末の代金になっていて、すぐにインターネットやメールが使える状態になっているのがユーザーに受け入れられた。だからこんなに爆発的に広まった。

 格安スマホは端末とSIMカードを別々に買えますけど、結局、イオンモバイルはじめ楽天モバイルも他のMVNOも、端末とSIMカードをセットにして売っている。このことを考えると、日本人は端末と通信契約をセットで買う方が分かりやすい、安いと思っていて、そこには逆らえないと思う。もう十数年続いている商慣習なので逆らえないと思うし、それでみんなが使いやすいと思っているなら、いいのかなという気がしますね。

石野氏:バラバラで売っているところは、世界的にもそんなにあるわけではない。バラバラで売るならキャリアショップはいらなくなるけど、どこに行ってもある。とはいってもiPhoneとGalaxyで月々の割引金額が2倍以上違うとか、そういう不公平なところは、ユーザーからするとおかしいと思う。

石川氏:Galaxyの割引額を上げればいい。

石野氏:でも、この流れだとiPhoneをGalaxyに合わせる感じになりそうな気がしますね。

房野氏:ユーザーにとってはデメリットになりますね。

法林氏:今までは、端末だけ、回線だけ買うという選択肢がなかった。そこにMVNOが出てきたことで、選択肢が増えたことは良かった。ユーザー10人がいたとして、8人はキャリアショップで買うかもしれないけど、残り2人が端末と回線をバラバラで買える環境が用意されているということは大事なこと。それを否定してはいけないし、その権利は守るべきだけど、だからといって少数派を伸ばすために、多数派の買い方を歪める必要はないと思う。さらに、8人のうちの特定メーカーの製品だけ優遇するような売り方は、ちょっと違う。

石野氏:月々の割引額をある程度そろえちゃえば済む話。大手キャリアの通信料は高いんだから、そこに割引の原資が含まれているわけで、公取委の報告書は総額を見ていない。端末の価格だけで比較すると公取委の指摘通りかもしれないけれど、通信料込みで考えると、MVNOが3000円も割引できるはずがない、マイナスになっちゃう。
 とはいいつつも、端末ごとに割引額がバラバラで、大手キャリアでミッドレンジ端末が売れないのもそれが理由。iPhoneが3万円で売られていたら、京セラがいくら安い端末を作ったって売れない。そこが是正される必要があるのは昔から思っているところ。もっと早くやってもよかった。

房野氏:iPhoneは、海外では日本のように優遇されていないんですか?

石野氏:なくはないですけど、ここまで安くないですね。

石川氏:それでいったらソフトバンクが悪いんでしょう。

石野氏:それはそうだ。

法林氏:最初にソフトバンクがiPhoneを優遇したのがまずかった。

石野氏:一方で、そうしなかったら、ここまで普及しなかったという可能性もある。あれはリスクをとった経営判断といえばそうだし、あのときソフトバンクは3位だったので、機種を平等に扱うような体力もなかったでしょう。

石川氏:一応フォローしておくと、これだけiPhoneが普及したからこそ、iPhoneベースにしたいろんなサービスが出てきた。雇用も生まれたらしいしね。

......続く!

次回はキャリアサービスを改めて考えてみます。ご期待ください。


法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。


石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。


石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。


房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。

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