ASUSジョニー・シー会長が語る「禅」「卓球」「稲盛和夫」

ASUSジョニー・シー会長が語る「禅」「卓球」「稲盛和夫」

@DIME アットダイム

日本でも、ZenFoneシリーズがSIMフリースマートフォンとして人気を呼び、知名度が高まっているASUS(エイスース)。今回、『ZenFone 3』『ZenBook 3』などの発表のために来日したジョニー・シー会長に、インタビューする機会を得た。普段持ち歩いているアイテムから、仏教の熱心な信者としても知られるシー会長にとって、禅とは何か。製品のデザインや経営にどう活かされているのかを語ってもらった。


ジョニー・シー会長はアジア人の経営者ではまれに見るプレゼン能力を持つことで知られ、発表会も非常に盛り上がる。価格発表の際の「ドヤ顔」も見所のひとつとなっている。

●メモはZenFoneのカメラや「OneNote」を活用

――普段持っているアイテムを見せていただけますか?

「常に身につけているのは、『ZenWatch』、スマートフォンは『ZenFone 3』、PCはもちろん『ZenBook』 3ですね(笑)。車の中では、新聞の気になるニュースをZenFoneのカメラで撮影します。クラウド(OneDrive)にアップして、後でPCでもチェックできるようになっています。メモは、『OneNote』のアプリを使用しています。自分で考え続けていることを繰り返し書いては見直しています。

――たとえばどんなメモが?

「これはプレゼンに必要だと思う要素です。<まずは聴衆を愛する><情熱を持つ><自社の製品に誇りを持つ>などと書いています。プレゼンは原稿も用意しますが、それだけではなく、どうしたら聴いて下さるか、皆さんの近くに行けるか。言葉以外の要素も大事だと思っています。言い換えれば、右脳と左脳のバランスです。もっとも右脳と左脳のバランスが優れていた人物としては、レオナルド・ダ・ヴィンチがあげられるでしょう。マネジメントでもエンジニアリングでも、左脳だけで考えると見失うことがあります」


ASUSのキャラクター「禅太郎(英語名Zenny)」のトラベルポーチに小物類をまとめている。「私の持ち物だと一目でわかるでしょう(笑)」


「薬は、中国式ののど飴に、日本の風邪薬。時差が大きいアメリカやヨーロッパへ行くときは時差ボケにならないようメラトニンを服用しています」


シー会長の『ZenFone 3』。LINEはプライベートでも仕事でも頻繁に使用しているという。


「OneNote」にまとめられた「禅」に関するメモ。入力は、スマホとPCの両方で行う。

●卓球とビジネスの共通点

「これは卓球についてのメモですね。私は学校時代に卓球をやっていました。最近は忙しくて自身がプレイすることはありませんが、トッププレイヤーから学ぶことはたくさんあります。少し前まで強いのは中国人の選手ばかりでしたが、リオオリンピックでメダルを獲得した水谷隼選手は、すばらしいプレイヤーですね」

――卓球に関してはどんな内容で?

「<姿勢を低く><勢いを付ける><身体のバランス><バリエーション>など、プレイを見て気づいたことを書いているのですが、これらは、ビジネスにも共通して重要だと思います。

 たとえば、卓球では相手が強いからといって防御に走ってしまいがちですが、それでは負けてしまう。コートの角や後ろに追い込まれ、最終的に打ち込まれてしまうのです。ビジネスでも、会社が2番手であっても、機を見て攻撃しなければならない。これは、孫子の兵法にも似ています。卓球もビジネスも、禅の瞑想でも共通することですが、すべての瞬間が修行(プラクティス)なのです」


身のこなしが軽いシー会長。卓球で培われたこともあるのだろうか。

●シンプルさとエンジニアリング

――『ZenFone 3』にも禅のマインドが反映されていますか?

「もちろんです。ひとつはシンプルさです。スマートフォンはディスプレイがガラスですから、シンプルさを追求するならば、なるべくガラスで覆えばいい。そこで『ZenFone 3』は、前面と背面の両方を2.5Dガラスとしました。

 フルメタルボディの『ZenFone 3 Deluxe』は、シンプルさの追求ではもっとできることがあると思います。今回は、フルメタルでありながら、アンテナの線を消すというiPhoneではできなかったブレイクスルーを成し遂げています。

 シンプルに、と言うのは簡単ですが、それを実現する優れたエンジニアリングによる問題解決が必要です。最終的には精神的なところに戻ってきます。私たちは企業理念に<In Search Of Incredible(挑め。想像を超えたその先へ。)>を掲げていますが、常にインクレディブル(想像を超えた先)を目指し、成し遂げたいと思っているのです」


エンジニア出身ということもあり、製品についての語りは熱い。

●日々の一瞬一瞬が修行

――どんな本を読まれていますか?

「常に読んでいるのは、やはり禅や仏教に関する本です。これは台湾人の作家(蕭平實氏)が書いた本ですが、正しく仏教を理解するうえで、非常に価値の高い本だと思っています。いつもカバンに入れて読み返し、気づいたことは直接ページにメモしています。

 こちらは、京セラやDDI(現KDDI)を創業した稲盛和夫さんの本です。単にマネジメントだけを語るのではなく、哲学的であり実践的。従業員に精神的、物理的な利益をどう与えるか、どう実践するかを、ざっくり語るのではなく真にどうしたらよいか、実際のやり方が書かれています。

 DDIを創業されたときも、多くの人の利益になると考えて会社を作られた。お金だけではなく、哲学的なことからスタートし、そして確固としてやり遂げられた稲盛さんを私は尊敬しています。

 私にとって禅とは、シンプルさや美しさ、そしてバランス。日本の禅だけでなく中国の禅も深く理解したいと思っています。仏教も禅も非常に深くて豊かなものです。平和的に見えてパワフル。本当の意味で理解するには、山に登ってひとり瞑想するだけではダメです。もっとアクティブに、自分の生活の中で理解しようとしなければいけない。毎日のビジネス、経営においても、すべての瞬間が修行なのです。

 ビジネスは禅だと思っていますし。私にとっては、デザインも禅であれば、プレゼンテーションですら禅なのです」

 
中国語に翻訳された稲盛和夫氏に関する本(原著は皆木和義『図解 稲盛和夫の経営早わかり』)。

●インタビューを終えて

 かつてスティーブ・ジョブズ氏は、Appleをテクノロジーとリベラルアーツの交差点にいる企業だと説明した。シー会長の話に、このエピソードを思い起こす人も少なくないだろう。ジョブズも禅に強い影響を受け、シンプルさを製品に求め続けた。

 シー会長は、Zenの名を冠した製品だけでなく、会社経営においても東西の思想を強く意識している。以前、シー会長から、生産管理において東西の手法(モトローラ社の「シックスシグマ」と、日本のトヨタ生産方式)を取り入れたと聞いたことがあるが、今回はマネジメントにおいてもピーター・ドラッカーをはじめとする西洋的な手法と、稲盛和夫氏の哲学を同時に実行しているという話が聞けた。

 ASUSは、PCのマザーボードという、ロジックが追求される製品から会社が立ち上がり、より感性を必要とするPC製品やスマートフォンといったデバイスを広く売る会社に成長した。ASUSは家庭用ロボットへの参入も計画しており、エンジニアリングの力と禅のマインドがさらに必要とされる局面に立つものと思われる。個々の製品だけでなく、ASUSという企業の今後に注目したい。

文/小口 覺

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