【知識】コンセント経由でネットにつながる「PLC」って今どうなってるの?

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十数年前、「家庭のコンセントにつなぐだけでインターネットにつなげられる機器が発売される」という記事を読んだ記憶はありませんか? 筆者自身、そのニュースに接して「おっ、何だかすごい!」と期待感を持ったのを覚えています。それがまさに、今回のテーマである「PLC」なのですが、今となっては「あれ? その後はあんまり聞かなかったな」という実感も…。果たして「PLC」とはどういうものなのか。そしてどういう状況にあるのか。今もPLCアダプターを発売している株式会社アイ・オー・データ機器で、遠慮なく聞いてみました!

■「家中でつながる」が実現できなかった
──そもそもの話になりますが、この「PLC」というのはどういうものなんでしょうか?

岩丸 「PLC」は「パワー・ライン・コミュニケーション」の略になります。例えばご家庭内のA地点にモデムがあって、PCなどネットに接続する機器があるのは別の部屋のB地点だとします。この場合、通常はA地点のモデムからB地点までLANケーブルを這わせて、インターネットに接続しなければならないですよね。でもこのPLCのアダプターをB地点の近くにあるコンセントに挿すだけで、家庭内の電気配線を使ってデータ通信が行えるという技術なんです。

──なるほど。データがLANケーブルではなくて電気配線を通じてやってくると。となると最大のメリットは“ケーブルがゴチャゴチャすることがない”ということになりますか?

岩丸 そうですね。ネット接続用のLANポートがリビングの隅にしかないという場合でも、コンセントならだいたいどの部屋にもありますよね。LANポートにつないだモデムが1階リビングのA地点として、2階のB地点までケーブルを這わす必要がなく、2階の部屋にあるコンセントにこのアダプターを挿すだけでいいんです。これが最大のメリットかなと。

──PLCアダプターを使うには、家庭用のコンセントそのままでいいんですか?

岩丸 はい。変換器を噛ませたり、何か特別な設定をするという必要はなく、そのまま使っていただくことが可能です。

──そう聞くと便利そうだなーとは思うんですが、それにしては現状、普及しているという話をあまり聞かないような…。

 ごもっともです。PLCの第1世代が登場したのは2006年終盤なんですが、私たちも販売を開始した時はもっと広がると思っていましたし、当初はけっこう話題にもなっていました。ですが私たちも実際に使ってみたところ、「家中でつながる」ということが実現できなかったんです。

──それはなぜなんでしょう?

 ひとつには、PLCが最初に登場した時に規格が3つあったことが挙げられます。弊社はパナソニックさんが主導した「HD-PLC」という規格を採用しているんですが、他にアメリカ主導の「HomePlug」、ヨーロッパ主導の「UPA」がありました。3つの規格には互換性がなく、家電量販店に複数の種類が並ぶことになり、お客様も「これってどうなの?」という状態だったんです。現在、この中ではHD-PLCのみが残っていて、それとは別に後から出てきた「G3-PLC」という規格も存在しています。

他にも大きな要素として、法律の問題があります。PLCと言いながら、コンセントに電波を流すんですが、アマチュア無線の帯域を使ってしまうので反対運動的なものも起こりまして。ただHD-PLCはノッチフィルタというものを使ってアマチュア無線の帯域の周波数をカットしてるんです。さらに、法規制の値よりも出力をちょっと下げていました。何が起きるか分からないというところもあって、少し控えめにしていたんですね。そのために、実際のご家庭では1階と2階でつながらないという事態が多く起きてしまいました。

──最大のウリが実現できなかったということですね。

 1階と2階の間というのは、電線の距離が単純に長いというのもあるんですが、分電盤の問題もありました。簡単に言えば200ボルトで入ってきた電圧を、分電盤で100ボルトと100ボルトに分けて、L1、L2というように各階、各部屋に流しているんです。その分かれる部分でPLCの電波が減衰してしまうという特徴がありました。場所によっては同じ部屋でもコンセントによってL1、L2が分かれているというところもあって、この影響を受けてしまうんです。第1世代の商品ではそういうことがあって、せっかく期待して買っていただいたのにがっかりさせてしまったということはありました。

今は第3世代になっていまして、世代を経るごとに抑えていた出力を上げたり、ノイズの耐性を高めたりと地道な改良を加えて、かなり改善されています。

──出力を上げていったというのは技術的なことよりも、「これぐらいまでは大丈夫だろう」と見極めて開放していったということなんでしょうか?

 そうですね。つながらないという事態を解消する必要がありましたし、出力を上げても不要な電波が出ないことが確認できたということもあります。

──では、今のPLCアダプターが一番活躍しそうな状況というのは、どういうところでしょう?

岩丸 これはご家庭向けというよりは法人向けの話になってしまうんですが、工場や倉庫、それから大きなビルなど、使う階に逐一LANのポートを増設することが困難という状況では、長距離でも、あるいは部屋やフロアをまたいでもネット回線を通すことができるので、使っていただきたい場面ですね。ご家庭ですと、無線通信が難しい奥の部屋、特に鉄筋のマンションなどの場合は推奨できる環境かなと思います。

──最近はさまざまな技術によってWi-Fiの届く範囲が強化されていますよね。そことの比較ではいかがでしょう?

 比較というわけではなくて、電波というものはどうしても鉄板を越えることができないんです。そういう環境では無線LANは使えないですよね。でも電気配線が通っていれば、PLCは利用することができます。なので、無線LANやWi-FiとPLCはあまり競合しないと思っています。登場した当初はWi-Fiと比較するプロモーションもしていたんですが、今となっては「スマホとPLCはつながりますか」と言ったら、当然つながらないわけですよ。

──PLCは有線接続が前提ですからね。

 でも、先ほど岩丸が言ったように鉄筋の建物や地下で電波が届きにくいという場所に電波を通すことはできます。その意味では無線を補完する存在なのかなとは思います。

──子機にルーター機能とWi-Fiの機能を持たせた商品は存在したことがあるんでしょうか。

 他社では過去に発売されてましたね。ただ当社では製品化に至る需要は正直、見出せていません。

──登場した当初はWi-Fiもそれほど普及していませんでしたよね。スマホもなかったわけですし。そう考えると、時代が変わったことによってニーズも変わってきたのかなという印象がありますね。現在の需要は法人や工場などが主なんでしょうか。

 そうですね。昔は量販店に売り場があったんですが、今は…あったっけ?(苦笑)

岩丸 大きいところなら…というところですね。弊社の本社がある金沢のお店では置いていただけていないというのが現状です…。

■家庭ではWi-Fiでいい!?
──今も開発を続けているのは、それに見合う需要があるということなんでしょうか。それとも、技術として継承していこうということなのか…。

 正直、両方ですね。やめてしまうほど需要が少ないわけではないんですよ。

──あっ、そうなんですね。

 我々はPLCが日本の法律で認められた時点からのプレイヤーでもあり、今残っているのは弊社とパナソニックさんだけなんですね。パナソニックさんとはHD-PLCのアライアンスもあって、その責務みたいなものもありますし。

──今後、PLCが新たな展開を迎えることは?

 すでにリリースは出されているんですが、2年ほど前のCEATECで、PLCの新しい世代のお知らせがありました。第4世代ですね。パナソニックさんは「HD-PLC Quatro Core」と呼んでいますが、速度が4倍になってGbps級になるなどの大きな進歩があります。まだ製品化はされていないんですが。

──Gbps級になると、家庭にも普及しそうじゃないですか? これからは4K動画ももっと一般的になってくるので、そこにも有利に…

 それが…残念ながら、そこに乗れそうにはないんですよ…。

──ええっ! それはまたどういうことですか?

 4倍になってGbps級になるというのは、電線以外で電波を通した場合なんです。

──ん? PLCというのは、イコール「電線に電波を乗せてネットにつなぐ」ということでしたよね? それが「電線以外」とは?

 実はPLCは電線以外でも、TVの接続などに使われる「同軸ケーブル」でも使用可能でして、「4倍」「Gbps級」というのはこの場合の話なんです。電線を使う場合は日本の法律で速度が決められてしまっていて、今の速度を超えられないんですよ。

──何と! では現在の第3世代でほぼMAXのスピードが出ているということなんですか?

 そうなりますね。なので、法律の制限がない電線以外のケーブルではもっとスピードが出るということなんですが。あと海外では、4倍はいかないまでも、もっと速度が出せると思います。

──そうですか…。国内では今のところ、ちょっと残念な感じですね…。PLC関連で何か明るいニュースはないんでしょうか(笑)。

 昨年ぐらいからパナソニックさんが家電へのPLCの組み込みを加速させるとおっしゃっているので、そこは新たな展開につながるかもしれません。洗濯機とか冷蔵庫とか、産業向けの用途ですね。ただ、それに伴って「HD-PLC」の名称を「IoT-PLC」に変えるということらしくて。名前が変わったから何が変わるのかというのは、私たちもよく分かってはいないんですけども…。

──ということは、これからのPLCというのは「家電を購入したら知らないうちに使っていた」という感じになってくるんですかね?

 そういうイメージですね。ただ一方で、パナソニックさんは昨年、ソフトバンクさんと組んで「NB-IoT」を進めていくという発表もしてまして。
NB-IoT=Narrow Band IoTとは、狭い周波数帯域を使った通信規格で、パナソニックとソフトバンクは、この規格を使ったインターネットに常時接続する家電の実証実験を開始している。
──うーん、混沌としてるんですね(笑)。

 まあ、「NB-IoT」は通信料が発生してしまうというデメリットもあるんですけどね。PLCではそれはないので、住み分けはできるのかなとは思っています。

──なるほど。今回、もしかしたらPLCに何かバラ色の未来的な展開があるのかもと思って伺ったんですが…。

 うーん、3ヵ月後、半年後とかでしたら、もしかしたらそういうお話もできるのかもしれないですけどね。まあ現状ではニッチな需要なんですよ(苦笑)。先ほど、鉄筋の建物では有利という話もしましたが、Wi-Fiの電波は反射して届くものでもあるので、壁や扉が全て鉄板だったりしない限りはWi-Fiで届いちゃうんですよね。

──ということは、家庭での用途に関しては…。

 Wi-Fiでいいと思います。

──そうですか…(笑)。

 環境的にどうしても無線がつながらない時に、「あ、PLCがあったな」と思い出してもらえればいいかなと。

岩丸 実は私の自宅は、まさにそういう環境なんですよ。

──おっ、身近に利用例が!

岩丸 自宅で使っているプリンターの置き場所が、いろんな事情でどうしても電波の届かないところしかなくてですね。それでPLCでつないで使っています。まあ、非常にレアケースだとは思うんですが…。

──そういう例もなくはない、ということですね。

岩丸 はい、「無線ではどうしてもつながらない、どうしよう?」という状況の時に、諦めずにPLCのことを思い出していただければと思いますね。

──よく分かりました(笑)。では最後になりましたが、御社のPLC製品のラインナップについてご説明いただけますか?

岩丸 現在、「PLC-HD240」のシリーズと、法人向けの「PLC-HM240E」の2系統を展開しています。「PLC-HD240」シリーズは一般的なPLCアダプターで、親機と子機がペアリングされた状態で販売されていますので、ご家庭のコンセントに差し込むだけで接続が可能です。「PLC-HM240E」はマルチホップを採用していまして、親機と子機の1対1通信だけでなく、子機から別の子機につなげられて、通信距離をさらに伸ばすことができるというものです。

──製品を見ると、すごくシンプルですよね。

岩丸 そうですね。基本的にボタン1つで接続できますので、煩わしい設定などは必要ありません。また弊社では、ご購入いただいてもネットワーク接続ができなかったという場合に購入代金をお返しする「ペイバックシステム」を採用していますので、安心してご購入いただければと思います。

──PLCについて、非常によく分かりました! 失礼なことばかりお聞きしてすみません…。

 いえいえ、マーケティングには反するのかもしれませんが、「つながらない場合もある」ことはこちらとしても知っておいていただきたいんですよね。「どこでもつながりますよ!」と言う手もあるんでしょうけども、それでガッカリさせてもいけないですし。適材適所で使っていただければと思います。

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(取材・文/高崎計三)