自分の中から何かが抜け落ちていく恐怖 認知症の人視点で描いた漫画が話題

自分の中から何かが抜け落ちていく恐怖 認知症の人視点で描いた漫画が話題

吉田美紀子さん(@YoshidaMikiko)提供

 高齢化が進んでいる日本。寿命の延びと共に認知症を患っている人も右肩上がり。今や高齢者の7人に1人の割合で認知症患者がいるとも言われています。しかし、認知症についてあまりよく分かっていないまま介護している人も多く、介護疲れで家庭内のトラブルが発生する事も時折耳にします。そんな現状の中、認知症の人視線で見た日常をとらえた漫画がネットで話題になっています。

 コミックス「40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら」「中年マンガ家ですが介護ヘルパー続けてます」の著者であり、現在もヘルパー業と漫画家業を掛け持ちしている、吉田美紀子さん。介護職として認知症の人とも関わっていく中で、介護サービスを利用している認知症の人視線の漫画をツイッターに投稿しています。

 この主人公の女性は、要介護度は3程度、着替えや排泄をたまに失敗。調理や掃除NGというレベルで、家族の顔は思い出せる時もあり、ヘルパーの顔も見覚えあるけど誰かは認識できないという、認知症でありがちな人をイメージして描かれています。

 ある日、主人公はお散歩に出かけますが、いつも歩いているはずの道が分からなくなって不安になります。帰宅する事ができ、いつも通り何か作ろうと台所に立ちますが……見知らぬ誰かから頭ごなしに怒られてしまいます。「何もしなくていいから!何度も何度もやめて!」何度もって、変な事いう人だわ……そう感じる主人公。

 そして、夜……。ふと夜中に目が覚めると、見知らぬ場所で目が覚めたと感じる主人公。不安と恐怖で思わず部屋の外へ出ようとすると、「家はここ!もういい加減寝て!」と、また見知らぬ人が怒ります。「どうして私を閉じ込めるの なぜ知らない人と私はいるの」不安と恐怖のまま、「私を家に帰して」そうお願いしたら、怖い人が先に震えて泣いた……。

 家族からしてみれば、自分の親を引き取って面倒を見ているのに何度も同じ事を繰り返し、自分の顔すら忘れられ、言っている事が通じない空しさと悲しさについ怒りを覚え、そして辛くなって泣いてしまう……そんな状況です。

 認知症の人が一番恐れている事は、自分の中から何かが抜け落ちていくという事。それはいつもやっている事ができなくなっていく事であり、誰が誰なのかを認識できなくなってく事でもあり、できていた事ができなくなっていく事。トイレの失敗もよくありますが、汚れた下着を自分で洗う事すら考えつかなくなってしまい、家族に怒られるから……と、タンスの奥にしまい込んでしまう事もあります。記憶も行動も、自分の中から知らず知らずのうちに抜け落ちていく、だけど何が抜け落ちていくのかすら分からない。認知症を患っている大半の人が、不安と恐怖に苛まれています。

 しかしその一方で、若い頃にやっていた仕事や強く記憶に残っている体験はずっと残っている事も多く、手芸が得意だった認知症の人に何か作ってもらうと、意外にも立派なものが出来上がる事もあります。また、記憶が昔に巻き戻ってしまう事もあり、早朝に外に出ようとしている認知症の人についてその人生を紐解いてみると、長らく新聞配達の仕事に就いていた、という事もあったりします。

 この漫画を描いた吉田さんはヘルパー歴5年。「介護に関する記事やテレビの特集でどうしても抜け落ちてしまう視点、考え方が歯がゆくて描いてみました。介護する側も大変なのはよーく分かっています。理解することは難しくても、相手への想像力を働かせてみるのも介護と言えるのではと思っています。」と、漫画を通して伝えたい事を語ってくださいました。

 家族で介護をしていくのはかなり大変な事です。親族で持ち回りで介護をしても、介護の方法で意見が食い違ったり、介護を受ける人に振り回されて介護うつ状態になる人も少なくありません。これだけ要介護者・認知症患者が増えている現代、世間体など気にする必要はなく、むしろ隣3軒どころか町内会でも「認知症の家族でこういう行動があるので見守ってください」といった、街ぐるみで見守る体制が整うと、少しは家族の負担が軽くなるのではないでしょうか。そして、家族は認知症の人が何を思い、感じているか、過去を紐解いて今の状態がどう結びついているのかを見てみると、一見不可解と思える行動に理解が繋がるかもしれません。

 そして、どうか家族だけで介護地獄に陥る前に、福祉サービスを活用してください。その為の介護職であり、デイサービスや老健施設なのですから。介護職の人も、利用者さんの歴史を紐解いて、一人一人の気持ちに寄り添った介護ができると本当のプロだと言えると思います。筆者も、約20年の看護職のうち8年にわたり老健施設での認知症看護にあたってきました。「困った利用者さん」と感じられる人の背景を紐解いていくと、実は困っているのはその人自身である事もよく分かります。その気持ちを受け止めた上で、言葉をかけていく、行動を誘導する事も大事なんです。介護のプロと家族がお互いに情報を交換し合い、団結してく事が介護を続けるにあたって大事な事ではないかと思います。

<記事化協力>
吉田美紀子さん(@YoshidaMikiko)

(梓川みいな / 正看護師)

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