日本のキャッシュレス化の次のステージを示す「WeChat Pay」

日本のキャッシュレス化の次のステージを示す「WeChat Pay」

決済手段だけではないWeChat Payの狙いとは

 7月16日に阪急阪神百貨店を「WeChat Payスマート旗艦百貨店」として認定した共同記者会見に登壇したテンセント・ホールディングス WeChat Payのフリーダム・リー副総裁は、月間アクティブユーザー8億人以上を誇るスマートフォン(スマホ)決済サービス「WeChat Pay」が加盟店に提供する三つの効果について語った。いずれも、スマホ決済先進国の中国企業ならではの百貨店をはじめとする小売業のマーケティング機能をサポートするもので、ポイント還元競争に疲弊する国内の「Pay競争」とは異なる、一歩先のステージを走っている。
●データで可視化してサービスの改善に活かす
 「WeChat Payは単なる決済手段ではない。そこから派生するマーケティング機能が加盟店の課題を解決する」と語ったリー副総裁は、具体的に次の三つの課題解決を掲げた。(1)中国人旅行客が来店したときの快適な決済体験とサービスの提供、(2)来店客が再度来店したいと思うリピート客化の体験、(3)決済金額の向上による売り上げの最大化。
 最初のショッピング体験の向上では、日本語が話せない訪日中国人旅行客が感じるストレスの解消がある。これは逆の立場で考えれば、海外旅行する際に英語や外国語が話せない日本人がショッピング時に感じるストレスと置き換えることもできるだろう。
 WeChat Payは、2018年から阪急うめだ本店のレストラン5店舗に「レストランQRコードオーダー」を導入。多くの中国人のスマホに入っているチャットアプリのWeChatを使って、テーブルにあるQRコードを読み込めば、料理の画像や中国語で書かれたメニュー、使われている食材などが表示される。ユーザーはそれらをチェックして、自分の食べたいメニューを選べば、店員を介さずにオーダーが通る仕組みだ。
 また、WeChat Payでその場で決済されるため、会計時のストレスもなく食事が楽しめる。これらの体験は、中国人が自国で使っているのと同じなので、使う側のストレスがないのも当然だろう。「最初は1店舗からテスト運営して一抹の不安はあったが、中国人客の評判がとてもよかった」とリー副総裁はRQコードオーダーの手応えを示した。
 実は、導入する飲食店側にもメリットが大きい。オーダーをとるときや会計時に中国語が話せるスタッフを置かなくても済むし、注文内容と異なる料理を提供してしまうといったトラブルが回避できるからだ。
 また、リー副総裁がマーケティング機能を強調するように、レストランQRコードオーダーから得たデータから、何をどのぐらい消費したかの可視化ができる。どのようなメニューがどのような人に好まれるのかといった分析は、今後のメニュー改善に役立つ手掛かりとなるわけだ。
 ほかにも、阪神阪急百貨店では19年からAI(人工知能)を活用した「店内案内」を導入。看板を見たり、店員に聞いたりすることなく、WeChatの公式アカウントにキーワードを入力するだけで目的のフロアまで案内してくれる。
●本質は「売り上げの最大化」
 次に、再度来店したいと思わせるリピート客化については、19年に導入したVIP顧客クラブの会員カードの電子化とWeChatの公式アカウントがある。
 中国人は財布を持たないため、物理的なカードを持ち歩かない。そのため、せっかくカードを発行しても買い物する際に忘れたというケースが多かったという。会員カードを電子化することで、スマホを持っていれば常に使える状況が可能になる。
 もう一つは、手書きの記入や証明書を照らし合わせるといった煩雑な手続きが電子化することでなくなるということ。「WeChatに登録している保存データが自動で反映されるので、ほぼワンクリックでカードの発行手続きが完了する」(リー副総裁)。
 電子化された会員カードは、WeChatの公式アカウントと連動しているため、SNSを通じて会員とコミュニケーションをとることができる。ユーザーにとっても、困ったときにSNSで相談できるといった安心感がある。
 最後の売り上げの最大化については、旅行前、旅行中、旅行後まで、すべてWeChatを通じてワンストップでコミュニケーションできる点を挙げる。阪急阪神百貨店の荒木直也社長も、「スマホを使ったショッピングジャーニーは日本よりも中国の方が数年進んでいる」と、その効果を実感する。
 旅行する前は、WeChatの公式アカウントで百貨店の宣伝や紹介、ブランド認知を上げる。ブランドを認知した中国人が来日したときには、WeChat Pay内に「お得なクーポンまとめサイト」などを通じて買い物を楽しんでもらう。さらに、来店後もクーポンサイトを通じて購入意欲を刺激することができる。
 旅行が終わって帰国後も、公式アカウントを通じて次の新しい情報を入手することができる。このようなSNSを通じた体験が拡散されることで、新しい顧客の獲得にもつながる。「従来の決済手段では得られないセカンドマーケティングができるのもWeChatならではのメリット」とリー副総裁は語る。
 日本では、スマホ決済サービスによるキャッシュレス化の取り組みが始まったばかりということもあって、クーポンや割引などが注目されがちだが、キャッシュレス化の意義や本質は、顧客のショッピング体験のトランザクションをデータにして可視化することで加盟店のマーケティングに活用して売り上げを最大化することにある。間違っても、導入コストばかりかかって売り上げが下がるということがあってはならない。WeChat Payの取り組みは、日本のキャッシュレス化の少し先のステージの参考になるだろう。(BCN・細田 立圭志)

関連記事(外部サイト)