ハイレゾロゴを取得したオールインワンPC、「LAVIE Desk All-in-one DA970/GAB」の音にまつわる裏話

ハイレゾロゴを取得したオールインワンPC、「LAVIE Desk All-in-one DA970/GAB」の音にまつわる裏話

画像提供:マイナビニュース

●スピーカーサイズを半減できたワケ
NECパーソナルコンピュータ(NECPC)の2017年春モデル、23.8型液晶一体型デスクトップPC「LAVIE Desk All-in-one」シリーズ最上位の「DA970/GAB」は、ヤマハと共同で新開発した小型スピーカーユニットを搭載し、日本オーディオ協会のハイレゾロゴを、スピーカー内蔵一体型PCとして世界で初めて取得した製品だ。

採用する小型スピーカーユニットは、省スペースでも低音域を効率的に鳴らす技術「FR-Port」を従来モデルから改良し、体積を約46%小型化しながら、低音域の再生を改善。本体のスピーカー位置も、従来のディスプレイ下部の前面向きから斜め下向きに変更するなど、より質の良い音を提供しようという工夫がみてとれる。

日本オーディオ協会のハイレゾロゴを取得するには、アナログ・デジタル信号に関する規定や実際に試聴しての評価など、細かい要件をクリアする必要がある。これを一体型PCでどう実現したのか、商品企画を担当したNECパーソナルコンピュータの石井宏幸と、スピーカーの開発に関わったヤマハ 電子デバイス事業部 技術部の中村敦一氏および三ツ口昌吾氏に、音にまつわる開発秘話を尋ねた。

――NECパーソナルコンピュータのPCでは、2009年から継続してヤマハのオーディオ技術を採用していますが、現在に至るまでの流れを教えてください。

石井氏: 2009年10月発売のデスクトップPC「VALUESTAR VW970/VG」で初めて「YAMAHAサウンドシステム」を搭載しました。フルレンジ2基とウーファーの2.1chシステムですね。それがきっかけとなり、デスクトップ機の主力である当時のVALUESTAR Nシリーズや、現在のNSシリーズ(LAVIE Note Standard)に相当するノートPCのハイエンドモデルにも搭載するようになりました。2011年からはヤマハ製DSPソフトウェア(オーディオエンジン)の搭載も始まり、以来、ハードからソフトまで一気通貫で取り組んでいただいています。

――まず、本機のコンセプトを教えてください。

石井氏:ハイレゾ対応ですね。DA970/GABはハイレゾ対応を目指して開発をスタートしました。日本オーディオ協会のロゴを取得し、ハイレゾ対応をうたうこと、それが大前提でのプロジェトでした。

――前モデルから変えたことと、変えなかったことは。

中村氏:変更点としてはまず、スピーカーの構成を見直しました。フルレンジ1基では再生能力が不足するため強力なツイーターを追加しています。再生周波数帯域は100Hzから40kHzです。

NECPCさんに提供しているスピーカーは、ヤマハ社内では2009年以来「NS」から始まる型番を振っています。ご存知のとおり「Natural Sound」の省略形で、同じコンセプトを継承しているわけです。

単純に40kHz以上出ればいい、ハイレゾロゴを取得できればいいというわけではありません。ハイレゾらしいいい音、従来のスピーカーを超える音質に到達していなければいけませんね。

――フルレンジユニットとツイーターのクロスオーバー周波数(低域と高域の境目とする帯域)は。

中村氏:それは企業秘密でして……(笑)。回路も含め、非常に時間をかけた部分ですね。LAVIE Desk All-in-oneシリーズの狹額縁デザインにマッチした、NECPCさん専用のスピーカーボックスとしての技術的なポイントです。

――FRポートの形状も変わりましたね。

中村氏:FRポートに関連する技術はヤマハが特許を取得しており、その"いいところ"は今回のスピーカーでも踏襲していますが、従来はスピーカーの前面と並べて配置していたFRポートを、スピーカーの背面に移動している点が大きく異なります。そのFRポートを通った音を前面に出すわけですね。スピーカーを小型サイズに仕上げるために必要な措置でした。

――なぜそのような変更が必要だったのですか?

三ツ口氏:前にあったものを後ろに回しただけ、と思われるかもしれませんが、FRポートの特長である高音質・高効率・省スペースを生かせるからです。

普通の円筒形のポートでは渦巻き状の気流が発生してしまうため、ポートを曲げると内部で音がぶつかりノイズの原因となりますが、FRポートには気流を整える効果があります。だから背面に設置しても音を前に出すことが可能なのです。

音を前に出す理由ですが、スピーカーの面(音の発生地点)と同じ位置にポートの音を配置できるからです。曲げることができないポートの場合、横から出すなどスピーカーの面と同一ではない位置から音を出すと、位相のバラつきが発生してしまいます。これはFRポートだからこそ可能な処理です。

とはいえ、小型化すると性能が低下する(音質に悪影響がある)ため、低域の再生能力を向上させています。素材の見直しも行い、不要共振を抑え引き締まった音を狙っています。筐体を棒で叩くと新旧モデルの違いはすぐわかりますよ。

●鍵はスピーカーの「開口率」
――PC下部にあるスピーカーは、今回から斜め下向きに付きました。この理由は何でしょうか。

石井氏:日本オーディオ協会のロゴを取得するためには、数値以外の細かい規定を満たす必要があります。手探りの状態で始めましたが、やがて「開口率」がポイントだと気付きました。

高域特性をよくするために開口率を稼ぐ。下向きで50%程度だったらイケるのでは、という目論見が事前のディスカッションでありました。本体前面で50%の開口率は、デザインとの関係上難しいこともあり、下向きにして開口の形状を工夫しようと。そこで、ヤマハさんでいうところの「反射形」を採用することにしました。

――「反射形」とは何ですか。

三ツ口氏:簡単にいうと、下に向けて音を出し反射させるしくみです。下といっても真下ではなく、向きを少し前方に調整しています。ツイーターにやや方向性を持たせているわけですね。高域は強指向性ですから、完全に下へ向けると前に音が出ませんので。ツイーターはドーム型で、指向性が広いタイプを採用しています。また、磁性流体を充填することで、歪みの低下を狙っています。

――その仕組みでは、開発に苦労したのではないでしょうか?

中村氏:NECPCさんの求めるデザインという前提があるなかで、音質面をクリアすることはかなりの挑戦でしたね。今回のハイレゾ対応モデルはどの程度の難易度かと歴代開発メンバーに訊ねたところ、VALUESTAR VW970/VG(最初のヤマハサウンド搭載モデル)に次ぐ挑戦度だろう、と。

確かに下向きは難しいのですが、反射型をうまく活用しようと考えました。ヤマハには、薄型テレビやモバイル機器など、必ずしもベストとはいえないスピーカーポジションの製品で技術を積み重ねてきたという自負もあります。

――スピーカーの配置についてはいかがでしょう。

中村氏:20kHz以上の高周波は波長が短く、開口率の影響率を大きく受けるのですが、3Dプリンタを使い試作を重ね、データをとりながら調整を行いました。開口率だけでなく筐体の厚みも音に影響しますし、本体を支える台座の存在も意外と無視できません。台座の半分ほどが音の出る方向と重なっていますから。高さ調整できる製品なので、いろいろな高さでも音の出方を試しました。

――ディスプレイサイズなど、本体側の仕様が変われば、取付位置など細部も変わってくると。

中村氏:はい。このモデル専用に「スペシャル中のスペシャル」で設計しました(笑)。

――音を反射する物、たとえば机の存在は音づくりに影響してくるんでしょうか。

中村氏:最終のチューニングで、キーボードを含めて使用者の位置を考慮し、ベストなバランスになるよう調整しています。特性だけではなく、ヤマハのサウンドマイスター(音の聴感評価を行う人物)による「感性の部分での評価」も実施しています。

――サブウーファーは検討しなかったのですか?

石井氏:検討はしましたが……小型化したとはいえ、本体でスピーカーが占める割合は少なくありません。今回は採用を見送りましたが、将来的には考えていきたいですね。今回の反応を見ながら考えたいな、ということもあります。

――アンプ部分のこだわりを教えてください。

三ツ口氏:ハイレゾ対応のヤマハ製D級アンプを搭載しています。2ウェイのスピーカーそれぞれにアンプを用意したマルチアンプ構成です。2chスピーカーですが、アンプは4chあるということですね。そうすることで、高精細な音のバランスが可能になっています。やはり電気回路でもしっかりバランスをとらなければ。

石井氏:マザーボードのどこに音関係の回路を組み入れるかは、開発のかなり深い部分からヤマハさんに関与していただいています。ヤマハさんが設計したオーディオ周りの回路を、部品選定を含めNECPCの設計者と協議していく形です。

――付属の再生ソフトウェアについて教えてください。

石井氏:再生ソフトは、スピーカーと同じくヤマハ製の「HiGrand Music Player」ですね。これは以前からバンドルしていまして、今回ハイレゾ対応を実施しました。ハイレゾ対応というのは、FLACやDSDといったファイルフォーマットもありますが、WASAPI排他モードに対応したこともポイントです。もちろん、foobar2000など他のハイレゾ再生ソフトも利用していただけます。

――ドライバやライブラリなど低層のソフトウェアは調整していますか?

石井氏:ハイレゾの信号処理が追いつくようにオーディオ・パスを組み、日本オーディオ協会のハイレゾ規格の基準を満たすよう、信号処理を調整しています。内部のソフトウェアも、しっかり見直しているということです。今回に限らず、新しいPCでは必ずオーディオエンジンをチューニングしています。

中村氏:もちろん、サウンドマイスターのチェックも実施します。

石井氏:なので、新機種のプロファイルを旧機種に持ち込んでも同じ音にはならないんですね。

三ツ口氏:オーディオエンジンは、周波数特性だけではなく位相特性(入力波形に対する出力波形のずれ。この特性が良好なほど音が自然に感じられる)なども整える役割を持っています。今回はコーデック部分のチューニングも行っています。

――最後に、製品に対する思いを聞かせてください。

中村氏:今回のハイレゾロゴ取得は、ヤマハの総合力を発揮できたと実感しています。スピーカーを作って納入したというのではなく、ソフトウェア、ハードウェア、電気回路、スピーカーユニット、そしてサウンドマイスターによる評価……いろいろな分野の人間が集まったから実現できたのだと思います。上流から下流まで一貫して進めたところに意義があるといいますか、ヤマハが掲げる「ナチュラルサウンド」につながったのだと思います。

三ツ口氏:試作機を評価したうえで「これでいこう」となるのですが、今回はその期間がとても長かったですね。何度もNECPCさんとやりとりしてデモを繰り返しました。成果が出たかな、とうれしく思います。

――有難うございました。
(海上忍)