一生モノの小型双眼鏡が少しだけ人生を豊かにする

一生モノの小型双眼鏡が少しだけ人生を豊かにする

手のひらにすっぽり収まるサイズ感で持つ喜びも満たす小型双眼鏡

 一つだけ旅の持ち物を増やせるとしたら、一番のおすすめは双眼鏡だ。観光で名所旧跡を回るときに楽しいというオーソドックスな使い道だけでなく、遠くの看板や標識をその場で確認できるという実用性もある。近眼だと遠くの文字がよく見えず、近づいたら全く関係のない看板だったなんてことも、双眼鏡一発で解決だ。 気軽に持ち歩くとなると、コンパクトなものに限る。高い倍率を求めて野鳥観察にも使えるような大型を買ってしまうと、結局、持ち出す機会なく死蔵することになりかねない。かといって、世の中にあまたあるおもちゃのような双眼鏡はどうも持つ気になれない。大人の男として、というか、いい歳こいたおっさんが持ち歩いていてもあまり不審に見えないものがいい。
 少年時代に憧れの眼差しでショーケースに入ったトランペットを眺めていたというルイ・アームストロングよろしく、ショーケースに入っている製品を欲しいと思いながら眺めつつ、いつも決心できずに購入できなかった双眼鏡がある。ニコンのミクロンだ。
 とにかく小さくて武骨。角張ってプリズムの配置がはっきりわかる特徴的なデザインがカッコいい。倍率はあまり高くはないものの、ちょっとした用途にはぴったりだ。旅の友としても邪魔にならない。質感はとても高く持つ喜びも感じられる。いわゆる一生モノとしてふさわしい双眼鏡だ。
 もちろん、見え方もクリアで申し分ない。BCNランキングの2019年12月集計では、双眼鏡・単眼鏡の税別平均単価は7700円。2種類あるニコンのミクロンは、いずれも2万円前後とややお高い。明確な用途がなければ、購入をためらう微妙な価格だ。
 大きな会場のライブに出かけると、席は後方でアーティストが米粒、というのはよくある話。昨年、何度目かの正直で山下達郎に当たったときも中野サンプラザ2階席後方という残念な環境だった。それほど大きなホールではないので、米粒ではないまでも落花生ぐらいの大きさの達郎しか見えずにがっかりという苦い経験をした。双眼鏡でも持ってくれば良かった、そう思った時に、思い出したのがニコンのミクロンだ。
 残念な思いが高まっている勢いに乗じ、ライブ翌日に購入してしまった。触ってみると、メカがギュッと詰まった密度感はやっぱり心地いい。ちょっとおっさん臭いダサ目のソフトケースと、ストラップのヒモが付属している。手の中に収まる感じでありながら、ケースに入れれば、鞄に忍ばせて日常的に持ち歩いても苦にならない。
 実はこのミクロンという双眼鏡、ニコン創業期からある製品だ。初代の発売は1921年。大正時代から続く歴史の長さに驚く。当時の写真を見ると、デザインは現行製品とほぼ変わらない。70年代に一旦製造を終了したが、90年代に復活した。現行品は、倍率7倍の「ミクロン 7x15 CF ブラック」と6倍でシルバーの「ミクロン 6x15 CF」の2機種。
 今回、購入したのは倍率が高めの黒だ。手に入れてすぐ、小さなホールのライブにも持参して試してみた。大して距離もなく双眼鏡は不要に思えたが、使ってみるとアーティストの表情や楽器演奏の手元をしっかり見ることができて面白かった。
 同様に、有効な用途が美術館や展示物鑑賞だ。あまり近寄れない環境でも、細かいところまでしっかり見ることができる。ちょっとした用途で大げさな双眼鏡を取り出すと途端に不審感がただよう。小型の製品で正解だ。逆に野外フェスの後方で使うには倍率が物足りないが、米粒のアーティストに比べればずいぶんましになる。
 遠くにあるものを確認するとき、スマートフォンやカメラで写真を撮って拡大、ということをしている人は意外に多いだろう。確かに一つの方法だが、撮って画像を選び拡大して確認という手間がかかる。
 小さな双眼鏡が一つあれば、そんなアクションも不要。ちょっとした細部を確認するときにも、気兼ねなくリアルタイムで使えて楽しい。幅広い用途で活躍する一生モノの小型双眼鏡が、少しだけ人生を豊かにしてくれた。(BCN・道越一郎)

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