怖いどころか縁起がいい 今夜はコウモリを探しながら家に帰ろう

怖いどころか縁起がいい 今夜はコウモリを探しながら家に帰ろう

市街地に住むことが多いアブラコウモリはもっとも身近な隣人。コースターと比較するとその小ささは一目瞭然

 夕暮れ時にふと空を見上げてみてほしい。鳥が右往左往して飛んでいる……。しかしよく見ると飛び方がどうも変?! 急に反転したり、羽ばたかずスイーっと横切ったりと鳥にしては変則的だ。

 その正体はコウモリ。「まさか、ここは大都会のど真ん中ですよ」という声が聞こえてきそうだが、コウモリ、特に日本で多く見られるアブラコウモリはニューヨークのビル街に巣を作るハヤブサのごとく、ビルのすき間を利用してねぐらを作り、昼間は眠り夕方になると飛び出して食餌にいそしむのだ。ビル街だけではなく、コウモリは住宅街にもいる。人家の屋根裏やシャッター内、エアコン室外機のパイプ内にもねぐらを作ることが多く、人間のすぐ隣にいる身近な生きものなのである。

試しに日没前後に、空を見上げてみてほしい。日比谷公園や代々木公園、皇居周辺や神田川、隅田川沿いなど公園レベルの木々と水辺があれば彼らは飛んでいるはずだ。なぜなら、都会で見られるアブラコウモリという小型のコウモリは、川の畔や公園などにたくさんいるユスリカや蚊などを食べているからだ。

 アブラコウモリは体長約5cm、体重は7g程度の小さなコウモリなのに、一晩に一頭あたり500匹余りの虫を捕食するというからスゴい。(暗くなっても虫を捕らえられるのは、口や鼻から超音波を発し、ものにあたって跳ね返ってきた音を捉えて対象物の位置を知る「エコロケーションシステム」を使っているからだ)。

しかも集団で行動するから毎晩相当な数の虫を食べているはずで、この働きを期待して、海外では除虫のために庭にバットボックス(鳥の巣箱のコウモリ版)を設置する家もある。共同通信が配信した記事によれば、アメリカ南部ではジカ熱を媒介する蚊の駆除を期待して自宅にバットボックスを設置する人が急増し、テキサス州のあるメーカーでは販売数が昨年に比べ68%アップしたという。

 もちろんそれだけではなく、単純に小鳥を観察するようにコウモリを愛好して観察するためにバットボックスを作る人も多いとか。よく見るとコウモリは意外にかわいい顔をしている。

 そんなコウモリを「身近な隣人」として見直し、生態観察を楽しむ催しが8月に駿河台で行われた。これはCSRの一環として、本社ビルがある駿河台で緑地づくりや地域に開かれた環境コミュニケーションスペースづくりに取り組む三井住友海上火災保険株式会社(以下三井住友海上)と(公財)日本自然保護協会(以下NACS-J)が1年を通し「駿河台生きものさがし自然塾」の第1回目だ。内容は「バットウオッチングとバットボックスづくり」。

三井住友海上のCSR推進室課長で自然塾の企画を立ち上げた浦嶋裕子さんは「昨年もアブラコウモリの観察会をやったのですが、コウモリは身近にいるのにほとんど人びとに認識されていない生きものなので、都会でも自然がすぐ隣にあると知るにはちょうどよい題材だと思いました。大人だと『気味が悪い』という人もいますが、子どもには“超音波を発信するなんてカッコいい”と大人気なんですよ」と語る。

 今回の催しではまず日中に子どもたちがバットボックスを組み立てて、そのあとコウモリについての話を聞く。話は日本のコウモリ類の保護研究に取り組む「コウモリの会」事務局の三笠暁子さんが担当。そして、夕方からはコウモリ観察だ。

 三笠さんと、NACS-Jの経営企画部プログラムオフィサーの大野正人さんがリーダーとなり2グループに分かれて駿河台を歩く。何人かが手に持つのはバットディテクター。これはコウモリが発する超音波を検出して人間が聞こえる音に変換する探知機だ。「ピシュピシュピシュ……」というような不思議な音が聞こえれば、近くにコウモリがいるのである。

 しばらくは音もせずコウモリの影も見つからなかったが、湯島聖堂近くの公園横を通っているときに三笠さんが手にしたバットディテクターが鳴りはじめ、みんなが上を見上げると「あー! いる! 飛んでる!」と参加者の子どもたちが歓声を上げた。

 夕暮れ空をバックに、アブラコウモリがかなりのスピードで何頭も舞っている。ときおりクルッと空中反転するのは、「反転した瞬間に虫をつかまえて食べているんです」と三笠さんが教えてくれた。
 
 観察していた場所は本郷通りである。会社や学校帰りの人びとは足早に駅へ急いでいる。ましてや車道を走っている車はコウモリなど眼中にないだろう。まさにこの光景こそが「すぐ隣にいるのに知られていない」象徴のように見えた。気がつきさえすれば、コウモリはすぐ観察できる野生動物なのである。

 コウモリと言えばドラキュラやバットマンなどの印象があるせいか「怖い」「不吉」と思われがちだが、こうしたマイナスなイメージを持っているのはほんの一部の国だけだ。中国では古くから蝙蝠(コウモリ)の「蝠」の字の発音が「福」と同じであることから縁起のよい生きものとされ、建物の飾りや食器、着物その他にコウモリモチーフが多用されている。北京の紫禁城でも欄干や窓枠などあちこちにコウモリモチーフを見ることができる。

 日本でもかつてはそうだったのだ。家にねぐらを作ろうものなら子孫繁栄は間違いなしと喜ばれたし、江戸時代に活躍した歌舞伎役者、七代目市川團十郎は吉祥柄としてコウモリを好み、タバコ入れや着物にコウモリの柄を入れていたほどだ。また、歌川国芳や桜川慈悲成、伊藤若冲などの人気絵師も愛らしいコウモリを描いている。

 コウモリにマイナスイメージを持っているのは、おそらく実物を見ていないからだ。この機会にぜひ一度、夕空を見上げてみてはいかがだろうか。おっと、11月をすぎるとアブラコウモリは冬眠に入る。お早めのコウモリウオッチングをどうぞ!(島ライター 有川美紀子)

関連記事(外部サイト)