航空機の技術とメカニズムの裏側 (69) STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン

航空機の技術とメカニズムの裏側 (69) STOL/VTOL(6)VTOLの実現手法いろいろ(3)リフトファン

画像提供:マイナビニュース

VTOL(Vertical Take-Off and Landing)機の歴史には多数の墓標が立っているが、そうした中で最も成功した機体と言えば、ホーカーシドレー(現BAEシステムズ)のハリアー一族であることは論を待たない。そのハリアーと、後継となるF-35Bは、どういう仕組みでVTOLを可能にしたのだろうか。

○ペガサス・エンジンは推力偏向式

本連載の第21回で推力偏向に絡めて、VTOL戦闘機として名高いホーカーシドレー(現BAEシステムズ)・ハリアーのペガサス・エンジンと、F-35BのLiftSystemを紹介した。

ペガサスはロールス・ロイス社が開発したターボファン・エンジンで、ファン部分の左右両側面、それとジェット部分の排気ノズルが左右に分岐した先に、推力偏向ノズルを備えている。これが胴体の中央部に組み込まれているので、4基の推力偏向ノズル、いわば四本足で機体を支える恰好になるわけだ。

問題はエンジンの設置位置だが、4基の推力偏向ノズルを持つエンジンが発生させる浮揚力の中心点と、機体の重心位置を合わせておく必要がある。そうしないと、前後いずれかの方向に傾いてしまう。

ちなみに、ロールス・ロイス社の公表データによると、ペガサス・エンジンのバイパス比は1.2〜1.4。前方のノズル(ファン側)が生み出す推力と、後方のノズル(ジェット側)が生み出す推力が極端に違うと前後バランスをとりにくいが、当然、それは考慮した設計になっているだろう。

もちろん、兵装の有無や燃料の搭載状況、パイロットの体重などによって前後の重心位置はいくらか変動するし、風による外乱を受ける可能性もある。

だから、エンジンの抽気を利用するロールポストを、機首と尾部、それと左右の主翼に備えている。機体の姿勢変化を受けて、ロールポストからの圧縮空気の噴出量を調整することでバランスをとる仕組みだ。

また、胴体下面には機関砲ポッド、あるいはストレーキと呼ばれる板を2枚、張り出させるレイアウトになっている。これは、地面に向けて吹き付けられたエンジン排気が機体に向けて跳ね返ってきたときに、それを利用して揚力を稼ぐためのもの。

ペガサス・エンジンの特徴として、低圧軸と高圧軸が互いに逆方向に回転する点が挙げられる。こうしないと、回転する軸の反トルクで機体が傾いてしまうのだ。

そして、双発機ではなく単発機にしたところがハリアーのミソ。双発にすると、2基のエンジンの推力をバランスさせる必要があるが、単発機ならエンジンは1基しかないのだから、そういう問題がない。しかも、その1基のエンジンがリフトと巡航を兼ねるので、リフト・エンジンという余分な重量を背負い込まずに済む。

ただし、注意点が1つある。地面に吹き付けられた排気が機体の前方に回り、空気取入口から再びエンジンに入っていくことがないようにする必要がある。排気をエンジンが吸い込むと動作に不具合が生じるので、高温のエンジン排気が前方に回っていかないように、機体の下面にフェンスを立てるようにしている。

もっとも、エンジンの排気ガスが噴出するのは後ろ側のノズルだけだから、リフト・エンジンを使用する機体と比べれば条件は良さそうだ。

○F-35BのLiftSystem

そのハリアーの後継機として開発が進んでいるのが、先日に岩国基地にやってきたF-35BライトニングII。こちらはハリアーとは仕組みが違い、F135-PW-600エンジンの排気はすべて、尾部の推力偏向ノズルから噴射する。つまりファン部分には推力偏向ノズルがない。

それだけだと尾部にしか支えがない状態なので、機体が前方にもんどり打ってしまう。そこで、コックピットの直後に縦向きのファン、いわゆるリフトファン(直径50インチ・2段式)を備えており、垂直着陸モードの時に作動させる。

リフトファンを駆動する動力源はF135-PW-600エンジンで、タービンで駆動するシャフトがエンジンの前方まで伸びてきており、クラッチを介してリフトファンとつながっている。垂直着陸モードに切り替えると、リフトファン上下の扉を開くとともに、リフトファン駆動用のクラッチをつなぐ。するとファンが回転を始めて、これが機体を前方から支える。

さらに左右の主翼、首脚取付部の外側にロールポストが付いていて、エンジン抽気を噴出させて左右のバランスをとる。ただし、ロールポストが司るのは左右方向(ロール方向)のバランスだけ。前後方向(ピッチ方向)については、エンジンの排気ノズルとリフトファンの吸気口のサイズを変えることで調整している。

この、推力変更式排気ノズル付きエンジン、リフトファン、そしてロールポストで構成するシステム一式を「LiftSystem」といい、ロールス・ロイス社の登録商標になっている。

これらの構成要素が発揮できる推進力は、合計約4万2000ポンド(1万9068kg)で、内訳は以下の通り。

リフトファン : 約2万ポンド(9080kg)
エンジン排気 : 約1万8000ポンド(8172kg)
ロールポスト : 約1950ポンド(885kg)×2

一見すると、リフトファンという余計な重量とスペースを抱え込んでいるように見えるが、エンジンが高温の排気ガスを吸い込まない利点や、エンジンより大きなファンでエンジンより遅い排気を出すことによる効率の良さが、デメリットを上回ったといえるだろう。

これは静止画よりも動画の方がわかりやすいと思うので、ロッキード・マーティン社の公式動画を紹介する。

F-35B - Taking STOVL to a New Level

First F-35B Vertical Takeoff Test

昨年、フォートワースでF-35Bのホバリング試験を見せてもらったが、水平飛行で進入してきた機体が行き脚を止めて空中で静止、しばらくその状態を保った後でまた水平飛行で離脱するのは、なかなか興味深い光景だった。

VTOL機というと「操縦が難しい」とか「事故率が高い」とかいう固定観念がついて回るが、F-35Bはこれまで、VTOLに関連する重大事故を一度も起こしていない。

○実際の運用はSTOVLで

ただ、VTOLを行おうとすると、エンジンやリフトファンが生み出す推進力よりも、機体の重量の方が下回っていなければならない。それでは最大離陸重量が抑えられて、燃料や兵装の搭載能力が限られてしまう。

上でF-35Bが垂直離陸する動画を紹介したが、これをやるにはかなり身軽な状態にする必要があり、実用的ではない。そのため、ハリアーにしろF-35Bにしろ、実際の運用では短距離離陸・垂直着陸(STOVL : Short Take-Off/Vertical Landing)を使用する。

離陸の際にはエンジン排気を真下ではなく斜め下に向けて、推進力と浮揚力の両方を発揮させる。そして短距離の滑走で離陸する。どれぐらい短距離かというと、強襲揚陸艦の飛行甲板から発艦できるぐらいだから、200mあるかないかというところだろうか。

下の動画みたいにスキージャンプを併用すれば、もっと短い滑走距離で舞い上がれる。

F-35B Conducts First Ski-Jump Launch

一方、燃料や兵装を使い果たして身軽になった着陸の際には、垂直着陸を行う。揚陸艦に降りる場合、艦尾左手の後方から接近しつつ速度を落として、艦の真横まで来たところで右に移動して飛行甲板の上に来たところで降りる、という流れのようだ。
(井上孝司)

関連記事(外部サイト)