モノのデザイン (22) 時代のニーズを反映した、愛される「雑貨」的電子文具 - キングジム「“こはる”MP20」

モノのデザイン (22) 時代のニーズを反映した、愛される「雑貨」的電子文具 - キングジム「“こはる”MP20」

画像提供:マイナビニュース

5月19日にキングジムから発売になった、テーププリンター“こはる”MP20。2010年に発売された、マスキングテープに印字ができるプリンター“こはる”MP10の後継機だが、デザインが大幅に変更され、ハンドメイド好きな女性を中心に注目を集めている。

今回は、同製品の開発の中心人物であるキングジム 開発本部 商品開発部 開発1課リーダーの井上彩子氏に、新商品の開発経緯をはじめ、商品コンセプトやデザインプロセスなどを伺った。

○森ガール的デザインから一新、その意図は?

“こはる”MP20は、縦横9.7センチ×10.7センチの手のひらサイズのテーププリンター。サイズ感は旧機種とあまり変わっていないが、"家"を模した形状で、ハンドバッグのような以前のデザインから大幅に変わっている。本体だけでなく、用いられているフォントやカラーも、旧機種に比べてシンプルなテイストが選ばれている印象だ。このような大幅な路線変更について井上氏は次のように説明した。

「初代の“こはる”が発売されたのは今から7年前です。その当時と今では、この製品を愛好してくださるような人々の趣味嗜好もずいぶん変化しています。その当時は"森ガール"という言葉に代表されるように、ナチュラルでかわいらしいものを好む女性が多かったのですが、最近はもう少しシンプルでスッキリしたものが好まれる傾向に変わってきたと思います。シンプルでよいものを長く使いたいというニーズが高まり、そのモノが自分の暮らしをどれだけ豊かにし、いかに溶け込めるかを重視するように、マインドが変化してきていると感じています。」

新製品の開発にあたって、目指した方向性は"愛される存在"になることだったという。「機能性で売るような製品ではないですし、毎年新しいものを出すというような類の製品でもありません。消費者の方に長く使ってもらえる、愛される存在になることを目標に企画しました」と井上氏。

そうして辿り着いたのが、雑貨のように飾っておけるテーププリンターという形だ。電子文具でありながら、インテリアとして生活空間にもなじむことを重要視している。机の引き出しにしまっておくのではなく、日常的に視界に入るところにあって、いつでも手に取れる商品にするためのデザインが追求された。

○SNSを手がかりに、飾ってかわいい形を追求

井上氏によると、開発チームが次に取り組んだのが、SNSなどで投稿される写真などのリサーチ。「雑貨として部屋に並べてあった時に、どんなものがかわいく見えるんだろう? インテリアの邪魔をしないものはどんなものがあるんだろう? というのをリサーチしました。その結果、何かをモチーフにしたミニチュアのようなものが雑貨らしさにつながるのかな、と感じました」。

こうしてたどり着いたコンセプトと設定したターゲットイメージをもとに、外部の会社にデザインを委託。デザイン案には他にもポット型の観葉植物やレターボックスなどがあったが、満場一致で現在の家のデザインが選ばれたのだという。

「デザインラフの段階で、ほぼ今の形をしていました。煙突の部分がテープカッターになっていたり、液晶画面が窓になっていたりというのも、すでにデザイン案の中に盛り込まれていました。おうち型のデザインは、北欧風の雑貨でよく見かけるモチーフで、まさに目指す世界観にぴったりでした。カラーに関しても、最初から今の配色でした。当初は草花の模様がポイントで入っていましたが、最終的に最もシンプルな今の案に決定しました。地味すぎないかという意見もありましたが、どんな部屋にもマッチし、使う人を選ばないということで採用されました」

一方、製造のプロセスでは若干の試行錯誤もあったという。「モックアップを作った段階では、実はもう少し直線的なデザインだったんです。ところが実際に手に持ってみたところ、角の部分が当たって痛いと感じることがわかりました。そこで角の部分の"R"(アール)を再調整することにしたのですが、直線的ですっきりしたイメージは保たれるギリギリのところを追求しました」と井上氏。また、樹脂製ボディの表面にシボ加工を施してマットで落ち着いた質感に仕上げるなど、空間に違和感なくマッチするようこだわったとのことだ。

○テープ追加に合わせた絵文字の拡充

新製品は本体デザインの路線変更に合わせて、テーププリンターとしての機能もバージョンアップが試みられている。ひとつ目がフォントのデザインだ。従来モデルから"スリム"と"スイート"の2つのフォントが追加され、7種類になった。

また、新製品に合わせ、従来の専用マスキングテープに加えて「フィルムテープ」も発売になっている。光沢のあるフィルムテープは水はねにも強く、キッチン用品のラベリングなどにも適しているため、従来よりも利用範囲が広がった。井上氏によると、テープの追加に合わせて絵文字やフレームも一新されているそうだ。

「マスキングテープの場合はラッピング用途が中心でしたが、新たにフィルムテープを追加したことによってラベリングの利用用途が増えることを想定して、絵文字やフレームも暮らしにまつわるアイテムをモチーフにした、アイコン的なデザインを増やしました」

○新ブランド立ち上げで「軸ができた」

今回の新製品の発売と同時に、キングジムでは"HITOTOKI(ヒトトキ)"という新ブランドの立ち上げも発表された。2代目“こはる”は、新ブランドの第1弾製品という位置付けだ。新ブランド立ち上げの経緯について、井上氏は次のように明かした。

「弊社は事務用品メーカーとしてのイメージが強いですが、2010年に初代“こはる”を発売して以降、ガーリー『テプラ』や“ひより“といった電子文具をはじめ、『暮らしのキロク』、『KITTA(キッタ)』といった、いわゆる"女子文具"と呼ばれる製品の開発に力を入れ、ラインナップを増やしてきました。そうした流れの中で、担当者間では単なるカテゴリーとしての“女子文具”ではなく、もっとしっかりとした世界観を伝えることができるブランドを立ち上げたいという思いがあり、昨年の夏頃から具体的に話が進んでいきました」

「HITOTOKI」のブランドコンセプトは、「ほんのひとてま加えることで、暮らしが少し豊かになる商品」だという。2代目“こはる”の開発はブランド化が進行する以前から行われていたため、新しいブランドの発表を、製品発表と同じタイミングで行えるように作業を進めていった。

「今後はブランドという1つの軸が出来たことで方向性も定まり、これまで以上にブランドイメージに合わせた製品を展開できると思います。ブランドがあることで、ユーザーの方々とよりコミュニケーションしやすくなるというのも大きなポイントですね」(井上氏)

機能性と同時に"所有欲"を満たしてくれることも重要な文具におけるプロダクトデザイン。そんな中、今回登場したこはるの新製品は、雑貨として飾っておける"インテリア性"を追求した、ひと味違ったユニークな電子文具として目を惹く存在だ。今後もブランドとして統一された世界を持つ"コレクター心"をくすぐる、どんな新たなラインナップが登場するのかに注目していきたい。
(神野恵美)