新構造の「高エントロピー合金」を超高圧で作製 - スタンフォード大

新構造の「高エントロピー合金」を超高圧で作製 - スタンフォード大

画像提供:マイナビニュース

スタンフォード大学の研究チームは、新構造の「高エントロピー合金」を作製することに成功したと発表した。作製時に高圧条件下に置くことがカギになるという。高エントロピー合金は、これまでの合金材料にないさまざまな特性が得られる新しい合金として注目されているが、製法や物性に関して未解明な点が多く、まだ実用化されていない。研究論文は、科学誌「Nature Communications」に掲載された。

通常の合金材料では、1種または2種の金属を主材料とし、そこに微量の他元素を加えることによって、主要金属の強度が強化される。代表的な合金としては、銅にスズを加えた青銅や、鉄に炭素を加えた鋼鉄などがある。

これに対して、高エントロピー合金は、複数種類の金属(多くの場合5種類以上)をほぼ等量ずつ混合して作られる。多種類の元素の原子が結晶格子にランダムに振り分けられていることから、エントロピーの統計力学的定義である原子の状態数が増すという意味で高エントロピー合金と呼ばれる。このランダム性によって、安定で強固な固溶体(異なる金属同士が原子レベルで均質に溶け合った固体)になると考えられている。

内燃機関や火力発電所などは、高温で稼動させたほうが仕事の効率がよくなることは熱力学的には明らかだが、通常の合金の場合、極端な高温条件下では材料中の原子が激しく運動するため配置が乱雑になり、合金の性能が低下してしまう。一方、高エントロピー合金の場合は原子配置がもともと乱雑なため、低温から高温までの広い範囲で優れた機械強度が維持されるといった特徴があるとされる。

近年の研究によって、高エントロピー合金には、強度、軽量性、耐熱性、耐食性、耐放射線性などの面で、従来の合金にない優れた特性があることがわかってきている。また、高エントロピー合金特有の力学特性、磁気特性、電気特性などを付与できる可能性があることも示唆されている。ただし、構成原子の配置を精密制御する方法がわかっていないことなどから、まだ研究室レベルの材料であり、実用段階には至っていない。

これまでの研究で再現に成功した高エントロピー合金は、「体心立方構造」および「面心立方構造」という2種類の構造をもつものだけだった。もうひとつの代表的な結晶構造である「六方最密(HCP: hexagonal close-packed)構造」をもつ高エントロピー合金については、これまで作製の成功例がほとんどなかった。ここ数年間で、HCP構造の高エントロピー合金の作製例もいくつか報告されるようになってはきたが、それらはいずれもアルカリ金属やレアアース/レアメタルなど特殊な成分を含むものだった。

研究チームは今回、一般的な金属材料だけを用いて、HCP構造の高エントロピー合金の作製に初めて成功したとする。実験では、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、クロムを等量混合した高エントロピー合金(面心立方構造)のサンプルを、高圧実験で使用するダイヤモンドアンビルセルに入れて、55GPa(ギガパスカル)という超高圧をかけた。その結果、面心立方からHCP構造への変化が確認されたという。

55GPaは地下のマントル層に相当する圧力であり、地表でこの圧力がかかる自然現象というと巨大隕石の衝突くらいしかない。面心立方の高エントロピー合金では、金属原子同士の間に磁気的相互作用が働いているため、原子の配置が自然にずれてHCP構造に変化することはないと考えられているが、今回は、超高圧をかけたことによって原子間の磁気的相互作用が崩れ、HCP構造への変化が起きたとみられる。

このようにして作製されたHCP構造の高エントロピー合金は、超高圧をかけるのを止めた後も、もとの面心立方構造に戻ることなくHCP構造が持続するという。また、圧力をゆっくりと上げていくことによって、合金中のHCP構造の量を増やすことができることもわかった。このことは用途に応じて欲しい力学特性をもった合金を作れる可能性があることを示唆しているといえる。研究の進展によって、多様な材料で高エントロピー合金を作り出し、その特性を精密制御できるようになることが期待されている。
(荒井聡)

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