シリコンバレー101 (710) クラウドサービスの下剋上、インディWebサービスPinboardがDe.lici.ous買収

シリコンバレー101 (710) クラウドサービスの下剋上、インディWebサービスPinboardがDe.lici.ous買収

画像提供:マイナビニュース

オンラインサービスの下剋上、それともジャイアントキリングか …… オンラインブックマーク・サービスのPinboardがソーシャルブックマーク・サービスDe.lici.ousを買収した。

De.lici.ousは2003年設立、そして2005年にYahoo!に買収されたのをきっかけにオンラインブックマーク・サービスの代表的なサービスというポジションに立った。

しかし、たくさんのユーザーを抱えていたものの、独立して事業を続けられるビジネスモデルを確立できないまま、Yahoo!の低迷から衰退し始めた。Yahoo!の事業見直しに伴って2011年に、AVOS Systemsに売却。AVOSは、YouTube創設者として知られる Chad Hurley氏とSteve Chen氏が立ち上げた会社だ。その後2014年にScience、2016年にDelicious Mediaとオーナーが変わってきた。誰も、De.lici.ousの大きなユーザーベースを生かせなかった。

一方、2009年設立のPinboardはMaciej Ceg?owski氏の個人プロジェクトと呼べるようなインディWebサービスである。オンラインブックマークの有料サービスだから、ユーザー数の規模は推して知るべしだ。でも、De.lici.ousなど「ソーシャル・ファースト」のブックマークサービスばかりの中、プライバシー優先を明確にし、ブックマークのプライベート保存を標準に、ユーザーがシンプルにクラウドでブックマークを管理できるサービスとしたことで、一部の人たちの需要に応えた。

ちなみに私は初期の頃からPinboardを使っている。レスポンスが良く、クラウドブックマークでも、ブラウザのブックマーク機能を使うように快適に使用できる。PinboardのWebサイト自体はシンプルだが、オープンな仕組みになっているので、ブラウザの機能拡張や対応PCソフト、対応モバイルアプリが数多く存在する。Pinboardをハブに、Firefox/ Chrome/ Safari、そしてWindows、Mac、iOS、Androidで同じブックマークを利用できる。

私にとってPinboardは欠かせないサービスの1つだが、まさかPinboardがDe.lici.ousを買収する日が来るとは思わなかった。ほんの10年前、De.lici.ousはYahoo!傘下のメジャーサービスで、Pinboardは当時も今もインディWebサービスなのだ。

De.lici.ousにとって、今回が5回目、そして最後の身売りになる。買収後にPinboardがDe.lici.ousの事実上の終了を宣言したからだ。De.lici.ousは6月15日にリードのみのサービスに切り替わり、ブックマーク保存やAPIは利用できなくなる。買収金額は35,000ドル。現在Pinboardの利用料金は年額11ドルだから、3,200人のDe.lici.ousユーザーがPinboardを契約したらこの買収は黒字になる。

○誰のためのサービスにもなれなかったDe.lici.ous

De.lici.ousの衰退は、ソーシャルのオススメによってブックマークが不要になったのが原因という人がいる。私は、そうだとは思わない。ブックマークを活用している人は今でもたくさんいるし、「ブックマークを共有」する価値はある。たとえば、ユーザーが公開しているブックマーク・データを集計して、人気のあるサイトやその時のトレンドとなっているページや記事を紹介しているサービスは役立つ。実際、それはPinboardが提供している機能の1つだ。

De.lici.ousが衰退したのは、誰のためのサービスにもなれなかったからだ。De.lici.ousは無料サービスだったから、収益源として広告が有力になる。広告モデルでは「アクセスを増やす」というビジネス側のニーズに応えなければならない。だから、ソーシャル優先のブックマークサービスだった。ところが、FacebookやTwitterなど、「ブックマーク共有」よりも効果的にビジネスのための共有を拡散させられるサービスが登場した。それらにビジネスが移動してしまったことで、ソーシャルブックマークサービスとしてDe.lici.ousは成長できなくなってしまった。登録ユーザーはたくさんいたのにだ。

De.lici.ousを買収したからといって、Pinboardがメジャーなサービスになるとは思わないし、Pinboardもそれを目指してはいないだろう。有料サービスを押しつけるPinboardに反感を抱くDe.lici.ousユーザーも少なくないと思う。では、なぜPinboardは、すでに死に体だったDe.lici.ousを買収したのだろうか? 3,200人近いDe.lici.ousユーザーと契約できなかったら赤字というのは、Pinboardにとってリスクの高い買収である。

Pinboardを運営するCeg?owski氏はアンチソーシャルな姿勢を公言して、ソーシャルグラフの問題を指摘してきた。広告のためのブックマークサービスは、有益な記事やページをユーザー同士が紹介し合うコミュニティではなく、広告を表示したり、広告主へのアクセスを稼ぐための共有が行われる環境になりやすい。その結果、クリックを促す刺激的なコンテンツが横行する。それが行き過ぎてしまったのがフェイクニュースである。

フェイクニュースが社会問題として注目されている今なら、より多くのDe.lici.ousユーザーを有料のPinboardに導けるだろう。「ユーザーのために良いサービスを提供する」というシンプルだけど、無料サービスの前に苦戦してきたPinboardのビジネスモデルの価値を強くアピールできるチャンスにもなる。
(Yoichi Yamashita)

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