"毎年1回墜ちるロケット"の汚名返上なるか? - 蘇った「プロトン」ロケット

"毎年1回墜ちるロケット"の汚名返上なるか? - 蘇った「プロトン」ロケット

画像提供:マイナビニュース

●1年ぶりに打ち上げを再開したプロトンMロケット
ロシアの国営宇宙企業「ロスコスモス(ROSKOSMOS)」と、ロケット運用会社「インターナショナル・ローンチ・サービス(International Launch Services:ILS)」は6月8日、通信衛星「エコースターXXI(EchoStar XXI)」を搭載した「プロトンM/ブリーズM」ロケットの打ち上げに成功した。

プロトンMロケットの打ち上げは、昨年6月以来、1年ぶりとなる。この昨年の打ち上げは成功に終わったものの、ロケットにトラブルが生じ、危うく失敗の恐れもあった。

プロトンは長年、ロシアの宇宙開発のワークホースとして、また近年ではその高い性能と安い価格から商業打ち上げ市場においても存在感を発揮し、毎月1機が打ち上げられるほどの活躍をみせていた。しかしここ数年はトラブルが頻発するようになり、打ち上げ失敗を相次いで起こしていた。

ある関係者は「あんな毎年1回墜ちるようなロケット、誰が使いたがると思いますか」と語るほど、プロトンMの信頼性は低下し、同時にロシアの宇宙開発の信頼性の低下をも象徴していた。

今回は、1年ぶりに打ち上げを再開したプロトンMについて、この1年で何が起きたのか、そしてプロトンMとロシアの宇宙開発の未来について解説する。

○よみがえったプロトンM

エコースターXXIを載せたプロトンM(Proton-M)ロケットは、日本時間6月8日12時45分(現地時間同日9時45分)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地の第24発射台を離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約9分41秒後に、上段のブリーズM (Briz-M)と衛星を分離した。

ブリーズMはその後、5回に分けてエンジンを噴射し、打ち上げから9時間13分後にエコースターXXIを分離した。ロスコスモスやILSは打ち上げ成功と発表。その後、米軍の観測によっても、衛星がほぼ予定どおりの軌道に乗っていることが確認されている。

また衛星との通信確立にも成功し、正常に機能していることが確認されている。

エコースターXXIは、米国に本拠地を置く衛星通信会社エコースターが運用する通信衛星で、欧州全体にモバイル通信サービスを提供することを目的としている。打ち上げ時の質量は6900kgもある大型の衛星で、十字になった巨大な太陽電池パドルと、さらに巨大な傘のようなアンテナを特徴とする。

製造は米国の宇宙企業スペースシステムズ/ロラール(SS/L)が担当し、設計寿命は15年が予定されている。

○ロシアでも米国でも。世界中で売れたプロトンM

プロトンMはロシアのフルニチェフ(Khrunichev)が開発し、製造している大型ロケットで、ロシアにとって大型の静止衛星を打ち上げられる唯一のロケットでもある。原型となった初期型のプロトンが1965年に初めて打ち上げられて以来、半世紀にわたってソ連・ロシアのワークホースとして運用されている。プロトンMは、そのプロトン・ロケットの最新型で、2001年に初打ち上げが行われた。

またソ連解体後の1995年には、ロシアと米国が手を組み、プロトンの商業販売を担当する企業としてILSが設立された。同社の本拠地は米国に置かれており、つまり米国企業がロシアのロケットで衛星を打ち上げるという、少し不思議な関係が続いている。

プロトンMは商業打ち上げが始まって以来、毎年10機前後が打ち上げられている。ロシアのみならず、世界的にも大ベストセラーになったのには、打ち上げ能力が大きいこと、そして安価であり、さらに実績が豊富という特長がある。

プロトンMは、通信・放送衛星が打ち上げられる静止トランスファー軌道に7トン近い打ち上げ能力をもつ。欧州や米国にも、これと同じか、あるいは超える打ち上げ能力をもつロケットがあるが、プロトンMはそれらより圧倒的に安価だった。また、打ち上げ能力は落ちるものの、静止トランスファー軌道ではなく静止軌道に直接衛星を送り届けることもできる。

さらにプロトンは半世紀にわたって運用が続けられており、実績や信頼性もあった。そのため一時は、静止衛星の商業打ち上げ市場の約60%のシェアをにぎっていたほどだった。

しかし、2000年代の後半から打ち上げ失敗がたびたび起こるようになり、ほとんど1年に1機は失敗するようになった。もちろん1年に10機前後という打ち上げ回数の多さは加味する必要があるものの、改良され、打ち上げを再開しても、一向に安定することなく失敗を繰り返すことから、信頼性は下がり続けた。ある関係者は「あんな毎年1回墜ちるようなロケット、誰が使いたがると思いますか」と語るほどだった。

そんな中、米国のスペースXがプロトンMと同じくらいに安価な「ファルコン9」ロケットを開発。打ち上げ能力こそ勝っていたものの、ファルコン9はその後改良され、今ではほとんど同じか、それ以上の打ち上げ能力をもつに至った。市場はこの新進気鋭のロケットに心変わりし、2014年にはそれまでプロトンMがにぎっていた市場での約半分のシェアを、ファルコン9にまるまる奪われることになっている。

○プロトンM、危機一髪

信頼性の低下と商業打ち上げでの地位の低下で、窮地に立たされつつあったプロトンMだが、それでも打ち上げは安定せず、2015年も1回の失敗を経験している。

今回の打ち上げは、2016年6月に通信衛星「インテルサット31」を打ち上げて以来、1年ぶりとなる。なぜ1年も打ち上げが行われたなかったというと、このインテルサット31の打ち上げでもやはり問題が起き、さらにその原因調査の中でさまざまな問題が明らかになったからだった。

この打ち上げでは、プロトンMの第2段にある4基のRD-0210エンジンのうち、1基が計画より9秒早く停止するというトラブルが発生。残る3基のエンジンのみで飛行を続け、第3段を分離した。第3段そのものは正常に稼働したものの、第2段のトラブルによってロケットの速度は予定より不足したままだった。

このままでは打ち上げ失敗の可能性もあったが、そこで活躍したのが上段のブリーズMだった。ブリーズMは5回に分けたエンジン噴射を行う予定だったが、その1回目と2回目の噴射で、計画より数十秒長く噴射することで、第2段のトラブルで失った速度を補填。なんとか予定どおりの軌道に衛星を投入することに成功したのである。

ちなみにこのトラブルにより、第3段機体は当初予定していた場所より手前に落下することになったが、幸い被害などは出ていない。

ロシアの宇宙開発に詳しいRussian Space WebのAnatoly Zak氏によると、その後の調査で、エンジンのターボ・ポンプにつながる推進剤の供給管の取り付けにミスがあったことが判明。さらにポンプの過負荷も加わってこの管が破壊され、エンジンが止まったと結論づけられたという。

通常であれば、対策を施すなどして数カ月で打ち上げ再開となるところだが、しかし、問題はそれだけにとどまらなかった。

●次々と明らかになった余罪、そしてこれからのロシアの宇宙開発の行方は
○次々と明らかになった余罪

ロシアの政治・経済記事を中心とする日刊全国紙「コメルサント」は2017年1月25日、プロトンMの第2段エンジンのRD-0210と、第3段エンジンのRD-0212のすべてに、欠陥が見つかったと報じた。ちなみに型番は違うものの、この2つは基本的には同型のエンジンである。

同紙によると、この2種類のエンジンの燃焼試験を行なったところ、問題が発生。分析したところ、エンジンの部品に本来使われるべき耐熱金属の代わりに、安価で耐熱性の低い金属が用いられていたという。これを受け、すでに生産済みのエンジンすべてにリコールがかけられた。

また、RD-0210とRD-0212を製造している企業「VMZ」へは、ロスコスモスから品質管理の改善が指示され、プロトンMの第1段エンジンを製造する別のエンジン会社エネルゴマシュ(ENERGOMASH)の技術者も交えてのエンジンの点検が行われたという。またVMZの品質管理の責任者は、この問題の責任を取って辞任している。

さらにVMZは、2016年12月に打ち上げに失敗した「ソユーズU」ロケットの第3段エンジンも製造しており、その関連も指摘された。ソユーズUはその後、2017年2月に打ち上げを再開しているが、当初装備していた2014年製の第3段エンジンから、2016年製のものへと交換されたことがわかっている。ただ、2014年製エンジンに何らかの欠陥があったのか、あるいはプロトンMの件と何らかの関連があったのかはわかっていない。

その後、ロシアの新聞やZak氏などの報道によると、2015年から2016年にかけて製造されたRD-0210とRD-0212、合わせて71基のエンジンから問題が見つかったという。また、1月に報じられた合金の品質の問題が改めて確認され、VMZがエンジンのガス・ジェネレーターの製造時、インジェクター部分に仕様書とは異なる、耐熱性の低い合金を使っていたことがわかったという。これにより、ガス・ジェネレーターの燃焼時に、その熱によってインジェクター部分が破壊されうるという。

この71基のエンジンはすべて分解、修理され、さらに試験も改めてやり直す必要があることから、すべての修理には2017年いっぱい、あるいは2018年までかかるとみられている。

また直接的な関係があるかは不明なものの、2016年11月にはフルニチェフで横領事件が起きたことも明るみになるなど、プロトンMと、それを取り巻く何もかもが、さんざんな有様だった。

○プロトンMの復活と改良案

さまざまな問題と改修を経て、プロトンMは約1年ぶりに打ち上げを再開した。今回は第2段も正常に動き、ほぼ予定どおりの軌道に衛星を投入している。

言うまでもなくこれが始まりであり、今年だけでもあと4回の打ち上げが予定されているが、これらを含め、今後10機、20機と連続して成功し続けなければ信頼回復とはならない。さもなくば、商業打ち上げでのシェアをさらに失うばかりか、ロシアの国営企業や政府系の静止衛星、宇宙ステーションのモジュールなども打ち上げられなくなる。

プロトンMはこれまでも失敗のたび、対策を施したといっては打ち上げを再開するも、"毎年1回墜ちる"羽目になっている。ここ数年、ロシアの宇宙産業は組織体制の改革などが行われているものの、それらが功を奏し、今回を最後に失敗の連鎖を断ち切れるかどうかはわからない。

もっともロシアは、プロトンMの復活にまだ希望をもっており、今後もしばらく運用を続ける上に、さらなる改良案もある。

そのひとつが「プロトン・ミディアム」である。前述のように、プロトンMは静止トランスファー軌道に最大7トンという大きな打ち上げ能力をもつものの、逆にいえば2〜5トンあたりの小型・中型の静止衛星の打ち上げには不向きである。そこでプロトンMを改造し、やや打ち上げ能力を落としたロケットが開発されることになった。

改造といっても大がかりなものではなく、基本的にはプロトンMから第3段を取り外し、第1段と第2段の上にブリーズMを載せただけである。これにより機体や発射台などにそれほど大きな変更を加えることなく、必要最小限の改造で開発、運用ができるとしている。打ち上げ能力は静止トランスファー軌道に約5トン、静止軌道への直接投入なら2.4トンになるという。現在のところ初打ち上げは2018年中を予定しているという。

また、プロトンMは打ち上げ能力は大きいものの、フェアリングの内部が狭く、あまり大きな衛星が積めないという問題を抱えている。とくに近年は燃費のよい電気推進エンジンが普及するなどしたため、衛星の質量は据え置きながら、サイズは大きくなるという傾向がある。そこで新たに直径5mのフェアリングが開発されることになり、2020年ごろに実用化するという。

そして希望をもっているのはロシアだけでなく、市場もまた、プロトンMの復活に期待をかけている。打ち上げ停止中の2016年10月には、ILSはフランスに本拠地を置く衛星通信会社のユーテルサットから、2機の新しい衛星の打ち上げ契約を取っている。そのうち1機はプロトンMで、もう1機はまだ影も形もないプロトン・ミディアムであり、その期待の度合いが伺える。

もちろん市場もプロトンMを全面的に信頼したわけではないだろうが、欧州などのロケットと比べた際の価格の安さは依然として魅力なのだろう。またファルコン9も安価ではあるものの、2015年と2016年に事故を起こしたためにまだプロトンMと同じくらいの信頼性であり、すでにいくつもの受注を抱えているため今から契約しても打ち上げが相当先になるという問題もあろう。

さらに大前提として、市場が1つのロケットに依存することはそれ自体がリスクになるため、同じ性能、価格のロケットを複数育て、維持したいという意向も働いたのだろう。

○アンガラーへのバトンはつながるか

ロシアは現在、プロトンMの後継機となる「アンガラー(Angara)」の開発を進めている。アンガラーはまた、単にプロトンMの後継機となるばかりか、プロトンMのようにウクライナ製の部品を使わない、純粋なロシアのロケットであり、さらに有毒な推進剤も使わないので環境にも優しい。

さらにアンガラーは機体の組み合わせ方次第で、小型ロケットから中型ロケット、そして大型ロケットにもできるため、設計の古い中型のソユーズ・ロケットや、ウクライナ製であることから運用を終えることになった大型ロケット「ゼニート」の後継機にもなりうる。そのためまさにロシアにとってアンガラーの完成は悲願であり、なんとしても運用を軌道に乗せなければならない。

2014年には2回の試験打ち上げに成功しているが、現在、ロケット機体の生産拠点をモスクワからシベリアのオムスクに移していることから、しばらく打ち上げができない足踏みの状態にある。新工場が稼働し、次の打ち上げが可能になるのは早くても2018年になると伝えられており、商業打ち上げの開始はさらにそのあとになろう(なお、アンガラーによる商業打ち上げ契約自体はすでに1件成立している)。

しかし2020年ごろとなると、欧州や日本などが次世代ロケットを投入する時期であり、米国でもジェフ・ベゾス率いるブルー・オリジンの「ニュー・グレン」ロケットが登場する。そしておそらくスペースXのファルコン9も、依然として存在感を示しているだろう。その中で、基本的には1990年代の設計で開発されたアンガラーが、ほぼ同じ2020年前後の時期に市場投入されたところで、価格はともかく信頼性や使いやすさでどこまで戦えるかはわからない。

また、アンガラーの素性がいくらよいものであっても、プロトンMで起きている品質管理の問題が足を引っ張り、同じように失敗を繰り返すようなら、商業打ち上げどころか、ロシアの宇宙輸送の自立性を保つことすら危うくなる。

プロトンMに限らず、近年のロシアの宇宙開発は低迷の原因は、結局のところはソ連解体後の資金難で、若い世代の人材を育成したり、新たなロケットや衛星の開発をしたりといった、技術を維持、発展させるための機会が創出できなかったところにある。その問題が解決されない限り、失敗を繰り返すことになるのは避けられない。新しいロケットの開発や運用は、そうした問題を解決するきっかけにはなるかもしれないが、解決そのものをもたらしてくれる特効薬ではない。

今後、プロトンMがかつてのような安定した打ち上げを行えるようになり、そしてアンガラーへ希望のバトンをつなぐことができるかに、ロシアの宇宙開発の未来がかかっている。

参考

・https://www.roscosmos.ru/23633/
・Proton returns to flight successfully with EchoStar-21
・Proton grounded by failing quality control
・http://www.kommersant.ru/doc/3200920
・Medium variant to expand Proton family
(鳥嶋真也)

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