シリコンバレー101 (712) Amazonが買収するWhole Foodsとは? 保有現金の6割を投じる超大型買収

シリコンバレー101 (712) Amazonが買収するWhole Foodsとは? 保有現金の6割を投じる超大型買収

画像提供:マイナビニュース

米Amazonがグルメ食料品スーパー「Whole Foods Market」を展開するWhole Foods Marketを買収することで合意したと発表した。現金支払いと引き受ける負債額を含む買収総額は約137億ドルだ。これはAmazonの企業買収の歴史で、桁違いに大きな規模になる。買収総額でこれまでの最高だったアパレル通販Zapposの買収 (2009年、12億ドル)の10倍以上、3月末時点のAmazonの現金保有額215億ドルの64%をはき出す。Amazonが大きな勝負に出た買収である。リスクは大きい。だが、合併が機能した時の大きなシナジー効果も期待できる買収だ。

Whole Foodsはオーガニック食品や自然食品を中心にした品揃えを特徴とする食料品スーパーだ。ひと昔前、米国のどこにでもある大型食料品スーパーはどこも質よりも低価格優先で、中国やメキシコから安く大量に仕入れた果物や野菜を並べていた。食にこだわる人は、地元の農家から直接購入できるファーマーズマーケットに行ったり、数少ない自然食品スーパーを利用していた。そうした需要に、大型食料品スーパーのスタイルで応えたのがWhole Foodsである。自然食品やオーガニック食品、地元の農産物を揃え、食材や味にこだわった総菜コーナーを設けた。従来の大型食料品スーパーより値段は高い。だが、安全で質の高い食品を手軽に購入できなかったことに不満を持つ層は多く、根強い顧客を獲得して瞬く間に成長した。現在、米国において人口の多い都市部に集中して444店を展開している。

そんなWhole Foodsの快進撃を知っている人たちにとって、同社がAmazon傘下になるのは大きなサプライズである。しかし、1980年に第1号店をオープンし、2000年代に入って急成長を続けてきたWhole Foodsの勢いは2013年に減速に転じ、2016年度は売上高が前年度比2.2%増にとどまった。原因は、Whole Foodsが市場を成長させたオーガニック食品や自然食品の普及である。かつて「高いから」という理由で店に並べなかった一般の大型食料品スーパーも扱うようになってWhole Foodsの特色が薄れた。また会員制ウエアハウス型でオーガニック商品を安く提供し、「Costco+Whole Foods」で話題になった「Thrive Market」のようなネット世代の新サービスの登場も影響した。

5年前のWhole Foodsだったら、Amazonとの合併には乗り出さなかっただろう。しかし、成長見通しが不透明になって株主から改革を迫られている今、Whole Foodsはオンライン販売、オンデマンド型のサービス、モバイルと実店舗を融合させた新たなサービスを視野にAmazonとの合併を選択した。

一方Amazonの視点からこの買収を見ると、生鮮食品を含むグローサリー市場への浸透を狙った一手であるのは明らかである。米グローサリー販売は8000億ドル市場と見られており、エンターテインメントや自動車と共にIT企業が支配力を広げようとして市場の1つになっている。現在、米グローサリー市場のシェアトップは、実店舗型ディスカウントストア最大手であり、Amazonの最大のライバルであるWal-Martだ。2016年の推定シェアが17%。そしてKroger (9%)、Albertsons/Safeway (6%)、Costco (5%)、Sam's Club (3%、Wal-Mart傘下)と続く。Whole Foodsは11位だ。

Bloombergが3月に公開したレポート「Inside Amazon’s Battle to Break Into the $800 Billion Grocery Market」によると、Amazonは2025年までのトップ5入りを目指している。しかし、すでに全米各地にウエアハウスを置いているにも関わらず、生鮮食品を扱う「Amazon Fresh」の提供地域の拡大に時間を要している。ウエアハウスがあっても、それは倉庫であり、短期間で価値を失う生鮮食品を扱うようにデザインされてはいないからだ。

Whole Foodsの買収によって、Amazonは生鮮食品を管理できる全米規模のハブと、高品質な生鮮食品を仕入れて短期間で販売する流通・ノウハウを手に入れられる。Whole Foodsの店舗は都市部に集中し、顧客は比較的所得の高い層が中心である。食品で偏りがあるのは市場を狭めることになるが、モバイルで注文してストアの駐車場で受け取る「Amazon Fresh Pickup」やレジ無し食料品ストア「Amazon Go」など、食料品スーパーを変えようとしているAmazonにはそれも好都合である。そうした層はテクノロジーへの関心が高く、またPrimeメンバーが数多く含まれている。

Whole Foodsの2016年度の売上高は157億2400万ドルだった。Amazonが米グローサリー市場のトップ5に食い込むには300億ドル程度の売り上げが必要であり、Whole Foodsでその半分を一気に積み上げられる。心配されるのは、熱心なWhole Foodsユーザーの中にAmazon嫌いが少なくないと思われる点だが、Jeff Bezos氏が買収した後のWashington Postが新聞社として活気を取り戻していることで、Amazon色に染まるという懸念は以前ほどひどくはない。
(Yoichi Yamashita)

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