巨大ブラックホールの謎に迫れ! - 宇宙重力波望遠鏡「LISA」が2034年に打ち上げ

巨大ブラックホールの謎に迫れ! - 宇宙重力波望遠鏡「LISA」が2034年に打ち上げ

画像提供:マイナビニュース

欧州宇宙機関(ESA)は6月20日(現地時間)、宇宙に望遠鏡を打ち上げて重力波の検出を目指す、宇宙重力波望遠鏡「LISA」(リサ)を、正式にミッションとして承認したと発表した。これから開発を行い、17年後の2034年の打ち上げを目指す。おととし、重力波が初めて検出されたことで幕を開けた「重力波天文学」はいま、新たな段階へ進もうとしている。

○重力波とレーザー干渉計

質量をもつ物体の周囲は時間と空間(時空)がゆがんでおり、物体が特定の運動をすることで、そのゆがみが光速で伝播していく。この時空のゆがみの伝播のことを重力波と呼び、別名「時空のさざ波」とも呼ばれる。

重力波の存在は、1916年に物理学者アルベルト・アインシュタインが予言していたが、その後、多くの科学者が発見に挑むも、100年もの間、直接捉えることはできなかった。しかし2016年2月11日、米国のカリフォルニア工科大学とマサチューセッツ工科大学からなる国際研究チームが、2015年9月14日に米国の重力波望遠鏡「LIGO」で検出に成功したと発表。アインシュタインが残した最後の宿題に、人類はようやく答えを出すことができた。

このLIGOが重力波の検出に使ったのは、「レーザー干渉計」という装置である。

レーザー干渉計は、レーザーを直交する2つの方向に向けて発射し、それぞれの反対側に置いた鏡で反射させて戻し、その2つの光を合成させて比べる、ということを繰り返す。もし重力波がやってくれば、時空がゆがみ、その分だけ光の飛ぶ距離が変わるため、2つのレーザーを合成した際に光の明るさに変化が生じる。これを分析することで、重力波の有無や、その強さや飛んできた方向などがわかる。LIGOはまさに、重力波によって時空がゆがみ、わずか髪の毛の太さの100万分の1程度の距離の変化が生じたことを検出し、この大発見に至った。

しかし、LIGOや欧州、日本などで建設されている地上の重力波望遠鏡で検出、観測できるのは、一般的な大きさのブラック・ホールや中性子星の合体などで生じる、比較的大きな波長をもつ重力波だけである。

一方、太陽の質量の数億〜十数億倍もの超大質量のブラック・ホールが合体したときに出る重力波や、地球から100億光年も彼方にある謎多き天体クェーサーが出す重力波、さらには宇宙が誕生した直後の、宇宙が素粒子ほどの小ささから、一瞬にして銀河サイズにまで膨張したという「インフレーション仮説」で生じた可能性のある重力波などは、波長(ひとつの波の長さ)が数百万から数十億kmという、とても低い周波数をもっている。

この「低い周波数の重力波」を捉えることが、地上のレーザー干渉計では不可能なのである。

レーザー干渉計は原理上、そのレーザーが飛ぶ距離(基線長)を伸ばせば伸ばすほど、低い周波数をもつ重力波を捉えることができる。しかし地上に建設する場合、地球の丸みなどもあって伸ばせる長さに限界があるため、たとえばLIGOでは4kmほどしかない。また地球上では地面が振動するため、それを取り除くのにも限界がある。

しかし宇宙空間であれば、何百万kmという途方もない距離の基線長をもち、地上の振動もない、きわめて高性能なレーザー干渉計を造ることができる。

そこで欧州宇宙機関(ESA)を中心に国際協力で開発されるのが、宇宙に浮かぶ重力波望遠鏡「LISA」(Laser Interferometer Space Antenna)である。

○宇宙に浮かぶ重力波望遠鏡「LISA」

LISAはもともと、ESAと米国航空宇宙局(NASA)の共同プロジェクトとして計画されたものの、予算の都合から2011年にNASAが一度離脱。その後、ふたたびNASAが加わり、計画を主導するESAと検討チームは、LISAの実現に向けた道を探り続けていた。そして今回、ESAのプロジェクトとして正式に選ばれ、開発を目指して本格的に活動が始まることになった。

LISAは、レーザーを出す宇宙機を1機、鏡で受け止める宇宙機を2機の計3機を打ち上げ、太陽のまわりを回る軌道に投入する。そしてこの3機の宇宙機同士を、それぞれ250万km離して三角形を描くような形で編隊飛行させ、そこにレーザーを行き来させることで、宇宙に浮かぶ巨大なレーザー干渉計を造ろうという計画である。

しかし、レーザー干渉計は原理は単純でも、実現には多くの技術的な問題がともなう。たとえば重力波による距離の変化は、前述のように髪の毛の太さのわずか100万分の1程度であり、ほんの少しの振動や、鏡や装置自身のゆがみも観測に悪影響を及ぼす。実際、地上のLIGOでも、遠く離れたところの車や人の往来が雑音となったことがあり、改良に改良を重ねて雑音の影響を取り除けるようになったことで、2016年の大発見が実現した。

これほど繊細なレーザー干渉計を宇宙に造るとなると、たとえば宇宙機同士の距離が正確にわかっている必要があり、もちろん宇宙機自身が振動したり、宇宙の熱環境や、宇宙機自身が出す熱などによってレーザーを発射する装置や鏡などがゆがんだり動いたりしても、やはり雑音となる。さらに宇宙は真空なので、放射線や太陽風などの影響も受ける。

宇宙にレーザー干渉計を造るためには、こうした雑音をなるべく出さないようにするとともに、どうしても出てしまう雑音に対しては、その影響を打ち消すような装置や仕組みが必要になる。そこでESAなどは、宇宙機を精密に制御できる特殊な誘導装置やスラスターを開発。さらにレーザー干渉計の鏡は、金とプラチナでつくられた立方体を宇宙機の中で浮かべる(自由落下させる)ようになっており、熱や振動などの影響を極力受けずに、重力波による影響のみを受けるようになっている。

またESAは、本番のLISAを開発する前に、こうした複雑で難しい技術が本当に実現可能なのかを確かめるため、技術実証機「LISAパスファインダー」(LISA Pathfinder)を開発した。 LISAパスファインダーは2015年12月に打ち上げられ、誘導装置やスラスター、そして肝である鏡となる立方体も問題なく動くことが確認されている。このLISAパスファインダーの成功もあり、ESAはLISAのプロジェクト化を決めた。

現在のところ、LISAの打ち上げは今から17年後の2034年に予定されている。打ち上げ後、LISAは地球の公転軌道とほぼ同じ、黄道面を飛ぶ太陽周回軌道に入り、地球から後方20度、直線距離にして約5000万kmの距離を保ちつつ、そして三角形の編隊飛行をしながら周回する。運用期間は1年間が予定されている。

○重力波天文学の幕開け

アインシュタインが予言してから、実際に直接検出されるまで100年もかかった重力波だが、研究者の間では昔から、重力波が存在することはほぼ間違いないと考えられており、重力波を捉えることはともかく、それ以上に、重力波を利用して宇宙を観測する「重力波天文学」という新たな分野を創出することのほうが大きな課題であり、また期待でもあった。

LIGOは今月15日、2016年12月26日に2度目となる重力波を捉えたことを発表するなど、もはや重力波が存在することは疑いようもなく、その検出や観測も当たり前のことになりつつあり、いよいよどのように重力波を利用していくかが、本格的に考えられる段階が訪れようとしている。

重力波天文学の黎明期にあたる現在、LISAだけでなく、さらにその先のより高性能な「ビッグ・バン・オブザーバー」(Big Bang Observer)という重力波望遠鏡の構想もある。日本でも、LISAと同じように3機の宇宙機を使って、1000kmの基線長をもつ宇宙重力波望遠鏡を目指す「DECIGO」(ディサイゴ)と名づけられた構想がある。

また、東京大学国際高等研究所のカブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)が中心となり、インフレーション仮説で生まれたと考えられる原始重力波を検出することを目指した天文衛星「LiteBIRD」(ライトバード)の検討も行われている。さらに中国も、2025年以降に宇宙重力波望遠鏡の打ち上げを計画しているとされる。

こうしたさまざまな重力波望遠鏡が拓く重力波天文学によって、人類は宇宙の姿をこれまで以上に、それも想像を絶する大きさのブラック・ホールや謎ばかりのクェーサーの姿、さらには宇宙が誕生したときの様子までもが、理解できるようになるかもしれない。

参考

・ Gravitational wave mission selected, planet-hunting mission moves forward / Space Science / Our Activities / ESA
・ Articles | LISA Gravitational Wave Observatory
・ Articles | LISA Gravitational Wave Observatory
・ ESA Science & Technology: LISA
・ LISA - Laser Interferometer Space Antenna -NASA Home Page
(鳥嶋真也)

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