自動車産業に変革をもたらすデータ爆発 - インテルが自動運転に注力する理由

自動車産業に変革をもたらすデータ爆発 - インテルが自動運転に注力する理由

画像提供:マイナビニュース

●なぜインテルが自動運転に注力するのか?
○Intelが自動運転に注力する背景

パソコンやデータセンター向けCPUを中心にビジネスを拡大し、長年にわたって半導体業界トップに君臨するIntel(インテル)。同社は近年、「自動運転」「AI(人工知能)/機械学習(マシンラーニング)」「IoT」「5G」「VR/ゲーム・e-Sports」の5つの分野に注力している。

中でも自動運転分野には、同社のCPUだけでなく、FPGAやメモリといった他のハードウェアに加え、ソフトウェア分野も含めたトータルソリューションとして取り組むなど、注力の度合いは高い。では、なぜIntelが自動運転向けビジネスに注力する必要があるのだろうか。

ガソリンを用いた自動車の大量生産が始まってから約100年を経た現在だが、これまでの自動車の歴史の大半はメカニカルの歴史であったといえる。しかし、1960年代後半以降、世界中で排気ガスによる大気汚染が社会問題化し、さまざまな規制強化が進む中、1970年代の燃料噴射の高精度制御を皮切りに、自動車に本格的なエレクトロニクス化の波が訪れることとなる。エンジン制御を中心とするパワートレーン分野で始まったエレクトロニクス化は、徐々にボディ分野、走行安全分野、カーナビゲーション(カーナビ)のようなインフォテイメント分野へと適用範囲を拡大することとなった。「実は、2000年前後のカーナビの普及から、2000年代の携帯電話の通信網の融合により、データセンターと連携して渋滞情報などを提示することができるようになったが、この時代、そうした技術を普及させた日本は世界を牽引していた」。こう説明するのは、インテル 事業開発・政策推進ダイレクター 兼 chief・アドバンストサービス・アーキテクトの野辺継男氏だ。2010年代に入ると、携帯電話はスマートフォン(スマホ)に置き換わり、併せて情報のやり取りもクラウド化。現在では、カーナビではなく、スマホで得た情報を逆に自動車で活用する、という動きが進んできた。「これから先は、ディープラーニングなどの機械学習技術を活用することで、画像認識精度の向上や走行状況の把握による走行アルゴリズムの学習、自動運転を実現するためのレーダーやLIDARで得たデータのデータセンターでの分析といった動きがある」(同)とのことで、エレクトロニクス化の進展はとどまるところを知らない。

本格的に自動運転車が市場に登場するであろう2020年以降は、自車ではなく、他車のデータを活用して、自車が安全に走行する、といったこともクラウドを活用してグローバル規模で実現される、といのがIntelの見立てである。また、こうしたソリューションを実現するためには自動車-ネットワーク(5G)-クラウド(データセンター)といったソリューションを理解している必要があり、このすべてを理解しているのがIntelであるというのが、同社が自動運転に注力する理由の1つだ。

とはいえ、何も自動運転市場が期待できそうだから、という理由で突発的に自動車分野に参入したわけではない。実際は、10年ほど前からカーナビを中心としたインフォテイメント分野のビジネスを中心に自動車向けの知見を蓄積してきており、自動運転への注力は、そうした取り組みの延長線上という捉え方ができる。事実、インフォテイメント向けとしては、「グローバルで30車種以上、国内でも複数社での採用実績があり、今後も採用件数は増えていく見通し」(インテル 執行役員 Automotive担当の大野誠氏)という。

また、実際問題として、完全自動運転車になると、1日あたり4TBのデータが生み出されるといわれており、走行中は、センサを中心にして生み出されるそうした膨大なデータを数十ミリ秒から遅くても数百ミリ秒レベルで処理する高い演算性能が求められる。そうしたデータ爆発の状況にある自動車分野に対応できる半導体をオートモーティブで求められる高い品質を維持したまま提供できる半導体メーカーは、どの程度あるのか、と言えば、ルネサス エレクトロニクスやNXP Semiconductors(に買収されたFreescale Semiconductor含む)といったこれまでの取り組みから、この分野での知見を積み重ねてきている企業を除けば、そうした先行する企業に近い、もしくは同等かそれ以上のレベルでソリューションを提供できる半導体メーカーはかなり限られてくるといえよう。

●インテル最大の武器となるFPGA
○FPGAは自動運転の切り札になるのか?

さらに、自動運転時代に必要とされる半導体デバイスとしての最大のポイントは高い性能を維持しつつ、消費電力を抑える必要がある、という点にある。自動運転車の開発のみで言えば、GPUをグラフィックス以外の用途に展開し、急成長を続けるNVIDIAが先行しているイメージを受けるが、現状のGPUでは、どうしても消費電力が自動車メーカーが要求するレベルよりも高く、あくまで研究開発用途、という位置づけからの脱却が難しい。ではx86のCPUは、というと、こちらも要求性能を考えれば、現状のAtomでは力不足であるし、それ以上のプロセッサともなれば、要求される電力レベルに比べては消費電力が高い、という認識にならざるを得ない。そこでIntelが期待を寄せているのがAlteraを買収して得たFPGAとなる。

2017年1月、IntelはCES 2017の開催に合わせて、自動運転プラットフォーム「Intel Go」を発表した。これは、自動運転の「開発」に向けたプラットフォームだが、その中心的な位置づけにあるのがIntel PSG(旧Altera)のFPGA「Arria 10 GX」である。また、開発環境としても、OpenCLで回路を構築することが可能な「Intel FPGA SDK for OpenCL」とAltera時代からのFPGA開発環境の発展版「Quartus Prime」となっており、Intel Goとは名前がついているが、極端な物言いであるが、FPGAになじみの薄い人たちにもFPGAに親しみやすくしたプラットフォーム、という言い方ができるものとなっている。

FPGAのその最大の特徴は、回路構成を柔軟に切り替えることができる点。自動車で必要な回路、ネットワークで必要な回路、クラウドで必要な回路を回路規模が許せば、同じチップで描くことができる。また、消費電力もGPUやx86プロセッサに比べれば低い。ただ、それでもArria 10 GXでは実際の車載用途では消費電力が高いといわざるを得ない。Intel Goはあくまで開発向けプラットフォーム、というのは、そうした意味合いも含まれてくるためだろう。

では、Intel Goの今後はどうなっていくのか。ビジネスとして考えれば単なる開発プラットフォームで終わらせるわけがなく、実際の車両にデバイスを載せて活用してもらう必要がある。しかし、実際に車載ECUにx86プロセッサやFPGAが搭載されて、自動運転の心臓部となる可能性があるのかと言われると、まだハードルが高いと言わざるをえないだろう。すでに2016年に車載向けAtom「Atom A3900」 を発表し、ADAS分野にも適用可能だとして、車載用途の幅広いニーズにAtomが適用できることを示しているほか、2017年2月には、産業機器/車載分野向けFPGA「Cyclone 10ファミリ」を発表し、自動運転に向けた取り組みを進めていることはアピールしているが、パフォーマンスやECUへの統合ノウハウ、冗長性など、解決するべき課題が多いはずだからだ。ただし、方向性が変わらない限り、次世代か次々世代かは分からないが、そうした本当に必要な要件をすべてクリアしたAtom AシリーズやFPGAファミリが登場する可能性はあるだろう。

Intelは、こうした取り組みのほか、自動運転アルゴリズムなどを手がけるMobileyeの買収も表明しており、さらなるソリューションの拡充にも余念がない。逆に言えば、そうした機能を統合した製品こそが同社の本命になる、ともいえるかも知れない。高速道路のような、悪路もなく、交差点もなく、信号もないような場所での自動運転は近い将来、実際に活用できる見通しはほぼ見えてきているといえるが、一般道や山道などを含めた完全自動運転は、近いようでいてまだまだ遠い状況となっている。そう考えると、どの半導体メーカーがこの競争から最終的に勝ち抜くのかも、まだ見えていない状況と言ってよいだろう。そうした意味ではIntelが最終的に同分野で勝利を得るために必要な鍵はFPGAをどれくらい有効に活用できるかにかかっているのかもしれない。
(小林行雄)

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