もうイヤホンジャックはいらない? - 無線イヤホンの仕組みを考える

もうイヤホンジャックはいらない? - 無線イヤホンの仕組みを考える

画像提供:マイナビニュース

●技術の進化がイヤホンのワイヤレス化を加速
○イヤホンジャックの廃止とワイヤレスイヤホンの登場

現代の生活では、データ通信、モバイル・デバイスの充電、オーディオなど、あらゆるものがワイヤレス化に向かっています。ワイヤレス・オーディオ市場も活況を呈しつつあるものの、それでも周りを見回すと、電車の中や街頭でも、最もシンプルな機器の1つであるヘッドホンやイヤホンについては現在でもケーブル接続が多数を占めています。

ただし、最近のニュースによると、ある大手スマートフォン(スマホ)メーカーは、長年にわたり採用してきた3.5mmヘッドホン(イヤホン)・ジャックを最新製品からなくしました。時代は変化しています。これは大胆ながら理にかなった一歩であり、ワイヤレス(無線)イヤホン(すなわち耳の中に納まる2個1組の小型ワイヤレス・スピーカ)は必要なオーディオ性能、利点、機能を満たしたうえで、実用的なフォーム・ファクタで実現でき、しかも音楽再生やストリーミングなどの機能をサポートする水準にまで技術は発展したということを意味します。

また、イヤホンジャックをなくすことで、スマホや他のポータブル/ウェアラブル・デバイスの防水性をいっそう容易に強化できます。これらの製品があらゆる屋外環境で動作することが期待されている状況では、イヤホンジャックがないことは重要な利点です。最終的にワイヤレス化が進めば、ケーブルがもつれてイラついたことなど、過去の思い出になります。

現時点まで、ワイヤレス・オーディオ市場セクターの製造業者が注目してきたのは、主にスピーカー・システムの製作でした。これについては、消費者の希望に沿うよう、携帯性や容易な取付けの実現、内装を傷つけない配線・配線収納の工夫を重ねてきましたが、それでも常に課題となっていました。

ワイヤレス・オーディオ市場は進化が明確で、急成長期へと移行しています。調査会社Marketsandmarkets (マーケッツ&マーケッツ)は、「この市場は2022年までに540億ドルに達する」と予測しています。これ自体も大きな値ですが、23.2%という予測CAGR(年平均成長率)は、この市場の変化率と成長率がかなり高いことを示しています。

このような将来的な成長のうちのかなりの部分は、スマホや他のポータブル・デバイス向け市場に関連するもので、成長率が最も高い分野はホーム・オーディオからポータブル・コンシューマ・セグメントに移行します。事実、これらのモバイル・デバイスは単体で、重要な娯楽機器の地位を確立してきました。Grand View Researchによる詳細な研究は、イヤホンおよびヘッドホン市場は、2024年までに単独で150億ドルを上回ることを示しています。レポートでは、テクノロジの進歩と小型化がイヤホンの急成長が見込める主な要因であると説明しています。

ワイヤレスイヤホンは、Bluetooth対応のデバイスをスマホなどのアプリケーションと組み合わせてハンズフリーで使用する形で、一時市場に出回っていました。しかし、消費者はこのような環境に慣れてきており、モバイル・オーディオ環境の一層の充実を期待しています。この期待の根拠となっているのは、現在市販されている、優れた音質を実現すると同時にノイズ・キャンセルや低音強調などの特徴も備えた一部のハイエンド・ヘッドホンです。

したがって、市販されている多くのウェアラブル・デバイスと同様に、魅力的なイヤホンを設計して市場に投入する際のハードルは高くなっています。まず、消費者は動作時間が長い超小型デバイスを求めています。これを実現するには、効率と低消費電力動作が不可欠です。一方で、この特性とある程度相反する可能性もありますが、消費者は深みのある音、低音強調、ノイズ・キャンセルのような機能も望んでいます。ノイズ・キャンセルを実装すると一層複雑になり、マイクと追加回路の実装が必要になります。そのため体積が増えバッテリへの負担も増加します。

●ワイヤレスイヤホンを実現する仕組みを考える
従来型ヘッドホンとイヤホンとの主な違いの1つは、多様性に対する期待度です。ヘッドホンは主に音楽再生のみを想定して最適化されているのに対し、魅力的なイヤホン・ソリューションは一般に、音楽再生、ストリーミング、WS2(Wireless Synchronized Sound:ワイヤレス同期サウンド)、電話呼び出しの取り扱い、センサとのインタフェースなど複数の機能を果たすことが期待されています。また、ワイヤレスイヤホンは、音声コマンド認識テクノロジを搭載している可能性が高いと考えられます。

イヤホン向け半導体ソリューションは、利用可能なスペースが制限されているため、低消費電力かつ高集積度であることが求められます。また、優れた処理性能と音質や高水準の機能をサポートする多様な特性と機能も実現する必要があります。

市場への出荷や、イヤホンの開発と展開をサポートするための新しい半導体デバイスの1つが、超低消費電力で高性能のオーディオ・プロセッサであるオン・セミコンダクターの「LC823450シリーズ」です。デュアル・コアARM Cortex-M3プロセッサと独自の32ビット DSPコアをベースとするSoCで、1,656KBのSRAMと256KBのROMを内蔵しています。

SoC内の高集積MCUは、全部で6個の10ビットADCと1個のリアルタイム・クロック、さらに3つのeMMC/SDインタフェースを搭載しています。

システムの中心部にあるのは、高分解能オーディオ処理(32ビットと192KHz)を実行可能な「LPDSP32 DSPチップ」をベースとしたオーディオ・エンジンです。このエンジンは、MP3エンコーダと、MP3、WMA、AACの各フォーマットに対応したデコーダを搭載しています。また、オーディオ・エンジンには、低消費電力Class-Dアンプ、ジッタ隠蔽機能を搭載した非対称サンプル・レート・コンバータ(ASRC)、6バンド・イコライザ(EQ)、1個のデジタル・マイクPDMインタフェースなどの多数の専用オーディオ回路も内蔵されています。

LC823450は多数の機能と高集積化を実現しているにもかかわらず、消費電力を維持し、イヤホン・アプリケーションの主要な要求を満足しています。動作速度1MHzあたりの消費電力は代表値で110μWです。その結果、2本のAAA(単4)電池を使用した場合、オーディオ再生時間は120時間を上回ります。これは市場に出回っている他の製品よりも約70%長い時間です。

このデバイスのXCおよびXDバージョン(5.52mm×5.33mm)は、他のソリューションよりもはるかに小型です。他のソリューションにはオンボードSDRAMを搭載していないものがあることを考慮すると、特にその特徴が際立ちます。

ロイヤリティ・フリーかつライセンス・フリーの高度なDSPコード・ライブラリの多彩な選択肢が利用できるので、設計者はソフトウェア設計を迅速に行い、開発コストを抑えることが可能になります。これらのライブラリには、ノイズ・キャンセルや可変速度再生を行うためのDSPコードも含まれています。

ハイエンド・アプリケーションにはさらなる上位機能を必要とするものもあり、多数のサポート・デバイスが、オン・セミコンダクターのポータブル・オーディオ・アプリケーション向けポートフォリオを補完しています。このようなデバイスの一例が、"常時待ち受けを行っている"「BelaSigna R281」です。このデバイスはユーザーが覚えさせた1つのトリガ・フレーズを検出でき、検出するとウェイクアップ信号をアサートします。この超低消費電力デバイスは、音声コマンドに応答する機器を想定しています。

電力を節約するために、メイン・システム(多くの場合はLC823450ベース)はパワー・ダウン状態にあり、R281は特定のフレーズを待ち受けます。フレーズを検出すると、R281はGPIO経由でウェイクアップ割り込みを送信し、メインLC823450システムは受信を引き継いで音声コマンドをデコードし、それに反応します。

他の多くの市場と同様、明らかに適切なテクノロジの登場がワイヤレスイヤホン市場を実現するための主な推進要因の1つです。高い水準の集積と低消費電力を両立したアプリケーション特化型の専用デバイスが利用可能になった時点で、ワイヤレスイヤホン市場の高い潜在力が開花し、一気に普及が進むでしょう。

著者プロフィール

Kenichi Kiyozaki(清崎 健一)
ON Semiconductor
Analog Solutions Group
Digital & DCDC Division
マーケティングマネージャー

デジタルカメラ用のSoC(System On Chip)開発を経てオーディオ用のSoC開発に従事、デジタルオーディオ向けのハードウェア開発、および製品企画において10年以上の経験を持ち、技術、マーケットの広範囲な知識を有する。ON Semiconductor入社以前は、証券会社のシステム部門で株式などのトレーディングシステムのソフトウェア開発に従事。京都大学の情報工学において学士号を取得。
(ON Semiconductor)

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