軍事とIT (199) ソナー(3)パッシブ・ソナーの構造に関する基本

軍事とIT (199) ソナー(3)パッシブ・ソナーの構造に関する基本

画像提供:マイナビニュース

前回にアクティブ・ソナーの話をしたので、今回はパッシブ・ソナーを取り上げるのが自然な流れだろう。パッシブ・ソナーは受聴専用だから、トランスデューサーではなくハイドロフォンと呼ぶのが普通だ。なお、アクティブ・ソナーのトランスデューサーを受聴用に使うこともできるが、その話はおいておく。

○側面アレイ

船体、あるいはソナー・ドームの側面にパッシブ・ソナーを取り付ける形態がある。特に潜水艦の場合、上下方向の設置スペースもそれなりに確保できるので、縦方向・横方向とも、取り付けられるハイドロフォンの数は多くなる。

例えば、アメリカ海軍のヴァージニア級攻撃型原潜を見ると、船体の側面に3カ所の四角い張り出しがあるが、これが側面ソナー・アレイである。縦横にハイドロフォンを並べているから、それぞれの方向について受聴した音の位相差を調べて、3次元で発信源の方位を知ることができると考えられる。

たまたま写真があったので米海軍の艦を引き合いに出したが、海上自衛隊の潜水艦にも同様の側面ソナー・アレイが付いている。

ただし、取り付ける場所は考慮しないといけない。あまり後ろのほうに取り付けると、自艦のエンジンが発するノイズを拾ってしまって仕事にならないからだ。敵に見つかりにくいようにするだけでなく、パッシブ・ソナーの探知能力確保という観点からいっても、潜水艦、とりわけ機関の静粛性向上が重要な意味を持つことがわかる。

昔の米原潜の中には、自艦のノイズ(OSN : Own Ship Noise)を拾うために専用のハイドロフォンを取り付けていた事例もあった(ひょっとすると現在も?)。それが拾ったデータを、パッシブ・ソナーが拾った音響から差し引けば自艦の騒音による影響をキャンセルできる、という理屈である。

○曳航ソナー

ソナー・アレイが船体に付いているから自艦の騒音を拾ってしまうのであって、自艦から離れた場所にソナー・アレイを置けば、そういう問題を回避できるのではないか、という考え方が出てきた。

そこで登場したのが曳航ソナー。まず、ハイドロフォンを縦にズラッと並べた細長いアレイを構築する。それを艦の後方に繰り出して、ケーブルで艦とつないで曳航する。ケーブルは単に曳航の機能を果たすだけではなく、ハイドロフォン・アレイが拾った音を艦内のソナー機器に伝えるための電気配線も通るので、意外と構造は複雑だ。

しかも、使わない時は艦内に巻き取って収納しなければならないから、ハイドロフォン・アレイは柔軟性を備えていなければならない。そこで例えば、樹脂製のチューブにハイドロフォンを納めた構造にする手が考えられる。

こういう構造の関係で、曳航ソナーを構成するハイドロフォン・アレイは縦一列にならざるを得ない。だから、側面アレイみたいに水平方向と上下方向の位相差をとることはできず、水平方向の方位しかわからないのが普通だ。

その曳航ソナーのサイズはいかほどか。SEA(Systems Engineering & Assessment Ltd.)の製品を例にとると、100Hz〜32kHzをカバーできるシン・アレイ(Thin Array、つまり細いタイプの曳航ソナー)の「KraitArray」は直径16mm。120個のソナー・エレメントを並べて全長150mだという。

参考 : KraitArrayの製品情報ページ

細いシン・アレイがあれば当然、太いファット・アレイもある。そちらは一般的に直径が90mmほどあるという。そうなると、取り扱いも収納も面倒そうだ。

ちなみに最近は、パッシブではなくアクティブ/パッシブ兼用の曳航ソナー・アレイも出てきている。背景には、潜水艦の静粛性向上が進んでパッシブ探知だけでは手に負えない可能性が出てきているとか、ノイズが多く水測状況が良くない沿岸海域・浅海面ではアクティブ探知も必要、とかいう事情があるらしい。

○パッシブ・ソナーのオペレーション

しつこく書くが、パッシブ・ソナーでわかるのは音源の方位だけである。側面ソナー・アレイみたいに前後方向と上下方向の両方にハイドロフォンを並べていれば、方位は三次元で分かるが、距離が分からないのは同じだ。

しかし、アクティブ・ソナーを使って探信すれば、相手の位置はわかるものの、こちらの存在も暴露してしまう。だから、これは「最後の手段」としてとっておきたい。どうやって、パッシブ・ソナーだけで探知目標の位置や動きを把握するか。

1つの方法として、第99回で取り上げた「方位変化率の割り出し」がある。しかし、遠くの目標が速く移動していても、近くの目標がゆっくり移動していても、方位変化率は同じになってしまう可能性がある。そこで別の方法として、こちらが位置や針路を変える方法がある。

例えば、東から西に向けて針路2-7-0で航行している時に、方位0-3-0で何か音源を聴知したとする。これだと、自艦の位置から0-3-0の方位に向かう線を引くことしかできない。

そこで、針路を大きく変えて、例えば、3-3-0ぐらいにしてみる。そして、しばらく移動してから、同じ探知目標の音がどちらの方位から聞こえるかを調べる。すると、異なる位置から異なる2本の方位線を引くことができる。

その際に注意が必要なのは、変針した後ですぐに聴知しないこと。長い曳航ソナー・アレイが、艦の変針に合わせて曲がってしまうからだ。新しい針路に向いたところでしばらく真っ直ぐ航行しないと、後ろに引っ張っているソナー・アレイが真っ直ぐにならない。

この、複数の位置で聴知して方位線を引く方法を、交差方位法(クロスベアリング)という。その際に位置や針路を大きく変えるほうが、複数の方位線がそれぞれ明瞭に分かれることになり、精度が向上する。

ところで、「同じ探知目標の音」とあっさり書いてしまったが、どうやって「同じ」「違う」を判断するか。生の音を耳で聞き分けて判断する手もあるが、聴知した音響データを量子化やサンプリングによってデジタル化して、コンピュータで比較・照合したり周波数分布を解析したり、という手も使えると思われる。

もちろん、デジタル化したデータを保存しておけば、後で別の探知目標を聴知した時に比較・照合する場面で役に立つ。ことにパッシブ探知の場合、音響データをデジタル化して、コンピュータを援用することで探知目標を追い込んでいくプロセスが重要になるだろう。
(井上孝司)

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