夜空に最も明るい星が新たに誕生? - その正体はロシアの宇宙灯台「Mayak」

夜空に最も明るい星が新たに誕生? - その正体はロシアの宇宙灯台「Mayak」

画像提供:マイナビニュース

夜空で最も明るい星は月。2番目に明るいのは、明けの明星、宵の明星としておなじみの金星−−。そんな、太古の昔から人類が慣れ親しんできた夜空の光景が、この夏の間だけ、少し変わるかもしれない。

7月14日、モスクワ工科大学(Moscow Polytechnic University)が開発した超小型衛星「マヤーク(Mayak)」が、宇宙へ打ち上げられた。衛星そのものは手で抱えられるほどの小ささながら、最大でマイナス10等級という、満月に次いで夜空で2番目に明るい星として、そして月が出ていないときには最も明るい星として輝くことができる、ある仕掛けが組み込まれている。

○宇宙の灯台「マヤーク(Mayak)」

ロシア国営の宇宙企業ロスコスモスは7月14日15時36分(日本時間)、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から、「ソユーズ2.1a」ロケットの打ち上げに成功した。

この打ち上げでは、地球観測衛星「カノープスV-IK」のほかに、米国やドイツ、ノルウェーやカナダ、さらに日本のアクセルスペースとウェザーニューズが共同で開発した「WNISAT-1R」などの小型・超小型衛星も搭載されており、合計73機もの衛星が一度に宇宙へ送られた。マヤークもそのうちの1機として打ち上げられ、無事に軌道に投入されている。

マヤークとは、ロシア語で「灯台」を意味する。打ち上げ時のマヤークは、3Uキューブサットと呼ばれる、10cm×10cm×34cmの直方体の形で、質量も約3.5kgしかない、両手で十分持てるほどの"超小型衛星"である。これだけでは、とても灯台という名前は似合わない。

しかし、マヤークにはある仕掛けが仕込まれている。衛星の中には薄い膜のような反射装置が収められており、これを宇宙空間で広げると1辺が3mの三角錐の形になる。この大きな反射装置が太陽光を反射することで、名前のとおりまさに灯台のように、明るく輝くことができるのである。

その明るさは、条件にもよるものの、最大でマイナス10等級にもなると見積もられている。ちなみに満月のときの月はマイナス13等級、イリジウムという通信衛星が太陽光を反射して光るときの明るさは最大マイナス8等級、国際宇宙ステーションの反射は最大マイナス6等級、そして金星が最大マイナス5等級なので、マヤークが満月に次いで、とびきり明るいことがわかる。条件によっては昼間でも見えるかもしれない。

○実はスペース・デブリの処分実験や大気密度の測定が目的

もちろん、マヤークはただ夜空で輝くためだけに開発されたのではない。

マヤークの本来の目的のひとつは、スペース・デブリ(宇宙ゴミ)の処分のための実験である。地球の周囲を回る迷惑なデブリを処分するためには、速度を落として軌道離脱させ、大気圏に落下させるのが手っ取り早い。そのためには、エンジンを逆噴射するなど、何らかのエネルギーを使って減速させることが必要になるが、そのためだけのエンジンを積むのは現実的ではなく、またすでにあるデブリは「死んだ衛星」なのでそれができない。

そこでマヤークは、大気との抵抗を使う。地球の低軌道には、ほんのわずかに大気がある。抵抗のない宇宙空間では、そのわずかな大気の抵抗が積もり積もることで、衛星が大気圏に落ちてしまうほどのエネルギーになるため、国際宇宙ステーションなど多くの衛星は、たびたび軌道の高度を上げなければならない。

しかし、マヤークはそれをデブリを落とすためのエネルギー源として、逆に利用しようとしている。

マヤークは、この大気との抵抗を最大限に利用するため、前述した薄い膜状の反射装置を使う。この反射装置を大きく広げることで、明るく輝くのと同時に、ヨットのように大気の抵抗を受けやすくなり、ブレーキとして働くことから、より効率よく、そして早期に、デブリを大気圏に落下、処分することが可能になると考えられている。

この装置の構造は単純で、展開に大きなエネルギーもいらないため、たとえば今後、新たに打ち上げる衛星に取り付けておき、運用終了後に展開して落としたり、すでにあるデブリに接近して取り付けて落としたりといった展開が考えられる。

マヤーク・プロジェクトのリーダーを務めるAlexander Shaenko氏は「デブリを処分するための一般的な方法は、衛星にエンジンを装備し、運用終了時に噴射して大気圏に落とすことです。しかし、エンジンのコストは高く、またせっかくエンジンを取り付けても、衛星の運用終了時には故障しているかもしれません。そこで私たちは、より簡単かつ迅速な軌道離脱を実現するため、空力ブレーキを開発しました。これにより、たとえばマヤークほどの大きさの衛星は、通常であれば現在の軌道で約3年間周回し続けることができますが、このブレーキによって1か月以内に大気圏に落とすことができます」と語る。

もっとも、このアイディア自体は新しいものではなく、これまでに少なくとも2度、米国やベルギーの小型衛星によって、似た技術の試験が行われている。

また、マヤークが周回する高度にあるような、この薄い大気の密度の測定も目的のひとつである。たとえば太陽活動の影響で大気が膨らめば、マヤークが周回する高度の大気の密度も上がり、その抵抗で高度が落ちやすくなる。逆に薄い場合は降下速度は遅くなる。とくにマヤークの反射装置は大きな三角錐の形をしているため、こうした大気の抵抗による軌道の変化の度合いを、他の衛星より正確に見積もることができると考えられている。

また、満月に次ぐ2番目の明るさになると考えられているその輝きも、実験に利用することができる。反射装置の形や大きさ、反射率はあらかじめ正確にわかっているので、そこから、ある時間帯にある高度を飛ぶと、どれくらいの明るさで見えるのか、という基準を作ることができる。この基準は他の衛星に応用でき、ある衛星がどれくらいの明るさで見えるのか、あるいは逆に、あの明るく見える衛星はどれくらいの(見かけの)大きさをもっているのか、ということを知ることができる。

さらにマヤークは、ロシアで初めてクラウドファンディングによって資金を調達して開発された衛星であり、またプロジェクトにはモスクワ工科大学の学生が参加している。プロジェクト・チームは、国家や大企業だけでなく、誰でも人工衛星を造って飛ばせることの実証や、学生の技術習得、宇宙教育といった目的もあると語る。

○観測に挑戦しよう

マヤークは打ち上げ後、無事に軌道に乗ったことが、プロジェクトの関係者と、また米軍の観測から確認されている。それによると、現在は高度586km×605km(近地点高度:地球に最も近い高度が586km、遠地点高度:地球から最も遠い高度が605km)、軌道傾斜角97.6度の軌道を周回しているという。

プロジェクトの公式サイトでは、衛星の現在位置を表示するAndroidアプリが公開されている(iPhoneアプリも近日公開予定)。また、衛星追跡サイトのN2YO.comやHeavens-Aboveなどでも参照することができる(ともに観測地点の設定が必要)。

7月19日現在、プロジェクト・チームから反射装置の展開が行われたとの発表はまだなく、また、世界各地の衛星ウォッチャーから、その光を捉えたという報告もない。まだ展開が行われていないのか、それとも何らか問題が発生しているのかは明らかになっていない。

なお、前述のように、大きな反射装置があるために、今後1カ月ほどで大気圏に再突入すると考えられている。それはそれでデブリ処分実験の成功といえるが、一方で観測のチャンスは、この夏の間しかないということでもある。

なお筆者としても、面白い取り組みだと考えているので、今後、何らかの発表や報告があり次第、筆者のTwitterなどでお知らせしたいと思っている。

参考

・Technology - Mayak
・Mayak for press English
・The Scientific Value - Mayak
・State space corporation ROSCOSMOS | ROSCOSMOS. SOYUZ-2.1А LAUNCH VEHICLE WITH KANOPUS-V-IK SATELLITE SUCCESSFULLY LIFTS OFF FROM BAIKONUR
・Mayak - Soyuz - 73 Satellites
(鳥嶋真也)

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