イーロン・マスクが弱音を吐露 - 一進一退するスペースXの宇宙開発

イーロン・マスクが弱音を吐露 - 一進一退するスペースXの宇宙開発

画像提供:マイナビニュース

●超大型ロケットと"21世紀の宇宙船"の開発を襲った、苦難と挫折
いまや世界一の宇宙企業としておなじみとなった「スペースX」を率いるイーロン・マスク氏は、7月19日(米国時間)、ワシントンD.C.で開催された「国際宇宙ステーション研究・開発会議」(ISS R&D Conference)に登壇し、開発中のロケットや宇宙船に関する最新情報を明らかにした。

これまでマスク氏が、スペースXの将来、ひいては宇宙開発の未来について語るとき、まるで不可能ではないかとも思えるようなことを堂々と語り、さらに彼独特の比喩やジョークを交えつつ、つとめて明るく話すのが恒例だった。今回の会議にマスク氏が登壇することが明らかになったときも、「また何か、びっくりするような発表があるのでは」と予想する人は多かった。

しかし、その予想は裏切られ、彼の口から語られたのは、現在進めているロケットや宇宙船の開発における苦難と、そして挫折、計画の見直しだった。それはおそらく、公に向けてスペースXの未来について語るときの彼が、初めて漏らした弱音であり、同時に、現実を見据えた本音だったのかもしれない。

○ただ3機のファルコン9を合体させただけでは済まなかった「ファルコン・ヘヴィ」

マスク氏はまず、今年の夏以降に打ち上げ予定の超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」(Falcon Heavy)の開発状況について語った。

ファルコン・ヘヴィは、現在運用中の「ファルコン9」(Falcon 9)ロケットの両脇に、ファルコン9の第1段をブースターとして装着して打ち上げ能力を大幅に高めたロケットで、完成すれば世界で最も大きな打ち上げ能力をもつロケットになる。同社はこのロケットを、大型の特殊な(たとえば軍事用の)衛星や、月や火星に向けた有人宇宙船の打ち上げなどに使うことを考えている。

既存のファルコン9を合体させて造るという点から、ファルコン・ヘヴィは超大型ロケットながら、コストやリスクを抑えつつ、比較的簡単に実現することができる、というのが当初の狙いだった。

しかし実際には、そう簡単にはいかなかったという。マスク氏は「単に3機のファルコン9を合体させるだけでは済まず、はるかに複雑でした」と語る。

たとえば、ファルコン9の第1段にはもともと、9基のロケットエンジンが装備されているが、その機体が3機あるということは、エンジン数は合計27基にもなるということである。それだけのエンジンを同時に点火し、ロケットを安全に発射台から離昇させ、そして飛行させるのに必要な制御技術の開発は、大きな挑戦だったという。

また中央の機体には、両側の機体から推力と振動が伝わる。それに耐えるため、中央の機体のみ、機体構造の大幅な改良が必要になったという。つまりこの時点で「ただ3機のファルコン9を合体させるだけ」というコンセプトが、やや破綻したことになる。

さらに、ファルコン・ヘヴィほど巨大なロケットがどのように飛ぶのか、とくに飛行中に両脇の機体を分離する際の挙動などは、シミュレーションすることが困難であり、実際に飛ばしてみないとわからないところもあるという。そのため「ファルコン・ヘヴィのリスクは非常に高いです。初飛行では軌道に到達しない可能性も十分考えられます」とマスク氏は漏らし、打ち上げが失敗する可能性が大いにあることをほのめかした。

もっとも、「ぜひ、最初のファルコン・ヘヴィの打ち上げを見にきてください。きっとエキサイティングなものになりますよ」とも語り、ユーモアも忘れなかった。

現在のところ、ファルコン・ヘヴィの初打ち上げは今年の夏以降に予定されているが、最短で11月ごろになる可能性が高い。

ファルコン・ヘヴィは、ケネディ宇宙センターの第39A発射台から打ち上げられるが、現在ここはファルコン9が主に使用している。ファルコン9は本来、隣接する米空軍のケイプ・カナヴェラル空軍ステーションの第40発射台から打ち上げられていたが、昨年ファルコン9が爆発事故を起こし損傷したため使えなくなり、機能停止中の状態にある。

そのため、まず第40発射台を修復し、ファルコン9の打ち上げが再開できるようにし、そしてそれによって空いた第39A発射台をファルコン・ヘヴィ用に改修する必要がある。第40発射台の修復完了は今年8〜9月に予定されており、そして第39A発射台の改修には約2か月かかるとされるため、したがってファルコン・ヘヴィの打ち上げができるようになるのは11月ごろという計算になる。

また打ち上げ前には、発射台上で27基のエンジンを同時に点火し、少しの間だけ噴射する燃焼試験も行われる。発射台でエンジンを噴射するのは、スペースXのロケットにとっては恒例行事でもあるが、同時に同社が他にもつ試験施設では27基ものエンジンを同時噴射する試験ができず、この第39A発射台での燃焼試験が初であり、唯一無二の機会でもあるという。

そのため、この燃焼試験の結果次第では、打ち上げがさらに遅れる可能性もあろう。

○"21世紀の宇宙船"ではなくなった「ドラゴン2」

今回の発表で明らかにされたもうひとつの事柄は、「ドラゴン2」(Dragon 2)宇宙船の着陸方法が変わったことである。

ドラゴン2はスペースXが開発中の有人宇宙船で、2018年から国際宇宙ステーションへ宇宙飛行士の輸送することが計画されている。

ドラゴン2の最大の特長は、機体の側面に「スーパードレイコー」(SuperDraco)と呼ばれるロケットエンジンを装備しており、着陸時に逆噴射をすることで、狙った場所に正確に降りられるということにあった。これをパワード・ランディング(Powered Landing)という。ちょうど同社が「ファルコン9」ロケットの第1段機体を着陸させているのと同じ方法である。

かつて人を月に送った米国の「アポロ」宇宙船や、今も活躍するロシアの「ソユーズ」宇宙船などは、着陸にパラシュートを使っている。だが、パラシュートは風で流されるなどして、狙った場所に正確に着陸することはできないので、乗組員や機体の回収が大変で、また着地時の衝撃も大きく、機体を再使用するのも難しい。

一方、ドラゴン2は、ロケットを使って着陸することで、マスク氏いわく「ヘリコプター並みの精度で、地球上のどんな場所でも正確に着陸することができる」とし、また着地時の衝撃も小さく、乗り心地は良く、機体の損傷も避けられる。彼は「21世紀の宇宙船はこうあるべきです」とすら語っていた。

しかし、今回マスク氏は、この先進的な着陸方法をあきらめ、「ドラゴン2は他の宇宙船のようにパラシュートを使って降下し、海に着水することになる」と明らかにした。

その理由として、彼は「安全性と、NASAからの認証の問題」と語った。詳細については明らかにされなかったが、たとえば傘が開きさえすれば安全に着陸できるパラシュートと比べ、エンジンによる着陸は難易度が高く、またそのエンジンが故障する確率も、パラシュートが開かないことと比べれば大きくなる。

また、着陸のためには着陸脚が必要になるが、ドラゴン2では底面にある耐熱シールドに扉を設け、そこから脚を出し入れする仕組みを採用していた。しかし耐熱シールドは大気圏再突入時に猛烈な熱にさらされるため、そのような場所に扉という開閉する部品を組み込むことは、安全性にやや問題を抱えることになる(もっとも、スペースシャトルの底面にも、着陸脚や推進剤パイプの結合部を収容する扉があったが)。

エンジンによる着陸は、ピンポイントかつ衝撃の小さな着陸という利点を得ることはできるが、それは安全性を犠牲にしてまで得るべきものではない。そのためスペースXは、この着陸方法がパラシュートと同じくらいに安全であるようするため、エンジンや耐熱シールドの信頼性を上げるさまざまな工夫をしたり、あるいは着陸脚の展開方法を変えることも考えたかもしれない。

しかし、最終的に「乗組員の安全という観点から、この着陸方法でNASAから認証を受けるためには、さらに多くの努力が必要だった」という理由で、エンジンを使った減速と着陸を断念し、また耐熱シールドの着陸脚も装備しないことにしたという。マスク氏は「NASAから認証を受けることはとても難しいものです。かつて、無人のドラゴン補給船を開発したときにも難しいと感じましたが、有人機はそれ以上に大変です」と語った。

とくにドラゴン2は、2018年から宇宙飛行士を国際宇宙ステーションに運ぶことを、NASAから強く要求されている。スペースシャトルの引退後、NASAは宇宙飛行士の輸送をロシアのソユーズ宇宙船に依存しており、その座席の購入するために決して安くない金額を支払う羽目になっている。また、大手航空宇宙メーカーのボーイングもスペースX同様、新型の宇宙船「スターライナー」の開発を進めており、ある意味では開発競争になっている部分もある。

こうした、ロシア依存から早急に抜け出すためにも、またボーイングに遅れを取らないためにも、スペースXはドラゴン2の完成を急ぐ必要があり、そのために開発や認証により時間がかかりそうな着陸方法をあきらめざるを得なかったのだろう。

またドラゴン2は当初から、エンジンが故障した場合に備え、パラシュートも装備することになっていた。そのため、どうせ装備しているなら、最初からパラシュートを使うべき、という判断があったのかもしれない。

ちなみにドラゴン2の側面エンジンは、ロケットが飛行中にトラブルを起こした際にロケットから脱出するための、「脱出ロケット」としての役目も兼ねていた。そのため、着陸には使わないものの、エンジンそのものは残し、脱出システムの機能は保ったままにするという。

また、マスク氏は「もしかしたらいずれ、(エンジンによる着陸は)復活させることになるかもしれない。ただ、現時点でこのやり方を適用するのは正しいとは思えない」と付け加えており、将来的にエンジンによる着陸を行う可能性については含みを残した。

●「レッド・ドラゴン」は中止か? 火星移民構想は今年9月に最新版を発表
○「レッド・ドラゴン」は中止か?

このドラゴン2の着陸方法の変更は、スペースXのもうひとつの野望にも影響を与えることになった。

2016年4月に、マスク氏はドラゴン2を火星へ打ち上げる計画を発表した。もちろん無人で、なおかつ、使用するのは火星までの飛行や着陸のための改修を施した特別製の機体で、「レッド・ドラゴン」という愛称も与えられていた(発表時の様子は『その名は「レッド・ドラゴン」 - スペースX、火星に無人宇宙船打ち上げへ』を参照)。

この年の9月には、マスク氏は火星に都市を造るという内容の「火星移民構想」を発表するが、もともと彼は火星への有人飛行を目標として掲げていた。そして人が火星に降り立つためには、ドラゴン2のようなロケットの逆噴射による着陸技術が必要不可欠でもある。

というのも、火星にも大気はあるものの、地球よりも薄く、パラシュートで十分に減速して着陸することは難しい。そのため、これまで火星の地表に送られた探査機はすべて、パラシュートによる減速に加え、エアバッグを膨らませて衝撃を吸収したり、着地の直前にロケットで逆噴射をしたりといった方法で着陸していた。もし将来、何人もの人や、物資を搭載した、とても重い宇宙船を火星に着陸させようとした場合には、ロケットエンジンの逆噴射による減速や着陸技術は必要不可欠なものになる。

マスク氏は「ドラゴンを火星に着陸させる際、底面の耐熱シールドと側面に装備したエンジンを噴射するという方法は、正しいと思っていました。しかし、今では正しくないと考えています」と述べた。

しかし、それに続けて彼は「ただ、それよりはるかにいい着陸方法を考えています」とも語った。

この新しい方法がどのようなものなのかは、今回は明らかにされなかった。ただ、この着陸方法は、同社の次世代のロケットや宇宙船で使用されるとし、またこの講演後、Twitterで「火星への着陸は、エンジンを使った着陸になると考えています。ただし、(ドラゴン2より)はるかに大きな宇宙船で行うことになります」と発言している。

つまり、エンジンを使った着陸という方向性は継続するものの、やり方を少し変え、なおかつドラゴン2やレッド・ドラゴンではなく、まったく別のロケットや宇宙船を造って行うという。ただ、その新しい着陸方法の仕組みや、新型ロケットや宇宙船の登場時期など、具体的なことについては明らかにされなかった。

また今年2月、スペースXはレッド・ドラゴンの最初の打ち上げを2020年に予定しており、その後も約2年2か月ごとに訪れる、火星への飛行機会のたびに打ち上げるとさえ語っていた。レッド・ドラゴンによる火星への飛行や着陸といった経験は、同社が進める火星移民構想の実現にとっても重要であり、またNASAも航法や通信などの技術的なサポートや、実験装置を提供することなどを予定していた。

今回のドラゴン2の着陸方法の見直しや、新しい宇宙船の開発といった変更によって、この計画にどのような影響が生じることになるのか、新しい計画はあるのかについても明らかにされなかった。

○次の大きな発表は今年9月に

そしてまた、火星移民計画の現状についても触れられた。

火星移民計画は昨年9月に明らかにされたもので、火星に100人を一度に運べる、全長122m、直径12m、第1段のエンジン数は42基という化け物のようなロケットと宇宙船「惑星間輸送システム」(Interplanetary Transport System)を開発し、何度も繰り返し打ち上げてピストン輸送し、ゆくゆくは火星に100万人以上もの人が暮らす都市を造るという、壮大なものだった(発表時の様子は『私たちが火星人になる日 - イーロン・マスクの火星移民構想は実現するか』を参照)。

マスク氏によると、その後も検討を続けており、現在の構想は昨年9月の発表時のものより、さらに進化しているという。

彼は「(計画の進化の)肝となるのは、この惑星間輸送システムを火星まで飛ばすために必要な、莫大な資金の捻出方法です」と述べた。また「惑星間輸送システムの規模はやや小さくなっていますが、それでもまだ十分に巨大です。ただ、私はこの新しいプランが、経済面でより実現性のあるものになったと思っています」とも語った。

マスク氏は、このやや小さくなった惑星間輸送システムを、火星へ人を送るのと同時に、通常の人工衛星の打ち上げにも使うことを考えているという。それは現行のファルコン9やファルコン・ヘヴィの後継機になるということかもしれないし、また前述した、新しい着陸方法を使う次世代ロケットと宇宙船と関連しているのかもしれない。

いずれにしても、そうした火星ミッション以外の打ち上げなどで得た収益をもとに、火星宇宙船をはじめとする、火星移民のためのシステムを造り上げるつもりだという。

残念ながら今回は、これ以上の詳細は明らかにされなかったものの、マスク氏は今年の9月25〜29日にオーストラリアのアデレードで開催される、「第68回国際宇宙会議」の場で、その詳細について明らかにできるだろうとしている。

○雨降って地固まるか

今回の発表におけるマスク氏の言動やその内容は、"21世紀の宇宙船"と謳っていたドラゴン2の着陸方法を見直したり、「ファルコン・ヘヴィの初打ち上げは失敗するかも」と漏らすなど、いつもほどの勢いはなかった。

しかし、これをイーロン・マスク氏やスペースXの宇宙開発が後退したと見るべきではないだろう。たしかに計画の遅延や修正など、一歩退いたところはあるにせよ、それは有人宇宙飛行や火星移民構想の実現をより確実するためのものであり、すでに代替案や、あるいは従来よりさらに良い案が用意されているようである。したがって、雨降って地固まるようなものと見るべきだろう。いずれにしても、マスク氏とスペースXが、いまだ前を向き続けていることには変わらない。

また、スペースXは今回取り上げた挑戦以外にも、今年から始まったファルコン9の再使用打ち上げをはじめ、第2段機体やフェアリングの回収、再使用に向けた挑戦、「ファルコン9 ブロック5」と呼ばれる最新型機の開発、テキサス州における新しい発射場の建設、そして1万機もの小型衛星による全世界インターネット計画など、いくつもの開発や挑戦を抱えている。

彼らが思い描く、こうした自社と、そして人類の宇宙開発の未来が、はたしてすべて実現するのか、あるいはさらにあきらめざるを得ないことが起こるのか――。ひとまず、今年9月に予定されている火星移民構想の"改定版"の発表を心待ちにしたい。

参考

・2017 ISSR&D Conference - Washington D.C., July 17 - 20 | International Space Station Research and Development
・Mars | SpaceX
・Falcon Heavy prepares for debut flight as Musk urges caution on expectations | NASASpaceFlight.com
・SpaceX drops plans for powered Dragon landings - SpaceNews.com
・Propulsive landings nixed from SpaceX’s Dragon spaceship - Spaceflight Now
(鳥嶋真也)

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