エンケラドスでの生命探査には「ホログラフィック顕微鏡法」が有効 - Caltech

エンケラドスでの生命探査には「ホログラフィック顕微鏡法」が有効 - Caltech

画像提供:マイナビニュース

カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チームは、土星の衛星エンケラドスでの生命探査に「デジタルホログラフィック顕微鏡法」の技術を用いることを提案している。エンケラドスの地表から宇宙空間に向けて噴き出している水蒸気の柱(プルーム)の成分を採取し、サンプル中に微生物が含まれているかどうかを調べる際に同技術が有効であるという。研究論文は、宇宙生物学専門誌「Astrobiology」に掲載された。

エンケラドスは表面を厚い氷に覆われた衛星であるが、氷の層の下には海が存在していると考えられている。無人探査機カッシーニによるこれまでの調査で、エンケラドス表面の氷の裂け目から水蒸気プルームが噴出している場所が100ヵ所以上あることがわかっている。

アメリカ航空宇宙局(NASA)は今年4月、噴出されている水蒸気の成分に、水以外に水素も含まれていることが確認されたと発表した。これはエンケラドスの海底に熱水噴出孔が存在している可能性が高いことを意味している。有機物の存在も確認されており、地球の海底で微生物が生息している熱水噴出孔まわりの環境とよく似た条件が整っている可能性が高いため、地球外生命の発見に期待が高まっている。

エンケラドスの重力が小さく、水蒸気プルームが宇宙空間まで噴き上がっていることも、生命探査の対象としては有利な条件であるといえる。エンケラドスの脱出速度(星の重力を振り切るために必要な初速度)は秒速239mであり、地球の脱出速度(秒速11.2km)と比べても非常に小さい。このためエンケラドスの南極付近の水蒸気プルームは、氷の微粒子もいっしょに吹き飛ばしながら、時速2000km近い速さ(脱出速度の2倍以上)で地表から約500kmの高さに到達している。

探査機をエンケラドスに着陸させ、氷の下の海の中まで送り込むことは技術的難易度が高く、コストもかかるが、宇宙空間に到達した水蒸気プルーム内を探査機に通過させ、採取した水の中に微生物を探すことは比較的容易であると考えられる。

しかし、微生物を含有している可能性のある水のサンプルを宇宙空間で採取できたとして、そこに実際に生きた微生物が含まれていることをどのように確認するのかというのは難しい課題であると研究チームは指摘する。

微生物のサイズは塵などの微粒子と同程度と考えられるので、地球から13億km以上離れた場所にある測定機器を遠隔操作して微生物と他の微粒子の区別をつけなければならない。形状や化学的組成の特徴から微生物を見分ける方法が考えられるが、これらは、微生物の可能性がある物体の直接観察と組み合わせて用いる必要があるとする。

そこで研究チームが注目しているのが、微生物の「動き」であるという。多くの生命体が見せる動きは、化学的性質とは切り離して扱える生物としてのわかりやすい特徴であると研究チームは指摘する。微生物の中には、電子を餌として与えることによって動き出したり、あるいは動きが活発になるようなものもいる。

ただし、無生物粒子であっても動かないわけではなく、気体や液体の中では活発にブラウン運動をしているので、これと微生物の動きを区別する必要がある。このための有効な観察手段が、デジタルホログラフィック顕微鏡法であると研究チームは主張する。

デジタルホログラフィック顕微鏡法は、観察対象の物体にレーザー光を照射し、物体から反射して戻ってきた散乱光を検出器でとらえて、物体の三次元像を得る技術である。検出器でとらえた戻りの散乱光に含まれている光の振幅と位相の情報を使ってコンピュータ処理することで、三次元の物体像を再構成できる。同じ方法によって、三次元空間内における縦・横・高さ全方向での物体の動きを再現することも可能である。これにより、微小な物体の微小な動きを観察・追跡できるという。

また、蛍光色素による標識を使うことで、生命現象のしるしとなるタンパク質、糖、脂質、核酸といったさまざまな分子を見分けることができ、微生物の組成についての情報を得ることも可能であるとしている。

デジタルホログラフィック顕微鏡法をエンケラドスなどでの地球外生命探査に利用することの有効性を実証するため、研究チームは、北極で採取した低温の水の中にわずかに含まれている微生物を、同法によって特定する実験を行った。その結果、北極の水1ml中に存在する1000個程度の生細胞を特定することができたと報告している。水1ml中に1000個の生細胞というのは、氷底湖など地球上で最も過酷な環境下における生細胞の密度にほぼ等しい(通常、海水には1mlあたり10000個程度、池の水には同100万〜1000万個程度の生細胞が含まれているとされる)。

デジタルホログラフィック顕微鏡法は、こうした希薄な密度でも微生物の細胞を特定でき、なおかつ低温で動きが鈍っている微生物も検出可能で、測定にかかる時間も1mlあたり1時間程度と短い。また、装置に可動部もほとんどない。こうした特徴から、同法は宇宙生物学用途として理想的な観察手段であると研究チームは強調している。今後は微生物の数が少ない南極地域などのサンプルも使って、同法の有効性をさらに確認していくという。
(荒井聡)

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