シリコンバレー101 (724) 第4世代Apple TVを持っていても「Apple TV 4K」を買う理由

シリコンバレー101 (724) 第4世代Apple TVを持っていても「Apple TV 4K」を買う理由

画像提供:マイナビニュース

9月12日に行われたAppleのスペシャルイベントで、同社は「iPhone 8」シリーズ、「iPhone X」、「Apple Watch Series 3」、「Apple TV 4K」などを発表した。この中で最も目立たず、そして話題を呼び起こせていないのが「Apple TV 4K」である。6月のWWDCではtvOSだけ秋のメジャーバージョンアップの説明がなく、その時からあまり力が注がれていない感じがしていたが、Apple TV 4Kはデザインを変えずに中身だけのアップデートになった。

そんな感じなのでApple TV 4Kが今一つ盛り上がっていないのは仕方ないと思うが、でも、私はApple TV 4Kを買おうと思っている。ちなみに、ウチにはtvOS搭載でApple TV用アプリを使える第4世代のApple TVがある。それにも関わらず……だ。理由は、今年の年末商戦で「4K HDRテレビを買おうかな」と考えていたから。そこに4K HDR対応のApple TV登場で踏ん切りがついた。それで何をしたいのかというと、Appleのプレスリリースがよく物語ってくれている……「4KとHDRで映画館の魔法を自宅に再現」である。

もちろん4K HDRだけで、今の映画館で見る映像の迫力が自宅で再現されるとは思ってはいないし、映画館には映画館でしか楽しめない体験がある。でも、「わざわざ映画館で見るほどではないなぁ」というような作品、時間がないけど今見ておきたい作品などを自宅にいながら素晴らしい映像で見られるようになったら、もっと映画を楽しめそうだ。フルHDだったら近くに寄った時に粗が目立つ大画面でも4Kなら精細である。それでも、それだけならフルHDよりも情報量が増えただけだけど、広いダイナミックレンジのHDRと組み合わせた4K HDRコンテンツのリアリティのある映像は格別である。なにより、それを実現できるテレビが手頃な価格帯に近づいてきたのだから「自宅で映画館の魔法」を考えたくなる。

日本で4K/8Kの実用放送が始まるのは2018年末だ。「オリンピックまでに」という明確な目標のない米国はもっとのんびりとしている。だからといって、4Kテレビが売れていないかというと、米国でテレビ全体が伸び悩んでいるのに対して4Kは好調である。精細な画面はキレイだし、値段が手頃になってきたというのもあるが、NetflixやAmazon Prime Videoなどネット配信の4K対応が大きい。以前は4Kストリーミングに普及帯のブロードバンド回線が追いついていないところもあったが、それも改善されつつあり、今年のホリデーシーズンに4Kテレビが注目商品になるのは間違いない。

テレビの歴史を振り返ると、白黒、カラー、HDと、テレビの進化は地上波放送の進化だった。それがこのタイミングで4Kテレビが普及したら、ネット配信主導でテレビの進化が起こることになる。人々のテレビの使い方、楽しみ方が変わったと言わざるを得ない。

映像コンテンツのネット配信へのシフトは、Appleにとって大きなチャンスである。ネット配信においてコンテンツを消費するディスプレイはテレビだけではない。iPhoneでも、iPadでも、Macでも楽しめる。

音楽プレーヤー「iPod」は音楽ストア「iTunes Music Store」によって大きく開花した。「iPhone」もアプリストア「App Store」によって爆発的な成長を遂げた。音楽やソフトウエアを人々が便利に消費できる仕組みを用意し、同時にミュージシャンや開発者に新たなビジネスチャンスを提供することで、Apple製品を中心としたエコシステムの良循環を生み出した。Appleが映像コンテンツでも、同じアプローチをとっても不思議ではない。

Apple TV 4K発売に併せて、iTunesでは、20th Century Fox、Lionsgate、Paramount、Sony Pictures、Universal、Warner Bros.といった大手スタジオの4K HDRコンテンツを販売する。価格はHD版と同じ。4K HDRコンテンツをすでにHD版で購入していたら、無料で4K HDRへのアップグレードを提供する。

4K HDRコンテンツを体験した人たちは、その映像の虜になると期待できる。4K HDRは「映画館ではなく、自宅で映画」というシフトの原動力になり得る。そしてネット配信を活用し始めた人たちをAppleのプラットフォームに取り込みたいという狙いが伝わってくる。

たとえば、Disneyと強い関係を持つAppleが、将来Star Warsシリーズ作品を独占的にデジタル配信する権利を勝ち取るということが起こるかもしれない。これからもStar Warsの新作は映画館で封切られるだろう。でも、自宅に居ながら大画面テレビで4K HDRコンテンツを楽しむ人たちが増え、それが映画館の規模を超えたら、ネット配信でも同時に封切るということが起こるかもしれない。その時に「iTunes独占封切り」ということになっても不思議ではない。すでに音楽では、iTunesやTidalなどでのアルバム独占先行配信が話題になり、それがアルバムの大ヒットにつながっているのだ。

Apple TV 4Kは外観だけなら前世代と全く変わっていないが、中身はこれからの映像コンテンツ配信のトレンドを押さえたアップデートになっている。さらにメジャースタジオを巻き込んで4K HDRコンテンツで勝負に出てきたところに、Appleの本気が感じられた。この秋にはAmazonがFire TVの新製品を投入すると噂されている。だが、そのAmazonもAmazon Prime VideoをApple TVに提供する。それぞれデバイスの競争は意識しているだろうが、小さな市場で小競り合うよりも、映像コンテンツのネット配信を一段と高いレベルで広く普及させることで共に巨大な市場にチャンスを広げられる。
(Yoichi Yamashita)

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