落合陽一×角田陽一郎(バラエティプロデューサー)「『電波を独占する』というテレビの優位性は崩れつつある」【前編】

落合陽一×角田陽一郎(バラエティプロデューサー)「『電波を独占する』というテレビの優位性は崩れつつある」【前編】

「現代の魔法使い」落合陽一(左)とバラエティプロデューサーの角田陽一郎(右)

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』『EXILE魂』など、世紀をまたいで人気テレビ番組の企画・制作を手がけてきたバラエティプロデューサーの角田陽一郎(かくた・よういちろう)。2016年末にTBSを退社し、映画監督、アプリ制作、舞台演出、そして講演・著述活動と八面六臂の活動を展開。そして、この3月から『週刊プレイボーイ』でも新連載がスタートしている。

まだTBSに在籍中の2009年にネット動画配信会社goomoを設立した角田は、従来型テレビ番組の売れっ子ディレクター、プロデューサーでありつつ、テレビ業界ではかなり早くからニューメディアの可能性に目を向けてきた人物でもある。オールドメディアの雄、テレビの未来やいかに。

* * *

角田 僕は1994年にTBSに入社し、バラエティでけっこう人気番組をやったんですが、人気番組って視聴率をとらないとダメなんです。視聴率を気にしてずっと仕事をしてきた僕が変わるきっかけになったのが、2005年2月8日。日付まで覚えてます。

その日、僕は領収書の精算をしていました。僕はそういうのが苦手なタイプで、未精算のものが何枚も残っちゃって、「うわ、何万円も損しちゃうなあ」と思ってた時に、緊急ニュース速報が流れたんですよ。「ホリエモン(堀江貴文氏)のライブドアが700億円でニッポン放送を買収」というニュースでした。

ホリエモンは東京大学の一個下なんです。僕は大学に入ってからずっとフリとオチのことばかり考えて、テレビ局のバラエティ部門に行って、領収書の細かい金額に煩わされてる。ずっと金儲けのことを考えていたホリエモンは700億円動かしてる。この落差はなんだ。僕も10割とはいわずとも、3割くらいはお金のことを考えるようにしよう。そう決めて翌日会社に行ったら、景色が変わってたんですね。

落合 なるほど。

角田 つまり、周りの環境ってなかなか変わらないんだけど、ひとつ違うレイヤーの視点を入れるだけで、見える景色が変わるんです。これは皆さんにもぜひ経験してもらいたいんだけど。

どう変わったかというと、ちょうどその週に『東京フレンドパーク』に嵐を呼んで高視聴率がとれたって社員が喜んでたんだけど、お金儲けのことを3割考えながらそれを見たら、「こいつらアホだな」と思えちゃったの。嵐だったら、国立競技場に呼べば7万人くらい軽く埋まるじゃないですか。チケット一枚3000円としても、2億1000万円。その何割かは事務所側に持って行かれるだろうけど、それでも制作費と利益は回収できるじゃん? なんで彼らをスタジオに呼んで、そこにお客さん200人くらいタダで入れて、視聴率を稼いでスポンサーからお金もらう......なんていうまどろっこしいシステムでやってんだろうなあ、と思った。これが僕の変わったきっかけです。

その後、2012年から『オトナの!』という番組を深夜にやったんですが、これは簡単にいうと、TBSからはお金をもらわずにやりました。僕は映画のプロデューサーみたいに自分でスポンサーのようなものを連れてきて、番組より先にまずロックフェスなどのビジネスモデルを作って、その拡散、PRにテレビを使いませんか、という形にしたんです。

これを僕は"放送のゼロ次利用"と呼んでます。一次利用はテレビにCMを出すスポンサーからお金をもらうことで、二次利用はDVDとかグッズで儲けることですね。それらの前のゼロ次の段階で、まず先に面白いことをやりましょうよ、ビジネスモデルを作りましょうよ、と。『オトナの!』ではロックフェスを5、6回開催したんですが、極端な話、その入場料で番組を作っちゃえば、視聴率がゼロでもいいんです。

そういうゼロ次利用をずっとやっていたんですが、それだったら別にTBSにいなくても、どこでも作れるじゃないですか。そう思ったので、ちょうど落合さんと一緒にAbemaTVに出た半年後くらい、2016年末にTBSを辞めました。そんな感じです。

落合 ありがとうございました。僕の見るところ、ここ数年で学生さんの志望が大きく変わってきています。テレビ局に行きたい人が減り、「テレビだったらAbemaTVに行きたい」という子のほうが多くなっています。そういう時代の変化も含めてお話ししていきたいと思います。

そもそも、角田さんはなんでテレビを志したんですか? テレビっ子だったんですか?

角田 テレビっ子だったというのもあるけど、僕は大学で歴史をやってたんです。東京大学の文学部西洋史学科というところだったんですが、なんで世界史を選んだかというと、すべてのことは歴史だなと思っていて。例えば、ビートルズが好きなら一枚目の『Please Please Me』から最後の『Let It Be』まで順に聴くじゃないですか。すべてのことに興味があるなら、歴史をやっておけばなんでもできるな、と思ったのが歴史を選んだ理由です。

落合 角田さんの世界史の本、めちゃくちゃ面白かった。

角田 『最速で身につく世界史』という本で、一神教と多神教の違いは矢沢永吉とAKB48だ、みたいな見立てで世界史を書いてます。

それで、大学時代はちょこっと演劇もやってたんですが、そういうエンターテインメントをやりながらそこそこお金をもらえるのはどこだろうといえば、テレビが最適だなと思ったんです。映画も本気で作りたかったけど、その頃はもう東宝とかに社員で入っても監督にはなれなくて。一方、テレビ局が映画に出資するようになっていった時代でもあったので、「テレビに行けばなんでもできるじゃん感」があったんですよね。

落合 なるほど。テレビって、WEBマーケティングの人たちから見ると、いわば「つけ放題のデカいスマホが家に一台ある」ような状態だと思うんです。

今、4K映像に堪えるスペックのテレビを家に置いている人たちは、あと10年くらいはそのまま習慣としてテレビを見るだろうと思うし、それだけに有効活用できる方法はまだあると思ってるんですけど。

角田 「給料が3割くらい減ってもいい」ってテレビ局の人がみんな思えれば、テレビ業界はまだまだ安泰です。ただ、やっぱり7割になったらイヤだから、みんな困ってるんじゃないかと思うんですよね。

落合 そう思います。本や雑誌やCDみたいに、ハードとコンテンツが一緒になって売られているものと比べると、テレビ放送は受信機であるハードウェアを入手する初期コストだけで、あとは無料&無線でコンテンツが流れ込んでくるから、そこが非常に強かった。同じようなコンテンツってなかなかないですよ。

角田 僕、10年前にTBSの子会社のgoomoを立ち上げて、今のAbemaTVみたいなことをやってたんですが、その時にわかったのは、回線代、サーバー代はタダじゃないってことでした。一方、電波はほぼタダなんですよね。というか、本当は電波って全国民、全人類の資産なのに、日本の電波帯ではテレビ局6局だけが独占的に使ってる。これがネットより強かった、というのがあると思います。

だけど、最近は回線がどんどん早くなってきて、もうすぐ5Gも始まるじゃないですか。すると、今度はこういうことが起きるんです。

今のテレビ放送は、アンテナを立てないと電波が届かない地域がある。あのアンテナって、10年くらいごとに機材を更新しなくちゃいけないんですね。北海道の放送局なんて、その更新に500億円くらいかかる。そうすると、「もう替えなくていいんじゃないの?」という議論が出てくるんです。

落合 つまり、光ケーブルなどネット回線に切り替える。

角田 はい。北海道や長崎、あとは沖縄の離島とか、そのあたりはもう全部ネットで見ましょうみたいな話になってくると、電波が持っていた優位性が減るかもしれません。

落合 僕もいろんな電波帯域の話をする機会があるんですけど、テレビの電波帯がほぼタダで使えるっていうのはなかなか強力というか。

角田 ですよね。だけど、ちょっとだけテレビの擁護をしておくと、その代わり報道がマストになっているんです。報道って意外と、赤か黒かでいったら赤字でしかないんですが、やらないと電波を使わせてもらえなくなるから、どこの局もやってるんですよ。

落合 報道番組にいると、めちゃめちゃ人がいるなっていう印象がありますよね。オーケストラのシンバルみたいな人もいる。

角田 たとえがうまい(笑)。

落合 ずーっと待ち構えて、1時間に1回「シャーン!」と鳴らすみたいな役割の人がいる。例えば、国会前で中継する人にしても、あの30秒、45秒を差し込むためだけに1、2時間前からあそこで待ってるわけでしょう。

角田 あれも本当はおかしくて、取材した内容を原稿として送って、スタジオでそれを読めば済む話なんですよね。ただ、画作りをどれだけ複雑に見せるかに命を懸けるのがテレビのコンテンツの面白さだ、みたいなところがあるんです。

落合 まあ、もうちょっと回線速度が安定してきたら、スマホ一台で中継できるので、だいぶ楽になりますね。

皆さんはあまりわからないかもしれないけど、情報番組とかバラエティ番組の台本って、めちゃくちゃちゃんとしてますよね。どこで誰にどうやって振るか、みたいなことを放送作家さんが死ぬほど考えて、毎回頑張ってんなあといつも思うんですけど。

角田 特に生放送だとリスクが高いから、台本はちゃんと作りますね。でも、その通りにやるかどうかは出演者さんによって相当差があります。

僕が知る限り、一番台本が関係ないMCは明石家さんまさんでございまして。さんまさんは台本があっても読まないし、聞いてほしい質問がそこに10個書いてあるとしたら、1個も使わない。その代わり、オリジナルのすばらしい10個が出てくるんです。

僕、ADの時に「CM行きます」ってカンペ出したら先輩に怒られたんですよ。「CMに行くか行かないかはさんま師匠が決めることだから」って。さんまさんがしゃべって、しゃべって、気持ちよくなってるときに、「よろしければCMの用意がありますよ」的な感じでカンペを出さなくちゃいけない(笑)。

ただ、僕も最近テレビに出演する側になって、わかったことがあります。「面白い人」には「面白いこと言う人」と、「面白いこと考えてる人」の2種類あると思うんだけど、テレビって「面白いこと言う人」しか出られないんですよ。「面白いこと考えてる人」は、それをしゃべったり表現したりするのに尺がかかるから。尺がかかると視聴率が下がっちゃうから。

落合 自分もしゃべるのに時間がかかる人間なんで、ウェブのほうが向いてるのかなと思います。テレビだと、単独ゲストとかでやるのはいいと思うけど、ひな壇一発芸には向いてない。だからあまりそういうのは出ません。

角田 ひな壇が流行ったのって、2011年からだって知ってます? 地デジ化からなんですよ。地デジになって、みんなテレビを買い換えたじゃないですか。それで画面が16対9になったでしょ。

落合 画面が大きくなって、横に広がったんですよね。

角田 そう。画面が大きくなったから、ひな壇を置かないとスカスカになっちゃうから流行ったんです。ひな壇って前4人、後ろ3人でだいたい7人ぐらい映るんですけど。

逆にYouTubeとかだと、ワンショット、ツーショットが基本でしょ? 今、落合さんが求められてるのも、ひな壇的なものからワンショット、ツーショット的な場所でちゃんとしゃべるという方向にコンテンツが移動してるからだと思いますよ。

落合 そうですね。ふたりの絵面はスマホに向いてるし。

◆後編⇒落合陽一×角田陽一郎(バラエティプロデューサー)「これからのコンテンツは、ボルテックス(渦)と呼んだほうがいい」

■「#コンテンツ応用論2018」とは? 
本連載はこの秋に開講されている筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一学長補佐が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学学長補佐、准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『日本進化論』(SB新書)。

●角田陽一郎(かくた・よういちろう) 
1970年生まれ、千葉県出身。東京大学文学部西洋史学科卒業。1994年にTBSテレビに入社し、『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』『オトナの!』などの番組をディレクター、プロデューサーとして担当。2016年末にTBSテレビを退社、バラエティプロデューサーとして独立し、さまざまなフィールドで活躍している。『「24のキーワード」でまるわかり! 最速で身につく世界史』(アスコム)、『運の技術 AI時代を生きる僕たちに必要なたったひとつの武器』(あさ出版)など著書多数。

★角田陽一郎氏の新連載『Moving Movies〜その映画が人生を動かす〜』週刊プレイボーイでいよいよスタート!

独自の指標に基づき、古今東西の映画作品にどれだけの価値があるかを数値化するレビューサイト『iiMovie』(※)を立ち上げた角田氏。自身がインタビュアーとなり、各界の著名人たちの映画体験をひも解く対談連載がいよいよスタート。「人生を変えた作品」や「今でも忘れられない作品」などを掘り下げ、ゲストの人生に迫ります。

現在発売中の『週刊プレイボーイ12号』では、初回拡大版として角田氏のインタビューを掲載中。そして次週3月18日発売の13号より、対談形式の通常版が始まります。最初のゲストは、ブルーリボン賞監督賞を2年連続受賞中の映画監督・白石和彌氏です。

(※)『iiMovie』とは、独自の指標である「影響力指数=ii(インフルエンス・インデックス)」を使って、大好きな映画作品へのピュアな気持ちを表現するサイトです。

構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博 協力/小峯隆生

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