落合陽一×辻 愛沙子(クリエイティブディレクター)「分断が起きがちな社会問題に、あえて『ポップ』を持ち込む理由」【前編】

落合陽一×辻 愛沙子(クリエイティブディレクター)「分断が起きがちな社会問題に、あえて『ポップ』を持ち込む理由」【前編】

「現代の魔法使い」落合陽一(左)と「クリエイティブディレクター」辻 愛沙子(右)

2019年7月に行なわれた参議院議員選挙。ツイッターを中心に、「選挙に行ったらタピオカ半額」という風変わりなキャンペーンが話題を集めた。

このキャンペーンを仕掛けた気鋭のクリエイティブディレクター、辻 愛沙子(つじ・あさこ)は現在24歳。慶應義塾大学SFC在学中に企業ブランディングやセールスプロモーションを手掛ける株式会社エードットに入社し、19年10月に株式会社arca(アルカ)を立ち上げた。"社会派クリエイティブ"を掲げ、広告クリエイティブのノウハウを駆使して社会課題の解決を目指す活動を展開している。

『news zero』(日本テレビ系)の日替わりパートナー同士(曜日違い)という関係にある辻と落合陽一(おちあい・よういち)がこの日、繰り広げたのは、日本におけるジェンダー観をめぐるトーク。その内容は、講義を受講する筑波大学の学生たち(多くは1、2年生)にも深く響いたようだ。

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 私は中学・高校時代をイギリス、スイス、アメリカで過ごし、大学生になる頃に日本に帰って来ました。絵を描くのが好きだったので美大に行こうかとも思ったんですが、迷った結果、SFCに入りました。デジタルアートみたいなものも学べるかなと期待していたんですが、ちょっと刺激が足りず、在学中にエードットという広告代理店のベンチャーに入社しました。

自身の仕事として最初に手がけた大きな仕事が、2017年夏に行なわれた「お台場ウォーターパーク by ハウステンボス」のナイトプールです。ただ、こういったエンターテインメント寄りの仕事だけでなく、最近は自分で会社も立ち上げて、社会課題に関連する広告クリエイティブを軸に活動していますので、今日はそのお話をしたいと思います。

エードットでは「Tapista」(タピスタ)というタピオカ屋さんのブランディングをしています。ネーミングからコンセプトメイク、グラフィック、店内の内装やプロモーションまで、立ち上げからブランディングにまつわる部分を一貫して手がけた仕事です。

タピオカというと10代、20代の女性向けのポップな仕事だと思われがちでしょうし、実際もちろんターゲット層はF0/F1前半なので、内装や導線設計は写真を撮る前提でデザインするなどの工夫をしています。そうしてターゲット属性に向き合っていった結果、プロモーションの軸で別の文脈が見えてきたんです。

ちょうど今年(19年、以下同)の夏は選挙があり、若年層の投票率がたびたび問題になっていました。それを受けて、私たちの世代の低い投票率を少しでも改善できないかという軸の下、「選挙割キャンペーン」を実施しました。すごくシンプルに、投票済証明書を持ってTapistaのお店に来たら半額になるというものです。

ポスターを貼るなどコストがかかることはせず、「選挙とタピオカ。関係なさそうで、すごく関係してる。ほら例えば、『消費税』だって。」というようなコピーを何通りか書いたものをレイアウトして、その画像をSNSで発信したのみ。すごく話題になりまして、一日に3500人ものお客さまが選挙割でいらっしゃいました。

タレントさんが賛同してくださるなどSNS上での盛り上がりが起こった結果、テレビをはじめとしたメディアにも取り上げられ、同時に別の業態でもこのキャンペーンの連鎖が起こりました。

広告クリエイティブの世界で挑戦できるのは、かなりミクロ的なことが多いです。あくまで意識を向けるきっかけを作るというか。このキャンペーンでも、マクロ的に見れば若年層の投票率には大きな影響を与えられていないのが現実です。

でも、生活者に密接に隣接している広告クリエイティブの領域だからこそ、そこからアクションやマインドセットに風穴を開けて、別業態や自治体などに連鎖していくムーブメントを引き起こすこともある。ミクロな視点でのきっかけ作りと、大きなルールチェンジを同時に実現していくことが大事なのではと思っています。

それから、私が特に強い思い入れを持っているのがジェンダーにまつわるプロジェクト「Ladyknows」です。フェミニズムについて語るメディアやプロジェクトって、当事者意識に基づいているものが多くて、もちろんそれはとても重要なことなのですが、一方でツイッターなどを見ていると「分断」が引き起こされているように思えるんですね。

ミクロ的な意識改革へのアクションと、マクロ的なルールチェンジとの双方を並行して行なっていかなければいけないのですが、そこで片方の言論が強くなりすぎると興味・関心を持っていない層の中で曲解されたり、誤解が起きたりして分断が生まれるといったことが増えているなと最近特に強く思います。

落合 確かに、SNS上の議論を見ていてもフィルターバブルやエコーチェンバーによるタコツボ化を感じることが多いテーマだとは思います。私見ですが。

 そこで私たちは、事実(ファクト)ベースでデータをもとにジェンダーをひも解くことからLadyknowsを始めました。

実際に男女差が明瞭に表れているデータをお見せします。例えば、「上場企業における女性役員の割合」は100人に4人、これでもここ数年で3.5倍に増えた結果です。それから「選択的夫婦別姓」というテーマですと、結婚後に男性側の姓を名乗っているカップルが95%です。

女性側の姓をとるのが4%で、あとの1%が法律婚ではない結婚のあり方、いわゆる事実婚と呼ばれる、はあちゅうさんで話題になっている夫婦別姓が可能な結婚のあり方です。

それと、衝撃的なのが「健康診断の未受診率」。日本では20代、30代女性の未受診率がものすごく高くて、半数近くに達するんです。未受診率の高さの理由のひとつは、女性のほうが非正規雇用者が圧倒的に多いということです。これは所得にも影響していて、この世代の女性の61%が年収300万円以下です。

それなのに、婦人科検診ってめちゃくちゃ高いんですよ。乳がん検診とか子宮頸がん検診とか、個人診療だと1万円から3万円するので、どうしても後回しになっちゃいますよね。

この状況を少しでも改善できないかと考えて、2019年10月に500円で婦人科検診を受けられる「ワンコイン・レディースドック」を開催しました。目標はとにかく間口を広げること、健康診断を「行かなくちゃいけない」ものから「行きたくなる」イベントにすることです。

先ほどお話ししたように、きっかけを作ることをこのプロジェクトでは重要視しています。オセロのように、1個ずつ1個ずつひっくり返していくというか。その中でも、「角を取るか、微妙な一手を取るか」がクリエイティブの腕の見せ所なわけです。

話を戻しますと、会場は渋谷の松濤にある、予約1年半待ちということもあるほどの超イケてる結婚式場で実施しました。結婚式場なので、週末は予約キャンセル待ち続き。でも、逆に平日はまだまだ活用の余地がある場所で、こんなにもおしゃれな空間が休眠資産として眠っている。

そこで、会場をいわゆるイベント会場から結婚式場に切り替え、平日5日間の会期にプランを組んで会場を一棟貸し切りました。

1階はミュージアムにして協賛企業さんのブースを置き、経血の量を可視化したインスタレーションアートや、チェスの形をした身長計測形を展示して、2階のチャペルはトークイベントの会場にしました。最終日には上野千鶴子先生にお越しいただいて、めちゃくちゃ緊張しましたが、とても素敵な方でした。

3階はクリニックということで、羽根が生えた身長計を置いたり、筋力測定と称してパンチングマシーンを置いたり、BEAUTY DOCというカテゴリ名でパーソナルカラーや頭皮診断などの美容系コンテンツも充実させたりして、健康診断のエンタメ化をテーマに設計しました。

乳がん検診、子宮頸がん検診を行う4階は、プライバシーを重視した空間作りにしており、待合室で緊張しないようにウェルカムドリンクや読み物などを用意しました。3階のエンタメに対して、4階は専門的な医療機器も導入しているアカデミックな検診フロアになっています。幸いご好評をいただき、次は2020年の春に少し違う形態で開催することが決まりました。

今回は医療業界の人を巻き込むために医師会などを回りました。たとえ課題意識があったとしても、やっぱり「インスタ映えする健康診断ってなに?」とか、「神聖な医療の場に......」というような反発があるんじゃないかと心配していましたし、実際、「健診未受診率が高いのは問題だけれど、変わらないものは変わらないから」といったお声や、医療の世界とデザインやアイディアは無関係だと思っている方にもたくさん会いました。

そんな中で、今回は想いを持って協力してくださった医療法人さんとご一緒することになって。

しかし、いざ実施してみると、医療業界の方も興味を示してくださる方が多いんです。ひとつの業界の中で変わらないものとしてとらえられていた問題も、別の業界とタッグを組むと乗り越えられることがある。それを実感したプロジェクトでした。

社会問題を大衆化していくのに「カッコいい」とか「ポップである」ことはすごく大事だと私は思っていて、広告クリエイティブの役割はそこにあると考えていろいろと試行錯誤しています。

落合 ありがとうございました! では後半の対談パートに移ります。Ladyknowsフェスのワンコイン検診って、スポンサー企業からの協賛金を婦人科検診の費用に充てることで安くできたんですよね?

なんらかの長期的な見返りがなければスポンサーはいつまでもついてくれるわけではないと考えると、どうやって続けていくかを考えないといけないと思いますが、そのあたりはどうですか?

 今後は、健康診断でとれるフィジカルなデータを協賛企業がマーケティングに使えるという流れを作れれば、長期的に続けられる仕組みになると思っています。また、今回のイベントの協賛企業さんの中には、広告宣伝部だけでなくCSR(企業の社会的責任)の部門からご協賛をいただけたケースもありました。

落合 持続可能にしていくためのテーマ設定としては、ソーシャルグッドな振る舞いをブランディングにつなげていくような考え方もありますよね。

あとは、限界費用を下げることですかね。テクノロジーでの解決を考えるなら、まずソフトウェアで検査できるようにすれば一気に安くなるかもしれない。今やみんなが持っているスマホを含むガジェット類は、この10年でだいぶ限界費用が下がりましたから。

 すごく難しいのは、男性の精子検査ならそれこそスマホでできるようになっていますが、女性の場合、構造が複雑で入り組んでるいので......。例えば、子宮頸がん検査の機械ってめっちゃエグくて、台に座って足をぐっと持ち上げられて、「はい失礼します」ってやるんです。

落合 内視鏡などの検査技術の自動化が進みつつあることを考えると、なんらかの補助デバイスか検体検査キットを使うことでなんとかなるようになればいいですね。スマホで済ませられるようになるとか、あるいは検体を取ってポストに投函するとか、近い将来はもう少し簡便になるとは思いますけど。

 本当ですか? 

落合 診断自体はもともと人間が眼でやっているわけだから、問題は構造的に検体が取りにくいとか、スマホで撮影できない場所を撮影する機材が特殊だということですよね。将来的にそこを低コスト化できないとは思えないんだよね。

 家でできるようになったらいいですね。あと乳がん検診もエグくて......。

落合 挟むやつでしょう。

 そうですそうです。むっちゃ痛いんですよ。......というのが婦人科の現実でして、医療業界をけん引してきたのが男性だからということもあってか、どうしても受診する側の心理的ハードルがかなり高い構造になってしまっているのが現状なんですよね。

落合 ちなみに、安価なデバイスで測れるものは世の中にまだまだ増えていくので、乳がん検査もいずれ可能になるんじゃないかと思ってはいます。問題はむしろ、機械学習用のデータセットを作るほうの作業や判定のためのパイプラインにあるわけで。

例えば、とある展示会に出展していたのを見たんだけど、大便をAIで記録・分類するという取り組みがあるんですよ。便器にカメラがついていて。確かにそれで健康状態はわかるんだけど、機械学習するエンジニアも大変だし、サンプルを提供するほうも大変だった、みたいな話もある。 

 普段のトイレの便器で検査できるという形になっていればいいですけどね。

◆後編⇒落合陽一×辻 愛沙子(クリエイティブディレクター)「『男のプリキュア? 別に普通っしょ』という社会は来るか?」 

■「#コンテンツ応用論2019」とは? 
本連載は昨秋開講された筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一准教授が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士合取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来館を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』(SBクリエイティブ)

●辻 愛沙子(つじ・あさこ) 
(株)arca CEO/クリエイティブディレクター、Ladyknows代表『news zero』(日本テレビ系)水曜パートナー。"社会派クリエイティブ"を掲げ、「社会性のある事業」と「世界観にこだわる作品」の両軸で広告やブランドや空間などを表現している

構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博

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