落合陽一×川村真司(Whatever)「アナログもデジタルも『クラフト』にこだわりたい」【後編】

筑波大学で講義をする落合陽一(左)と川村真司(右)

NHK連続テレビ小説『スカーレット』のオープニングのノスタルジックなクレイ・アニメーション、抱きしめるとアルバム曲が視聴できるレディー・ガガの等身大人形、アイドルグループ・TEAM SHACHIとカプコンがタイアップしたファミコン風アクションゲームによる宣伝広告......。

クリエイティブディレクター・川村真司(かわむら・まさし)は、自身が率いる「Whatever」社の名前の通り、なんでもありの作風を武器に幅広く活躍している。

そんな川村の一風変わった経歴を振り返った前編記事に引き続き、後編では川村と落合陽一(おちあい・よういち)がここ10年で「広告とクリエイティブ」の世界に起きた変化について語り合う。

* * *

落合 アジアとヨーロッパ、どちらのマーケットに可能性を感じますか? 僕はアジアってやっぱりまだ「建てている途中」だから、そこにITを絡めてどんどん新しいものを作る力があると思っています。一方、ヨーロッパは一度もう建て終わっていて、あとは中をどう使っていくかというところで。

川村 おっしゃる通り、最小限の条件だけくれて「なんでもいいからやってくれ」みたいなプロジェクトはアジアからの打診が多いし、クライアントの勢いという意味でもアジアのほうが面白いことが多いです。ここのところ東京をベースにしているのも、ニューヨークよりも引きが強くてアジアの案件を回しやすいからです。

落合 ヨーロッパはヨーロッパで、相変わらず居抜きで面白いものを作るんですが、アジアは美学的な価値基準がどこにあるのかよくわからない、だけど面白い、みたいなものが出てくる素地があると感じています。最近は、生活空間はどこが多いですか?

川村 今は日本にいることが多いです。あとは台北にもオフィスがあるので、そことはよく行き来していますね。台湾自体のマーケットは大きくはないんですが、中国の巨大なマーケットに近い。だけどインターネットはこちら側と同じで、中国側の統制下にはないので、非常にやりやすい位置にあります。東京、台湾、シンガポール、このあたりにはチャンスがありますね。

落合 ここ10年で、日本の広告クリエイティブ業界はどこが変化しましたか?

川村 日本に限らず、やっとデジタルを使うのが当たり前になっていて、それによってクライアントやエージェンシーのリテラシー格差が出てきていると思います。サイト上にただ動画を貼ってキャンペーンにするような、単純に「ウェブだから」みたいなものはもう見向きもされないし、「バズ」も飽きられてきているのですが、それに追いついて先へ行けるか、そうでないかの差ですね。

落合 10年前は面白い動画をネットに上げるだけでフォロワーを獲得でき、セルフプロモーションにもなる幸せな時代でした。けれど、今はクリエイターが面白いものを多くの人に届けるには、当時とは違うスキームセットが必要なようで、そこは明らかに変わってきていると感じます。

川村 本当に難しいところです。興味のセグメンテーションが細分化されて、どう「当て」にいくのか非常に読みづらくなっています。デジタル広告の話をすれば、もともとのアイデアをこそぎ落していって、ひと言でわかるような驚きだったり、そういったものを核に据えないと、そもそも食いついてもらえないみたいなところがあります。

001.jpg

落合 一方で「拍手壁」のようにフィジカルなものは、インパクトがあって素晴らしいけれど横展開がしづらいのではないでしょうか。

川村 はい。費用対効果はあまりよくないし、効率だけ考えるならオンライン動画を作るほうがいい。あるいはディスプレイを置いて、映像の中で拍手するみたいなものなら簡単です。

けれども、それじゃあ体験の質として面白くないし、あのときはフィジカルに(実際にその場で)募金をさせたいというお題があったからそれをうまく使って、ちょうどいいROIのバランスを実現できました。そうじゃない場合はやはり、アイデア段階でバランスを考えます。

落合 ちなみに「GAGA DOLL」は、ガガ様の本人チェックは入ったんですか?

川村 いえ、チェックはマネージャーだけで、怖かったのがどこからか「出来上がってガガが気に入らなかったら金は払えないかもよ」みたいなことを言われて。結局、気に入ってもらえたからオールOKだったけど、とてもハラハラする仕事でした。

落合 川村さん自身のクリエイティブ観はどう変化していますか?

川村 昔よりもさらにテックにこだわらなくなっています。体験の面白さとか、見たこともないような新奇さを第一に考え、テックはあくまでも必要なら使うという程度で。何周か回って仙人的な達観の境地というか、「どうでもいいっしょ=whatever」な感じになっています。それくらいのメンタルでメディアにも技術にも接していたほうがいいんじゃないかなと。

最近だとNHK連続テレビ小説『スカーレット』のオープニング。あれは物語自体も陶芸家のお話だから、粘土を使ったクレイアニメーションにしましょうというアイデアをプレゼンして。激アナログで、CGも使わず10日間くらいかけてコマ撮りで作ったんですが、久々にああいうものをガツンとやれたのはうれしかったです。

さいわい評判もいいみたいですし。テックを使っていないから表現として弱いなんていうことは全然ありませんね。

NHK連続テレビ小説『スカーレット』のオープニング映像は高度に計算されたアナログなクレイ(粘土)アニメーション

落合 あのクレイアニメーションは、すごく川村さんらしいと思って観ていました。

川村 ありがとうございます。根っこはそっちなんですよね。映像技術とひと口に言っても、エレクトロニクス以外にも撮影手法、撮影機材、コマ割りといったものがあって、アナログでも実は高度な計算があるという。

あのアニメも、どうやってろくろの回転数に合わせて粘土のキャラがベストなポジションに来るようにするかとか、表ではあまり感じないけどプログラミングと同じくらいの計算があってできています。「クラフト」というとアナログな職人技を想起させる語感ですが、僕はデジタルでもアナログでも、なるべくクラフトを良くしようと常々心がけています。

落合 僕は研究者で、テックの価値はある程度見極めているので、逆に自分のクリエイティブにはほとんど使わなくなっています。同時にメディアアーティストもやっているわけですが、テックはクリエイティブに使うのが当たり前みたいな世界で、僕は素材やモノにこだわるようになってきましたね。

特に30歳を過ぎてから、写真と動画にこだわるようになってきました。最近の趣味は家でプラチナプリントを作ること。

002.jpg

川村 何かきっかけがあったんですか?

落合 とある空港の国際線ターミナルに、有名な作家さんの作品が展示されているんですが、色あせて見えるんですよ。

川村 そうか、あれは色あせてるのか。ああいうものかと思って見ていました。

落合 設置時の写真が横にあるので、見比べると経年変化がわかります。入国側のほうにある作品はきれいなんですが、出国審査を終えて振り返ると、退色している作品が見える。

川村 切ないですね。

落合 そういうのが目につくようになって、保存性はやっぱり重要だと思った。プラチナプリントなら300年くらいは劣化せずに残るわけで、それで始めたんです。毎晩、家でひたすら紫外線で露光して。そういうクラフトが重要なんだと思うようになってきました。

川村 重要ですよ。デジタルと違って、そういう部分はこだわり続けないといけません。人が触れる部分が一番大事なので。目に見えると同時に、目に見えないディテールと言いますか。

落合 そこをどうこだわるかは、けっこう意識的にやっています。ただ、10年前の"ネット戦国時代"に比べれば、今ははるかに開発も表現もしやすい環境ができているともいえますよね。

川村 参入障壁がなくなり、すそ野は広がったと思います。ただ残念なことに、コンテンツの濃度は薄まっているとも思いますよ。世の中にはクラフトもコンセプトもロジックも欠いたペラペラなものが多い。"スナッカブル"なコンテンツと呼んでいますが。

落合 スナッカブルはいい言葉ですね。今、SNSで流行っているようなものはたいていスナッカブルな気がします。

川村 おやつでお腹がいっぱいだからメインディッシュに届かない、みたいな環境になっています。もちろん、スナッカブルでも面白くて記憶に残るコンテンツはあるし、いいっちゃいいんですが、「ポテトばっかじゃなくて、おいしいステーキ食べたくない?」みたいな気持ちって絶対あると思うんです。

願わくば僕らは、もうちょっとクラフトにこだわって、そういったメインディッシュに投資してくれるクライアントや仲間を増やしたいし、そういう思いを持ち続けていきたいです。

後編2.jpg

■「コンテンツ応用論2019」とは? 
本連載は昨秋開講された筑波大学の1・2年生向け超人気講義「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします。"現代の魔法使い"こと落合陽一准教授が毎回、コンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招いて白熱トークを展開します。

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。最新刊は『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』(SBクリエイティブ)

●川村真司(かわむら・まさし) 
1979年生まれ。慶應義塾大学SFCを卒業後、国内外の広告企業での経験を経て、2011年にPARTYを設立。そして2018年にWhateverを設立し、CCO(Chief Creative Officer)を務める。本文中で触れた以外の最近携わった仕事に、NHK特番『復活の日〜もしも死んだ人と出会えるなら〜』、恐竜博2019「DINO PLAY」など

構成/前川仁之 撮影/五十嵐和博

関連記事(外部サイト)