落合陽一×豊田啓介(建築家)「10年後の建築には"神のAI"のようなものが入っている」【前編】

「現代の魔法使い」落合陽一(左)と「建築家」豊田啓介

例えば、人間と"人に優しいポルターガイスト"との共生空間があるとしよう。現代建築と都市設計の行き着く先は、そういうところなのではないか。建築家・豊田啓介(とよだ・けいすけ)の話を聞いていると、そんな想像に誘われる。

豊田は東京大学工学部建築学科卒業後、安藤忠雄建築研究所で研鑽を積み、米コロンビア大学へ留学して修士号を取得。ニューヨークでの活動を経て、三次元モデルをアルゴリズムで生成するプラグインソフト『Grasshopper(グラスホッパー)』を日本で初めて建築設計に導入し、コンピューテーショナルデザイン(デジタル技術×デザイン)の旗手と目されている。

現在は建築デザイン事務所noiz(ノイズ)を主宰する豊田が探求する"情報建築"は、単にコンピューターを設計に生かすといった方法論にとどまらない。その目が見据えるのは、太古からの建築の伴侶である「物質」と、この世界の新参者である「情報」とが重なり合う世界だ。

* * *

豊田 僕はもともと安藤忠雄建築研究所出身なのですが、当時は勾配定規と水平定規を使って、実施図面を全部手書きしていました。こんなのコンピューター使えば一発じゃん、と心のどこかで思いながら。

安藤事務所には「建築家の命である図面を簡単に複製できると思うのは間違っている」という思想があって、コピー機さえ使用禁止という事務所だったんです。それはそれで大切なことなんですけどね。

落合 すごい世界観ですね。逆に僕は2年くらい入所してみたい。

豊田 その"禁欲生活"の反動で、当時コンピューテーショナルデザインの分野で一番進んでいたコロンビア大学に行きたくなったんです。今考えればありがたいことです。

僕はアメリカで開発された「Grasshopper」というソフトを日本で初めて使い始め、そうしたアプローチがより普及するように開拓を続けている立場なので、まず、これを用いると何が可能になるのかを簡単にお話しします。

これまでは「建築」というと、基本設計があり実施設計があり施行があり、と各工程が一方通行に進み、どこかでやり直しが必要になると全部をやり直さなければなりませんでした。

それがプログラミングを使うと、全体のラフなプロセスモデルを一回作ってしまえば、適宜必要な工程にピンポイントで戻ってアップデートすれば、自動的に全体の最終形もアップデートされる――というような進め方が可能になります。

前工程に修整を加えるとリアルタイムで3Dモデルが画面に生成されるので、それを見て気に入らなければ、また戻って何度でも調整できます。

そして形を決めたら、今度はそれに旧来の施工方法を"接ぎ木"するのではなく、できた形の合理性なりジオメトリー(配置や形状)なりを生かすように、新しい施工方法を適用、開発すればいい。こうした発見的なアプローチがプログラミングを用いた建築の最先端のトレンドになっています。

さらには、最終的に「物質」に落とし込む際にも、現場を踏まずに空間の要求に合ったデザインを実装するようなことも可能になります。

コンピューテーショナルデザインでパターンが生成される「ヴォロノイ畳」。3Dスキャナーを使ってどんな形の部屋にでもぴったり合う「世界でただひとつの畳」を作成できる

例えば、僕たちは「ヴォロノイ畳」という特殊な畳の開発・販売もしているのですが、始めた理由は単純で、「畳のパターンだってジェネラティブに(コンピューターによって創造的に)生成できるんだから、別に四角じゃなくてもいいよね」と思ったからです。

四角にこだわると、真四角な部屋にしか使えません。しかし、今は3Dスキャナーがあるので、どんな形の部屋だろうと正確にスキャンして、それに合った世界にひとつだけの畳のパターンを生成し、世界のどこにでも納品することができます。

実際に福岡・北九州の「タンガテーブル」というデザインホテルから相談をいただいたときは、壁は曲面だし、巨大な柱型が出ているし、普通なら絶対に畳を敷こうなんて思わない部屋でしたが、3Dのレーザースキャンを依頼することで、僕らは一度も現場に行かずに畳を作ることができ、完成物を現地に送ったら、ぴったりとその部屋に納まりました。インスタ映えするということもあって、その部屋だけ3カ月先まで予約が一杯とのことです。

「ヴォロノイ畳」がきれいに敷きつめられた福岡・北九州のデザインホテル「タンガテーブル」の部屋。畳の製作には3Dスキャンが使われ、現地には一度も行かずに完成したという

元来は採寸や納品などローカルプロダクトでしかあり得なかった畳が、ユニークでデザインバリューも高いし、テクノロジーとしても面白いし、経済的にもペイできるし、しかもオンラインで世界中どこからでも発注できるプロダクトに突然生まれ変わったわけですね。

ちなみに、日本の畳職人さんやイグサ農家さんは今、かなり危機的な減少傾向にあるのですが、デジタル技術はその方たちにも新しいやりがいやプライド、マーケットを提供できると考えています。

落合 最近僕は学生さんに、「世界は新しいエスノグラフィ(フィールドワークを用いた研究手法)を求めている」とよく話してます。

豊田 伝統工芸と新しいテクノロジーって、意外なほど相性がいいんですよね。

さて、このようなツールの誕生によって、建築は数千年の歴史の中でも劇的な変化を遂げつつあります。建築家は一般的には三次元の物をデザインしてつくるプロフェッショナルだと思われていて、それは確かにそうなのですが、現実には法律、構造、工程、施工の合理性や材料、素材など、何十もの次元が複雑にこんがらがったものをいかに調整して建てるかという職能、いわば「高次元」を扱う仕事として昔から機能してきました。

ただし本当につい最近までは、そのせっかくの高次元も、2次元のドローイングや、せいぜい3次元の模型という形にダウングレードすることでしか他者と共有する手段を持たなかったのです。

ところがプログラムを使うと、その高次元情報をある程度そのまま記述し、外部に出し、ネットで共有し......といったことまでできるようになっています。これはとんでもない変化です。現在は、デジタルデータで高次元の関係性を共有した上で「モノ」にする、施工するという「デジタルファブリケーション」まではできるようになりつつあります。

ただ、これで完成、ではありません。実際の建物は使っているうちにいろいろな要求が出てきますよね。現実世界は変化するのが前提ですから。すると、今度はできたものをもう一度「情報側」に戻し、アップグレードして再度「現実世界=物質側」に戻すという、情報とモノをまたぐアクティブループ、フィードバックループが重要になってきます。

つまり、"情報の総体としての建築"を考えると、一回建てたらそれで終わり、ではないのです。現実世界のフィードバックを受けて生物のようにどんどん変化していくのが、建築の本来あるべき姿なのではないか。僕はそれをブローダー・アーキテクチャー、"拡張的な建築"と呼んでいます。

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さらに、今後は人間以外のものとの共存も考えなくてはいけなくなる。僕たちが"デジタルエージェント"と呼んでいる、自立走行のモビリティなり、ARのアバターなり、VRのキャラクターなり、あるいはロボットなどとの共存です。

"彼ら"は目の前にあるものを「モノ」としては認識できず、デジタル情報を通じてでしか判断できないので、ある程度複合的な環境で機能させるためには、物理的環境をあらかじめデジタル化してあげる必要があります。スキャニングとか、センシングとか、群の制御が重要になるわけです。おそらく10年後の建物には、"神のAI"のようなものがOSとして入っている状態が必須になるでしょう。

ところが、今の建築界は、そうした環境を実装するためにはどこにどんなセンサーや設備を入れるべきかという技術も理論もまったく持っていません。それなのに、10年後の建築を今、設計し始めるなんてことはザラにある。さあどうするんだ、という状況に来ています。

人間にもデジタルエージェントにも動きやすい空間、街。それを可能にするために、モノと情報がお互いに理解可能な形でシームレスに重なり合った"コモングラウンド"(共有基盤)を構築することが僕たちの課題です。

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落合 ありがとうございました! 豊田さんは情報建築、情報都市に取り組んでおられるわけですが、僕は僕でデジタルネイチャー(計算機が自然に溶け込んだ世界)とかコンピューテーショナルフィールド(物体と情報を統合する「場」)とか、人間よりも空間や環境側にすごく興味があります。

一方で、僕の師匠である暦本純一先生(東京大学院教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長)を筆頭に、ヒューマンインターフェースやHCI(ヒューマン・コンピューター・インタラクション、人間とコンピューターとの"共同作業"を取り持つ研究分野)をやっている方々は、人間の側に比重を置いている場合が多いと思います。そういった方々とお仕事される際に、何か違いを感じることはありますか?

豊田 僕は環境側の視点で見る立場なので違って見えることもありますが、実は視点がインバース(逆転)しただけで、同じようなことをやっていると思っています。

落合 ああ、なるほど。

豊田 僕らは建物や都市が人格を持ったときに、それ自身の"身体"や、それが人間や物の流れをどう認識するか、という視点で考えていますが、暦本さんや稲見昌彦さん(東京大学先端科学技術センター教授)はそれを人間側の視点で考えている。

でも、やっぱりやっていることが結果的には似てくるのかなあと感じています。研究やプロジェクトで使うダイアグラムとか、驚くほど一緒なんですよ。

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例えば、腕を失くされた方が筋電で義手を動かせるようにするための研究は、まさに"拡張身体"ということで稲見さんや暦本さん、それから落合研究室でもやっているアプローチですよね。

そうした例を見ると僕たちは、ここまでできるのなら何も腕が人体についてなくてもいいのではないか、ドアについていたり、車についてハンドルを握っていたりしてもいいのではないか、と考えます。さらには、別に腕の形をしていなくてもいいのでは、とも。

部屋のカギとか電気とかテレビのチャンネルといった、これまで人間とは明確に区別されていた環境側の対象を、「思う」だけで動かせるシステムは実現可能になるでしょう。そうなったときに、自分の身体と違って環境は複数の主体がアクセス可能ですから、チャンネル争いが起きた際の優先権をどうするか、といったことまで――今、建築家がコンセントの位置や非常口や自転車置き場を決めているように――システムやセンサーの配置を設計するのが、これからの建築家の仕事になるのだと思います。

どこまでが自分の身体で、どこからが環境か。その境界も数年先には、市販されるプロダクトのレベルで曖昧になっていくのではないでしょうか。

落合 情報が沁みだしてくるようなフィジカル建築もあれば、情報と融合した人間拡張の世界もあり、僕の言葉でいえばそうやって"新しい自然"を構築していくのだと思っています。

※この講義の【後編】は、明日31日(木)に配信します。

■「コンテンツ応用論2020」とは? 
本連載は2020年秋に開講された筑波大学の1・2年生向け超人気講義、「コンテンツ応用論」を再構成してお送りします(今年度はリモート開催)。落合陽一准教授がコンテンツ産業に携わる多様なクリエイターをゲストに招き、白熱トークを展開します

●落合陽一(おちあい・よういち) 
1987年生まれ。筑波大学准教授。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。人間とコンピュータが自然に共存する未来観を提示し、筑波大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立。近著に、2016年の著作『これからの世界をつくる仲間たちへ』をアップデートした新書版『働き方5.0』(小学館新書)

●豊田啓介(とよだ・けいすけ) 
1972年生まれ、千葉県出身。東京大学工学部建築学科卒業後、安藤忠雄建築研究所を経て、2002年に米コロンビア大学建築学部修士課程修了。07年より東京と台湾・台北をベースに建築デザイン事務所noizを共同主催(パートナーに蔡佳萱、酒井康介)。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた設計・製作・研究を多分野横断型で展開し、2025年大阪・関西万博の誘致時には会場計画ディレクターを務めた。台湾国立交通大学建築研究所助理教授、東京芸術大学アートメディアセンター非常勤講師、東京大学建築学科デジタルデザインスタジオ講師、慶應義塾大学SFC非常勤講師など

構成/前川仁之 写真提供/noiz

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