高い実力、低い自己評価…教育の情報化は何を目指すか?文科省 安彦広斉氏

高い実力、低い自己評価…教育の情報化は何を目指すか?文科省 安彦広斉氏

文部科学省 生涯学習政策局の安彦広斉(あびここうせい)氏 2017年10月「eラーニングアワード2017フォーラム」に登壇した

 eラーニング専門イベント「eラーニングアワード2017フォーラム」が10月25日〜27日に開催された。eラーニングを取り巻く現状と未来について、多数の事例紹介・発表・議論などが行われた。

 幅広い内容の基調講演・セミナーも開催され、そのなかのひとつとして、文部科学省 生涯学習政策局 情報教育課 情報教育振興室長の安彦広斉(あびこ こうせい)氏が登壇し、「文部科学省:教育の情報化の動向と今後の展望について」というテーマで講演を行った。国内教育を取り巻く現状について、「急速な情報化」「グローバル化」「世界の人口増加、日本の人口減少」「第4次産業革命」など複数の数値データを提示し、そこから、どのように学習指導要領が改訂されたか、日本の「教育の情報化」は何を目指すのかを、分析した内容だ。

 安彦氏は、1995年に文部省大臣官房総務課に採用。2002年ごろよりeラーニング、高エネルギー加速器研究機構(KEK)といった領域にかかわりつつ、2017年4月から現職を併任し、プログラミング教育、情報活用能力向上など、学校教育の情報化を推進する立場にある。

日本をとりまく現状が、今後の教育を左右する

 講演ではまず、「これからの社会の変化」について考察。「ITやAIの進化により、さまざまな職業の変化や消滅が発生する」という研究を紹介した。たとえば、オックスフォード大学のオズボーン准教授によると、今後10〜20年間で、現在アメリカにある職業の47%が、コンピュータに取って代わられるという。同教授は「スポーツの審判」「レジ係」「ネイリスト」「集金人」「時計修理工」「映写技師」「塗装工」など40近い職種をあげている。これは日本国内でも同じような数値と見られている。

画像:コンピュータに代替される仕事
 あわせて世界の人口予測を見ると、アジア・アフリカ地域の人口構成比増は続く一方、これからの日本は「ジェットコースターの頂点を過ぎて、一気に落ちるような急激な人口減少」(安彦氏)を迎える。日本は“分水嶺”にかかっており、「そのときにあがる悲鳴が、本当の悲鳴になるか、それとも歓喜の声になるかは、これからの子どもの選択にかかっている」と指摘する。ただし、経済・雇用・地域格差などの課題はあるが、さまざまな取組みを進めることで「そんな悪いものには、ならないんじゃないか」という感触を得ているという。

教育への影響:第4次産業革命と日本

 そのひとつが、「第4次産業革命」に対する日本政府の取り組みだ。第4次産業革命は、工場の機械化=第1次産業革命、電力を用いた大量生産=第2次産業革命、電子工学・情報技術を用いたオートメーション化=第3次産業革命に続く、「IoT、ビッグデータ、AIの活用による産業革命」とされている。日本はいままさに、第4次産業革命の真っ只中だと言えるだろう。

 しかしながら、データ量の増加・処理性能の進化・AIの向上に対し、これに対応できる人材育成が追いついていないのが現状だ。これは国家の課題であり「経産省からも、どうにかならないか、と文科省に相談が来る(笑)」(安彦氏)という。具体的に、IT企業およびユーザ企業の情報システム部門に所属する人材は現在91.9万人で、これは17.1万人の不足状態だ。これが今後、2020年時点では92.3万人(36.9万人の不足)、2030年には85.7万人(78.9万人の不足)に陥ると、経済産業省により試算されている。

 グローバル化に目を向けると、訪日外国人旅行者数はここ数年急増を見せている。引き続き輸出産業も活発だ。自動車産業なども北米からASEANに主要市場を移しつつも当面成長し、トヨタ自動車は、2020年には全世界1億台販売に達する見込みだ。しかし、企業の世界時価総額ランキングを見ると、日本企業は芳しくない。トップ10どころか、45位にやっとトヨタ自動車が入るぐらいで、上位はアメリカと中国が占めている。

 そして肝心の学力だが、経済協力開発機構(OECD)が進めている「PISA」(Programme for International Student Assessment、学習到達度に関する調査)によれば、日本の学力は高水準を維持している。

画像:PISA結果の推移
 2015年(2016年12月発表)では、科学的リテラシー・数学的リテラシーともに、OECD加盟の35か国中1位で、平均を大きく上回っている。近年指摘が増えてきた読解力についても、6位と低くない。国際数学・理科教育動向調査(TIMSS 2015)でも、日本は小中学校で5位以上をキープしている。そのほか、国別好感度、ノーベル賞受賞者数でも、日本は高水準を維持しており、「日本の学力」は十分に“世界トップレベル”なのだ。

日本の教師と子どもたち…その実像

 しかしながら、同じくTIMSS 2015の調査結果をみると、日本は、「数学・理科の勉強は楽しい」「他教科を勉強するために数学・理科が必要(日常生活に役立つ)」「数学・理科を使うことが含まれる職業につきたい」の数値は、国際平均との差が縮まっているものの、国際平均を大きく下回っている。

 こうした日本の教育の現状について、安彦氏はまず「読解力の低さ」に懸念があるとした。PISAの結果でもわかるとおり、STEM系のリテラシーが高い割に、日本の中高生は読解力が低い。コンピュータを使った授業でも、2画面にわたる表の情報と文章の情報では、それぞれ整理し付き合わせることが、うまくできなかった可能性があると分析されている。

なぜ?高い実力、低い自己評価

 具体的な局面でも、国立青少年教育振興機構(NIYE)の調査によると、日本の高校生は、米中韓の3か国に比べて、PC利用・プログラミング・インターネット利用など情報通信技術の活用が少ないことがわかっている。

 「簡単なプログラミングをすること」に至っては、トップの韓国(23.4%)に比べ、日本は5分の1近い結果となった(4.8%)。WordやExcelの使用、自分のブログ作成、学習ソフトの使用なども軒並み低い。そして、学力にかかわらず「自分はダメな人間だと思うことがある」が高く、「私は人並みの能力がある」「私は勉強が得意なほうだ」が断トツで低いのだ。

 つまり日本の子どもたちは、国際的にも数学・理科に高い学力の可能性を持っていながら、「読んでいて理解できない」「楽しくない・職に就きたくない」「自分はダメな人間だと思っている」といった、矛盾を抱え込んでいるのである。

 これは教師の側も同様だ。OECDの国際教員指導環境調査(TALIS)によると、「教員の自己効力感」(生徒に勉強ができると自信をもたせた、生徒が学習の価値を見いだせるよう手助けする、勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする、生徒の批判的思考を促す)が、日本は非常に低い。参加国平均が70%〜86%なのに対し、日本は15.6%〜26.0%と、衝撃的な低さだという。

“世界”を見据えて学習指導要領を改訂

 これに対し、こうした問題は中央教育審議会(中教審)でも議論され、学習指導要領の改訂内容にも繋がっているという。「子どもたちに、情報化やグローバル化など急激な社会的変化の中でも、未来の創り手となるために必要な知識や力を、確実に備えることのできる学校教育」を実現することを目指したものだ。

画像:育成すべき3つの柱
 安彦氏によると、次期学習指導要領は、身に付けなくてはいけないを能力を意識した「キー・コンピテンシー(主要能力)」を使いこなせるのが基礎的なリテラシーだとし、これを踏まえた「できる人間とは何か」を考えての改訂が行われた。たとえば、アクティブラーニングを重視したことは、初等中等教育に限ったものではなく、対話的な学び・深い学びを目指すという観点から採り入れられている。そしてこれを高校・大学にもつなげていくのが「高大接続改革」だという。

 今回の学習指導要領の改訂では、「情報活用能力」「学校のICT環境整備」「プログラミング思考の育成」などが、初めて明確に記載された。安彦氏は「個人的な意見だが、非常に大事なことが詰め込まれた」と指摘する。いままで2割程度だったプログラミング履修も、「情報1」で全生徒必修になる。また、分離したものではなく、効果的な場面をいろんな教科で作り活用することを目指している。たとえば、正多角形の作図(数学)、電気やセンサーの活用(理科)においては、従来の学習内容に加え、プログラミングによる理解が提言されている。さらに文科省、総務省、経産省は「未来の学びコンソーシアム」で先生を支援。現場ニーズに対応した教材を開発するなど、サポート体制の構築を今後進める予定だ。

 安彦氏は「読解力の低さは、大きな懸念材料。今後流通するデータ量は、2年で2倍になるとされている。そんな情報化の時代に、読解力の低さがどう影響するか気になる」「米中韓に比べ、日本のネット活用は半分以下。国際社会において、十分に結果が出ているのに、なんでこんなに低いのか残念だ」と表明。情報化・グローバル化のなかで「情報処理の苦手感」が広がっている現状が、学習指導要領の改訂により改善されることを期待するとして、講演を締めくくった。

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