ミツバチ不足を救う?「働く銀蠅」をよろしく

 

[New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「働きバエ」。 イチゴやマンゴーの花から花へ、せっせと飛び交う小さな虫。果物農園で見られるミツバチの授粉の光景だ。……と思いきや、ちょっと姿が違う。ミツバチ不足を補う新たな選択肢として、ハエを利用する農家が増えている。清潔で人の役に立つ「働きバエ」が、嫌われ者のイメージを覆すかもしれない。

■衛生的に飼育 売りは清潔さ

 岡山市郊外の倉庫にずらりと並ぶ大型冷蔵庫サイズの培養器。内部の温度は25度に保たれ、緑色の金属光沢を持つ「ヒロズキンバエ」、いわゆる銀蠅(ぎんばえ)が飼育ケースで羽音を立てる。授粉用のハエを育てる岡山大発のベンチャー企業「ジャパンマゴットカンパニー」の設備だ。

 ハエに不潔なイメージがあるのは、動物の死骸やフンをエサにしており、病原体の「運び屋」になるためだ。だが、クリーンな環境で育てれば問題はない。

 同社は、食肉やドッグフード、砂糖水を与えて衛生的に飼育した「ビーフライ」を、1000匹入り税別2000円で販売する。「ミツバチ(bee)のように働くハエ(fly)」が名前の由来だ。佐藤卓也社長(59)は「清潔さが売り。2010年の出荷開始から10年で、取引農家は700戸まで増えた」と説明する。

■寒さに強い 天候関係なし 刺さない

 農家がハエを利用する背景には、授粉用ミツバチ(セイヨウミツバチ)の供給不足がある。

 ミツバチ供給大手「アピ」(岐阜市)によると、ミツバチの用途には「授粉」と「採蜜」の二つがあるが、国産蜂蜜の人気が近年高まり、採蜜用の需要が増加。これを受け、授粉用の供給割合が減っている。

 また、ダニによる病気や一部の農薬の影響とみられる大量死も世界的に問題化している。同社ミツバチ課の中野剛(たけし)・課長代理は「ハエが普及すれば、ミツバチ不足が緩和され、園芸農家の助けになる」と期待する。

 もっとも、ハエには帰巣本能がなく、外に出ると戻ってこないため露地栽培には向かず、ビニールハウス専用だ。メロンやスイカ、トマトなどの花の蜜は吸わず、授粉に使えない。こうした短所はあるが、ミツバチに勝るとも劣らない点もある。

 ミツバチは寒さに弱い上、紫外線で花の蜜や花粉を見分けるため、曇りや雨の日は巣箱からあまり出ないのが弱点だ。しかし、ハエは寒さに強く、天候にも左右されない。もちろん、人を刺すこともない。

 ミツバチに比べて体が小さいため、花のめしべを傷つけにくく、形の悪い実(奇形果)を減らしてくれるのも長所の一つだ。花の蜜や傷んだ実を狙い、健康な実には近寄らないことも授粉に適している。

 こうした特性から、ビーフライは今後、建物内の植物工場や品種改良用の小規模施設などでも普及が見込まれるという。

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