飢餓を避ける感覚神経のメカニズムが明らかに 東大の研究

飢餓を避ける感覚神経のメカニズムが明らかに 東大の研究

飢餓と同時に経験した塩の濃度を避ける仕組み(写真:東京大学の発表資料より)

 動物が自然界で生き残る確率を高めるためには、過去の経験を記憶・学習し、新しい環境に置かれても適切な行動を起こすことが求められる。東京大学は27日、飢餓時に経験した「味」の学習に関与する感覚神経を発見し、その機能を明らかにしたと発表した。

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■土に生息するモデル生物「線虫」

 飢餓は動物にとって避けたい環境のひとつである。このような環境条件を経験すると、脳内の神経細胞で記憶され、動物はその環境を避けるよう行動を変化させる。このような行動の可塑性は、感覚神経で刺激を感知してから適当な行動を取るまでのメカニズムに複雑な情報処理が必要である。そのため不明な点が多いという。

 東京大学の研究グループは、「C.エレガンス」と呼ばれる線虫を用いた実験により、飢餓の学習により起こる行動可塑性の仕組みの解明を目指した。土に生息するC.エレガンスは全ゲノム解析が完了しており、比較的単純だがヒトと多くの本質的な特性を共有していることが判明している。そのため、実験用のモデル生物として活用されている。

 研究グループは、線虫にエサの有無とともに、環境下の塩の濃度を変化させることで、飢餓状態の有無と塩の濃度を同時に学習させた。これにより、線虫が塩の情報を利用してどう効率的なエサの探査行動を取るかを調査した。その結果、線虫はエサがあった環境での塩の濃度に近寄り、エサがなかった環境での塩の濃度を避けることが観察された。

■複数の感覚神経が協力して飢餓を避ける

 線虫は、塩を感知する左右の感覚神経「ASE神経」(ASER神経・ASRL神経)が同定されている。とくにエサが豊富な環境における塩の学習においては、ASER神経からの感覚入力だけあれば、経験した塩の濃度に向かう行動が成立することが判明している。一方、飢餓条件で起こる塩の濃度を避けるには、ASER神経以外にも必要な未知の感覚神経の存在が予測されていた。

 研究グループは今回、「ASG神経」と呼ばれる別の感覚神経の機能の協力が必要であることを明らかにした。2つの神経からの感覚入力によって、学習した塩の濃度を避けることが判明。ASER神経は塩の濃度の変化を、ASG神経は飢餓を感知するという。

 研究グループによると、ひとつの感覚神経が多様な感覚情報を伝えることは以前より分かっていたが、適切な行動を生むために複数の感覚神経の協力が重要であることが今回判明した。

 飢餓状態や味に応答する感覚神経はヒトを含めた高等生物にもみられるという。今後、さまざまな環境条件の学習に応じた感覚神経の新たな機能が発見される可能性があり、本研究成果が飢餓に関する行動の可塑性の仕組みを解明するのに貢献するだろうと、研究グループは期待を寄せている。

(角野未智)

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