「トヨタ・ソフトバンク連合」のキーパーソンに聞いた、MaaSで社会はどう変わるのか

「トヨタ・ソフトバンク連合」のキーパーソンに聞いた、MaaSで社会はどう変わるのか

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社会全体を取り巻く「100年に一度の大変革時代を迎えている」との危機感からトヨタ自動車の豊田章男社長からソフトバンクの孫正義会長に声を掛けたことで2018年9月の設立に至ったMONET Technologies(MONET)。新しいモビリティサービスの構築を目指す同社が描くMaaS(Mobility-as-a-Service)で社会はどう変わるのか。MONET事業推進部の上村実部長に聞いた。(細田 立圭志)
●「自動運転」は後付けでもいい理由
 19年1月に合弁会社化して事業をスタートさせたMONETは、オンデマンドモビリティサービスと、そこから得られたデータ解析、自動運転車とMaaSを融合させたAutono-MaaSを主な事業として展開する。
 こう聞くと、運転手のいない完全自動運転車で、数々の車載センサーから得られた膨大なデータをAIでリアルタイム分析しながらスマートな移動ができるイメージを描く。しかし、それはあくまでも将来像であり、会社設立から矢継ぎ早に自治体と実施している実証実験では、まだアナログ的な段階だ。
 例えば、東京のJR浜松町駅から大島などに向かう船舶の竹芝旅客ターミナルまでは600メートルほど離れていて、年配の人や観光客が歩くには少し遠い。MONETのほか鹿島建設や東海汽船、東急不動産など計7社が東京都から受託した実証実験では、大島からの定期運航船のダイヤに合わせて、ターミナルと駅までバスを運行させるといった具合だ。
 もちろん、スマートフォンのアプリを使って配車予約をするなどのテクノロジーは活用するが、基本的には船とバスの運行をシームレスに連携させるマルチモーダルサービスのトライアルである。
 上村部長は「これまでは実証実験をしてよかったで終わっていたところを、MONETではさまざまなデータを取得してAIで分析しているところが大きな違い。極端な話、自動運転は後から当てはめればいい」と語る。乗降者や車両から得られたデータを収集して分析、課題を創出しながら、サービスをアップデートさせていることが重要なポイントなのだという。
 これまではデータの蓄積がなかったため、実証実験で得られた知見は事業者が変わったりすると将来につなげることが困難だった。MONETでは収集したデータを別の実証実験の応用に生かすことができる。モビリティサービスが常にアップデートされていくのだ。
 確かに、完全な無人自動運転を待っていては、物事は何も前に進まない。自動運転を待たず、先行して実証実験を進めてサービスを向上させることができる仕組みだ。といっても自動運転の実装は何年も先のことではない。MONETでは、蓄積されたデータを自動運転に実装していくのは20年半ばを想定している。
 自治体との実証実験や包括連携協定などで19年11月末時点、MONETがアプローチしている都道府県は38、地区町村は343に上る。MONETの株主構成も日野自動車や本田技研工業、いすゞ自動車、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、マツダなど自動車業界の垣根を越えている。また、MONETコンソーシアムに加盟する企業数も20年1月8日時点で485社となっており、業種の枠を越えている。
 こうした期待の高さの背景には、「日本の社会が抱える課題の解決が待ったなしの状況だからだ」と上村部長は説明する。
 少子高齢化は言うまでもなく、65歳以上の買い物困難者は820万人、免許返納者数は過去10年間で12倍に急増、地方で足となるバス会社の83%が赤字、学校の統廃合は過去10年間で5000校、医者のいない637地区など、先送りできない課題が山積している。
 これらを解決するには、新しい施設やインフラを整備するといった従来型の「ハコもの」への公共事業投資の発想では、時間があまりにも足りないし、そもそも財源の確保ができない。そこで、テクノロジーで補っていく手法の一つとしてMaaSが各自治体から注目されているのだ。
●「不動産」から「可動産」へ
 上村部長の話で印象的だったのが「不動産から可動産に変わる」という言葉。MaaSの導入で社会課題を解決していく中で、社会の在り方や考え方が根本から変わってくるからだ。
 これまでは病院を建てたり、コンビニを出店するなど「不動産」の考え方が常識だったが、これからはサービスのほうから困っている人にアプローチしてくる「可動産」の時代になるという。
 例えば、店舗型のコンビニではなく、買い物困難者宅まで自動運転で移動してくるコンビニの登場や、医療でいえば過疎地に病院を建てたり、医者を派遣するのではなく、看護師を乗せた診察車が移動してモニターを見ながら病院にいる医師が遠隔で診察する。
 実際に長野県伊那市との「医療×MaaS」の実証実験は、伊那市側からニーズが上がってきたという。免許返納者が増えて通院困難者が増えると、医師が訪問して診察しなければならない。すると今度は、逆に病院に通う患者に対応できなくなるといった悪循環が起きていたという。
 19年12月〜20年3月31日まで実施中の実証実験で使われている運行車両「ヘルスケアモビリティ」はフィリップス・ジャパンとの連携によるものだ。看護師を乗せたヘルスケアモビリティが慢性期疾患の患者宅に出向いて、車両内のビデオ通話で医師と遠隔でコミュニケーションをとりながら看護師が問診や診察をする。スケジュールの予約や配車、患者情報のクリニック内やクリニック同士のクラウドでの共有システムの構築はMONETが受け持つ。
 こうした課題は伊那市に限らず、全国各地で多発してくるだろう。オンデマンド発想では「さっそく同じ仕組みを災害時に応用できないかといった問い合わせをいただた」と上村部長が話すように、避難所での救援機能としてユーザー側からも新しいアイデアが出てくる。
 MaaSは、配車アプリでサービスの予約や決済ができるといった単なる便利な移動手段ではなく、社会、とりわけ地方の課題を解決するための手段として期待されている。そして、同時進行で「可動産」のような、これまでとはまったく発想の異なるサービスやビジネスが、次々と創出されていくのだろう。
 合わせて、例えば、自動車の営業用の緑ナンバーと自家用の白ナンバーの区別が難しい貨客混載サービスが登場するなど、行政によるスピーディな規制緩和によるバックアップがセットであることも忘れてはならない。

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