Androidの「戻る」ボタンが削除される?されない? 隠されるUI、拡大するデジタル・デバイド

Androidの「戻る」ボタンが削除される?されない? 隠されるUI、拡大するデジタル・デバイド

NTTドコモ HT-03A photo via Wikimedia Commons(Public Domain)

◆Android 10 Qでは「戻るボタン」が削除される?

 2月のことだが、次の世代のAndroidで「戻るボタン」が削除される可能性があるという話がネットで話題になった。ボタン操作ではなくジェスチャー操作のみになるかもしれないという。

 IT技術者が多い「スラド」や「はてなブックマーク」でも、その話で盛り上がっていた。

 そして3月13日に「Android Q Beta」のアナウンスがあった(Android Developers Blog: Introducing Android Q Beta)。すぐにYoutubeに多数の動画がアップロードされ、そのUIを確認できるようになった(Android Q Beta First Look!)。

 蓋を開けてみると、「Android Q Beta」では、戻るボタンは残されていた。ホーム画面には表示されないが、戻ることが可能な画面では、きちんと表示されている。ただ、最終的にどうなるのかは分からない。将来的に削除されることもあるだろう。先に話題になった時には、そう思わせるだけの説得力があった。スマートフォンのUIは、簡略化される傾向にあるからだ。

 デバイスから、ボタンなどのUI(ユーザーインターフェース)部品が減ると、シンプルな外観になってスタイリッシュになる。スマートフォンもその傾向があり、物理ボタンを排除して画面上のボタンも減らす方向に向かっている。

 日本で最初に発売されたAndroid端末「NTTドコモ HT-03A」を見ると、今では見られない多数の物理ボタンがあったことが分かると思う。

◆インターフェイスの減少で困惑する層もいる

 少し私的な話をしたい。しばらく前のことだが、父から電話が掛かってきた。知人に借りたiPadの音が大きく、止め方が分からないので、座布団を上からかぶせている。どうすれば音を小さくできるのかという質問だ。

 笑い話のようだが、父の困惑も分かる。デバイスの横に付いている、わずかな突起物が音量操作のボタンだということは、知っていないければ分からない。普段、デジタルガジェットを使わない人間なら、推測することは難しいだろう。

 そもそもボタンに「音量 大 小」と書いていない時点で、どこにその機能があるのか探しようがない。今後、生活の基本になるであろうスマートフォンやタブレットは、初見でまったく使い方が分からないように進化しつつある。たとえ、初回に操作方法が表示されたとしても覚えられる人は少ない。ネットで探すという習慣がなければ、分からないまま途方に暮れることになる。

◆UIが隠されていく現象は、Webブラウザでも発生している

 こうしたUIが隠されていく現象は、スマートフォンだけではない。Webブラウザでも発生している。20年前のWebブラウザ「Internet Explorer 5」(1999年3月18日に公開)を覚えている人はいるだろうか。

 タイトルバーがあり、メニューが並び、その下にはいくつものボタンが並んでいた。そのボタンの下には「戻る」「進む」「中止」「更新」「ホーム」「検索」「お気に入り」「履歴」……のように、何をするボタンなのか説明が書いてあった。

 そうしたボタンの下には、「アドレス」と書いたURL表示の欄があり、その右側には「移動」「リンク」と文字が書いてあった。

 現在最も普及しているWebブラウザ「Google Chrome」の最新版では、タイトルバーは極限まで細くなっており、「戻る」や「進む」といったボタンは小さく、説明書きはない。マウスをオーバーすると説明が表示されるが、そもそもコンピュータに慣れていない人には、そうしたことをするという発想がない。

 画面には必要最低限のUIだけが表示されている。残りの機能は、点が三つ縦に連なった「?」アイコンの中に隠されている。このアイコンの中にメニューがあるということは、初見では見抜けないだろう。

 似た物に、三本線「≡」のハンバーガーボタンがある。これも、初見では意味を理解できない。点が三つ縦に並んだ「?」はメニューを意味して、三本線「≡」はナビゲーションを意味している。このアイコンが何なのか、直感的に理解出来る人はいないだろう。

◆過去の変遷を経験を強いるUIの受容

 デジタルデバイスやソフトウェアは、よく似た歴史をたどることがある。大きなシェアを取り、バージョンアップが進んで行くと、様々な機能を隠す方向に進化するというものだ。

 機能が増えて、その全てを一度に見せられないという理由もある。使い慣れたユーザーが増えて、親切な説明をわずらわしいと感じるようになることも要因だろう。また、クールな方向性にUIを変えようとする圧力が働いたりもする。

 そうした結果、既に分かっている人以外は、初見では分からないデバイスやソフトウェアが市場を席巻し始める。

 こうした現象は、スマートフォンやWebブラウザだけではない。たとえばゲームでも、続編を重ねるごとに既存ユーザーを満足させるように最適化されていき、新参ユーザーを拒絶する内容になったりする。既存のユーザーは、高度な操作方法が加わっても、これまでとの差分を覚えるだけでよい。過去をふまえた上での簡略化は、初見の人には理解できなかったりする。

 デジタルデバイスやソフトウェアは、ユーザー数が増え、市場を支配する期間が長くなると、既存ユーザーの方だけを向いたタコツボ化しやすい。

◆省略されたUIが導く、デジタル・デバイドの拡大

 省略されたUIは、習熟したユーザーを満足させる。しかし、それが当たり前になると、新規の参入者を拒むものになる危険性がある。

 普段、デジタルデバイスに触れていない世代の人たち、周囲に使い方を聞けない孤立した人たち。そうした人たちを置いてけぼりにする。

 少し立ち止まって考えてもらいたい。20年前の自分なら、今のUIは理解できただろうか? 分かる人には分かるUIは、弱者を切り捨てている可能性があるということを、頭に留めておきたいと思う。

<文/柳井政和 Image by MIH83 on Pixabay>

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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