「いいね」の圧力にインスタが英断!? 「いいね」数非表示化をカナダでテスト

「いいね」の圧力にインスタが英断!? 「いいね」数非表示化をカナダでテスト

raphaelsilva via Pixabay

◆Instagramが「いいね!」の非表示をカナダでテスト

 Instagramが「いいね!」数を非表示にするテストをカナダでおこなうというニュースが、ゴールデンウィークの時期に流れてきた(TechCrunch Japan)。その後、カナダではテストが開始されて、コントロールされた集団で非表示状態になったそうだ(HuffPost Canada)。

 こうしたことをおこなう背景には、SNSのメンタルヘルスへの悪影響が懸念されていることが関係している。SNSは中毒性を持ち、人々の行動や精神を支配する。

 2019年にアメリカ心理学会によって発表された報告書によると、うつ病や心理的苦痛の割合が、若年層で上昇している。その背景には、ソーシャルメディアや電子通信に費やされる時間の増加が関係している可能性があるそうだ(The Washington Post)。

 Instagramのメンタルヘルスへの悪影響は、2016年のカリフォルニア大学ロサンジェルス校による研究(WIRED.jp)や、2017年のイギリスのRoyal Society for Public Healthの研究(BBC News)でも指摘されている。昨日今日言われ始めたことではなく、現代社会の病理の一つとして認識されている。

◆「いいね!」は現代のスロットマシーン

 さて、「いいね!」とは何だろうか? 「いいね!」は、ある投稿に対して「好きである」「好意的である」「肯定的である」と思った際にクリックするボタンだ。写真や記事の投稿者側から見れば、その投票数を見ることで、自分の投稿に対するフィードバックを、数値(得点)として得るツールだと言える。

 ちょうど今月読んだ『ゲーマーズブレイン』という本がある。著者は心理学の博士号を取得したUXの専門家で「フォートナイト」などのゲームに関わっている。

 その本に「断続的対価」についての説明がある。人は、継続的に与えられる対価(特定の行動に対して常に対価が出る)よりも、断続的に与えられる対価(特定の行動に対して時々対価が出る)の方が、大きく影響を受けるそうだ。

 こうした特性は人間だけでなくネズミにもある。レバーを押すと餌が出る機械では、毎回出るよりも、間隔を置いて出る方が熱心に押す。人がスロットマシーンにはまりやすいのは、このような脳の仕組みが関係している。

 SNSの「いいね!」の数字は、投稿者側から見ると、ちょうどこのスロットマシーンのような数値表示機械になっている。少ない「いいね!」や、ちょっと多い「いいね!」が続いたあと、多い「いいね!」が付いて興奮する。

 毎回同じ「いいね!」の数ならば、人は簡単に飽きる。得点に波があることが、脳をハックして人を夢中にさせる仕掛けになっている。

 このように、脳の仕組みを利用して中毒性を与える行為は、ソーシャルゲームの「ガチャ」を彷彿とさせる。各種SNSに「いいね!」的な機能が付いているのは、メジャーSNSの単なる模倣ではない。投稿をおこなうこと自体が、スロットマシーンのレバーを引く行為になり、脳を刺激して継続的な利用を促すからである。

 この「いいね!」スロットマシーンの影響は、若年層ほど深刻だ。SNSの利用者は、スロットマシーンでよい得点を出そうとして人生を切り売りする。若い人が、自分の人生を賭け金にしてスロットマシーンのレバーを引き続ければ、精神に悪影響を受けることは容易に想像が付く。

「いいね!」の数字を隠す実験は、こうした脳を騙す仕掛けを、いったん取り除いて、メンタルヘルスにどれぐらいの影響があるか、そしてビジネスとして成立するのかを確認するということだ。

◆複雑化した社会での自己実現

「いいね!」は現代のスロットマシーンということを書いたが、「いいね!」の数字には別の側面もある。それは、自己実現が難しい複雑化した社会で、比較的簡単に成果を得られるツールという面だ。

 現代社会で地位を上昇させるのは容易ではない。この地位を可視化したものに年収がある。多くのサラリーマンにとって、数週間や数ヶ月で年収を上げることは不可能だ。そうした抑圧された環境の中で、自己肯定感を持ち続けるのは、なかなか容易ではない。

 そうした社会の中で、数値化された結果を短時間で得られるものは、強い自己肯定感を与えてくれる。たとえばゲームは、そうしたツールのひとつだ。高得点を取ったり、強いキャラを獲得すれば、自己肯定感を得られる。

 ダイエットもそうしたものの一つである。適切な運動をすれば、体重を1週間に1kgずつのペースで減らすことができる。私も一時期トレーニングでの減量にはまり、60kgを切るまで体を絞ったことがある。その頃は、陶酔に近い感覚を得ていた。

 インフレする数字自体にはまることもある。一時期流行った『クッキークリカー』というゲームがある。クッキーを延々と増やすゲームなのだが、私も1週間ほどはまって、寝る時間以外ずっとクッキーを増やし続けて多幸感を得た。

 SNSの「いいね!」やフォロワー数は、複雑化した社会で、比較的簡単に自己実現を達成させてくれる。また、ゲームやダイエットとは違い、社会に対する影響力も獲得できる。数値を上げるゲームが、リアルな人生を変容させるのだ。その魅力は抗いがたいものがある。

 Instagramが始めた「いいね! を隠す実験」は、利用者にどのような影響を与えるのだろうか。ユーザーの熱狂が冷め、非表示を撤回するかもしれない。あるいは、それなしでも、SNSを楽しむ人たちがいて、ビジネスに影響がないのかもしれない。成長期には必要だが、安定期には必要のない施策と「いいね!」が見なされる可能性もある。

 Instagramの実験がどうなるのか。他のSNSに波及するのか。今回の試みの結果を見守りたいと思う。

◆シリーズ連載:ゲーム開発者が見たギークニュース

<文/柳井政和>

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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