なぜ探査機「はやぶさ2」は、小惑星への2回目の着地に挑んだのか? その裏にあった大きな意義とリスク、そして葛藤

なぜ探査機「はやぶさ2」は、小惑星への2回目の着地に挑んだのか? その裏にあった大きな意義とリスク、そして葛藤

小惑星探査機「はやぶさ2」が撮影した、小惑星リュウグウへの2回目の着地から4秒後の画像。画像右側が探査機本体で、舞い上がっているのはリュウグウの砂や石 (C) JAXA

◆難易度が高かった2回目の着陸に成功した「はやぶさ2」

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2019年7月11日、小惑星探査機「はやぶさ2」が、小惑星「リュウグウ」への2回目となる着地に成功したと発表した。今年4月にクレーターを作った際に飛び散った、リュウグウの内部に由来する砂や石を採取できた可能性が高いとしている。

 今回の着陸は、今年2月に実施した1回目の着陸よりも難易度が高く、探査機が壊れる危険もあった。それでも実施した背景には、どのような意義があったのだろうか。

◆リュウグウへの2回目の着地

「はやぶさ2」は、JAXAが2014年12月に打ち上げた小惑星探査機で、地球と火星の軌道の近くを回る小惑星リュウグウを訪れ、カメラやセンサーで観測。さらに、着地(タッチダウン)して石や砂を採取したり、小型ロボットを投下したりとさまざまな方法で探査。最終的には、採取した石や砂を地球に持ち帰ることを目指している。

 小惑星は、太陽系ができた約46億年前から、ほぼそのままの姿かたちをとどめており、太陽系の誕生から進化についての情報をもっていると考えられている。とくに、リュウグウのような「C型」と呼ばれる種類の小惑星は、有機物や水を多く含んでいると考えられており、地球の生命や海がどのようにして誕生したのかという謎を解く鍵を握っているとされる。たとえば、リュウグウにある有機物と、地球の生物がもつ有機物が似ていれば、私たち地球の生命は、地球外からやってきた可能性も出てくる。

「はやぶさ2」は昨年6月27日にリュウグウに到着。上空から探査したり、着地に向けたリハーサルを繰り返したりしたのち、今年2月に1回目の着地に成功。リュウグウ表面にある石や砂の採取に成功したと考えられている。

 今回はこれに続く2回目の着地だったが、その実施には大きな危険があった。

 今回の着地の目的は、この4月にリュウグウに弾丸を撃ち込んでクレーター(穴ぼこ)を生成した際に飛び散った、石や砂を採取することにあった。しかし、クレーターの周囲には岩が乱立しており、着地ができる場所は限られているばかりか、辛うじて着地が可能と思われる場所もひどく狭く、困難が予想された。

 運用チームは最終的に、生成したクレーターから約20m離れた場所にある、「C01-Cb」と呼ばれる半径3.5mの円形の領域を選択。それでも、周囲にはいくつかの大きな岩があり、もし着地場所がずれたり、「はやぶさ2」が姿勢を崩したりすると、岩にぶつかって損傷し、地球に帰って来られなくなる危険性もあった。さらに、2月の着陸時に、探査機にとって目にあたるカメラが汚れてしまったことも難しさに拍車をかけた。

 そのため、当然実施にあたっては葛藤もあったという。C01-Cbを着地場所として選んだあとも、運用チームのなかでは、「着地をするべきだ」、「ここで諦め、1回目の着地で得た石や砂だけを持ち帰るべきだ」と、喧々諤々の議論を交わしたとされる。どちらにもそれぞれの言い分や根拠があり、簡単に答えが出る話ではない。

 そして議論の末、運用チームは、まさに"虎穴に入らずんば虎子を得ず"の言葉どおり、リスクを取って2回目の着地を敢行することを選択。そして、そのリスクを可能な限り小さくできるよう、入念な準備やシミュレーションをした上で、今回の着地に挑んだ。

 その結果、「はやぶさ2」は見事に打ち勝ち、着地に成功。リュウグウ内部に由来する砂や石を採取できた可能性が高いとしている。

◆小惑星の内部の岩石を採取することにどのような意味があるのか

 ところで、そもそも「はやぶさ2」はなぜ、すでに1回着地しているにもかかわらず、大きなリスクを取ってまで、今回の2回目の着地に挑んだのだろうか。

 1回目の着地で採取したのは、リュウグウの表面にある石や砂だった。もちろんそれにも大きな価値はある。だが、表面は太陽の光や熱、宇宙から飛んでくる放射線の影響で、状態が変化してしまっている。これを宇宙風化といい、地球の石が水や風で削られるのと同じような現象である。

 しかし、小惑星の内部であれば、そうした風化の影響が少ないと考えられている。つまり、内部を掘り起こし、そこから飛び出した石や砂を採取できれば、まさに太陽系ができた当時の、新鮮な状態のものを手に入れることができる可能性がある。

 今回の成功後、「はやぶさ2」の責任者を務める津田雄一プロジェクト・マネジャーが「太陽系の歴史のかけらを手に入れました」と声高々に宣言したが、それは比喩ではなく、まさに文字どおりの意味だったのである。

 また、クレーターを生成した際、その内部には、表面より"黒い物質(反射率が低い物質)"があることがわかっており、リュウグウの表面と内部ではなんらかの物質の違いがあると考えられている。そのため、1回目の着地で採取した石や砂と比較することで、黒い物質は何なのか、なぜ違いが生じているのかなど、さまざまなことがわかると期待されている。

「はやぶさ2」がわざわざクレーターを作って内部を掘り起こし、探査機が壊れるかもしれない危険を冒してまで、2回目の着地を敢行したのには、こうした理由があった。

◆「はやぶさ2」の今後

 困難なミッションを成し遂げた「はやぶさ2」だが、まだその旅路は終わらない。

 まず今月以降には、「はやぶさ2」に搭載している小型の着陸機「MINERVA-II2(ミネルヴァII2)」という探査機を、リュウグウの表面に投下する予定となっている。「はやぶさ2」にはもともと4機の小型着陸機が搭載されており、そのうちJAXAが開発した「MINERVA-II1(2機で構成)」と、欧州が開発した「MASCOT」の3機はすでに昨年9〜10月に投下され、着地や探査に成功している。

 MINERVA-II2は、東北大学などの大学コンソーシアムが開発した探査機で、直径15cm、高さ14.5cm、質量877gの、手のひらに乗るくらいの小さな機体である。その内部には、小惑星表面で飛び跳ねて移動するための複数の機構や、カメラや温度計などを搭載している。

 ただ、MINERVA-II2は打ち上げ前から、データを処理するためのコンピューターに不具合を抱えており、機体の状態を確認したり、カメラなどの機器を制御したりすることができないという。これまで電源の入れ直しなど、復旧に向けた作業が続けられているが、回復には至っていない。このため、当初予定していたミッションの実施は難しい状態だとしている。

 それでも、ミッションの中身を変えるなどし、可能な範囲で成果を出すため検討が続いている。

 その後「はやぶさ2」は、今年11〜12月のどこかのタイミングでリュウグウを出発。2020年11月〜12月に地球に到達し、採取した石や砂の入ったカプセルを地球に投下し、ミッションを終える予定となっている。

 まさに「お家に帰るまでが遠足」。採取した石や砂が地球に届くのを心待ちにしつつ、これからの航海の無事を祈りたい。

【参考】

・第2回タッチダウン画像速報 | トピックス | JAXA はやぶさ2プロジェクト

・第2回タッチダウン運用 | トピックス | JAXA はやぶさ2プロジェクト

・2019年7月9日 記者説明会資料(PDF)

・大学コンソーシアムが開発した小型表面探査ロボット(... | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-

・JAXA Hayabusa2 Project

<文/鳥嶋真也>

【鳥嶋真也】

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

Webサイト: КОСМОГРАД

Twitter: @Kosmograd_Info

関連記事(外部サイト)