中国の肺炎の一方で、米国では予想外のB型インフルエンザ流行が猛威。54人の子供が死亡。

中国の肺炎の一方で、米国では予想外のB型インフルエンザ流行が猛威。54人の子供が死亡。

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 2020年1月11日、米アイオワ州に住む4歳のジェイド・デルーシアちゃんが、「インフルエンザ脳症のため視力を失った」という悲報が、CNNなどメディアを通じて全米に流れました。今後、彼女の視力が回復するかどうかはわかりません。デルーシアちゃんの担当医師は「彼女は小さな闘士。生きていることは幸運」といいます。

 デルーシアちゃんは今シーズン、インフルエンザの予防接種を受けていませんでした。米疾病対策予防センター(CDC)によると、毎年数十人の子供がインフルエンザで死亡し、ほとんどが予防接種を受けていません。また、米国では、毎年数千人の子供がインフルエンザで病院に入院していますが、重病になったり、亡くなったりした子供の多くは、デルーシアちゃんのようにインフルエンザにかかる前は全く健康でした。

 CDCによると、今シーズン2020年1月18日までに、少なくとも1500万人の米国人がインフルエンザにかかり、そのうち14万人が入院、8200人が死亡しました。特に米国では、今シーズンのインフルエンザが小児や若者を襲っています。これまで54人の小児がインフルエンザ関連で死亡しました。

◆A型とB型のインフルエンザの違い

 よく知られているように、インフルエンザウイルスにはA型とB型の2種類があります。

 A型インフルエンザウイルスは、表面に突き出た、ヘマグルチニン(H1からH16の16種類)とノイラミニダーゼ(N1からN9の9種類)と呼ばれるタンパク質の組み合わせで、100種類以上の亜型に分類されます。例えば、季節的に発生する最も一般的なA型インフルエンザはH1N1とH3N2で、それぞれヘマグルチニンH1ノイラミニダーゼN1、ヘマグルチニンH3ノイラミニダーゼがN2となります。

 A型インフルエンザウイルスは人間、鳥、豚など、多くの種に感染します。短期間で性質を変えやすく、流行の亜型はシーズンごとに違います。

 B型インフルエンザウイルスは、山形系とビクトリア系の2つの系統があります。A型のようにたくさん亜型はないため、ウイルスの性質は変化しにくいです。通常、人間だけが感染します。

 A型とB型インフルエンザは、どちらも、発熱、咳、鼻水、悪寒、体の痛み、疲労などの症状を引き起こし、検査なしではどちらの型か診断することは難しいです。

 一般的に、A型インフルエンザは、季節性インフルエンザ全体の75%を占め、残りの25%はB型インフルエンザです。A型インフルエンザが流行するのは12月から3月で、その後B型インフルエンザが2月頃から始まり、5月から6月まで続くことがあります。ただし、インフルエンザは、流行する季節を予測できないことで有名です。実際、米国では、今シーズンは予想外のインフルエンザが流行しています。

◆米では約30年ぶりにB型が流行

 昨年、米国では、A型インフルエンザ(H3N2)が流行し、高齢者に襲いかかりました。ところがCDCによると、今シーズンは約30年ぶりにビクトリア系統のB型インフルエンザが、早い時期に流行し始めました。例年、ビクトリア系統B型インフルエンザはウイルスの10%未満であるのに対し、今年は約60%も占めています。

 B型インフルエンザが米国で流行した1992年から1993年は、大人より子供に被害が広がりました。また、今シーズンに死亡した54人の小児のうち37人がビクトリア系統B型インフルエンザ、残りの17人はA型インフルエンザにかかっていました。

 B型インフルエンザが子供により深刻な影響を与える理由は不明ですが、一部の専門家は、B型インフルエンザは他のインフルエンザ株ほど変異していないため、おそらく高齢者は以前に感染し、ある程度の免疫力があると考えています。

 さらに今シーズン米国では、A型インフルエンザH1N1も流行し始め、このタイプは一般的に若者をより攻撃します。

◆インフルエンザの流行は今後どうなる?

 文頭のCDCの報告によると、インフルエンザのために医療施設を訪問した人は、先週の4.7%から今週は5.0%にほぼ横ばいです。このデータだけで今後、インフルエンザがどのように展開するか予測は難しいですが、CDCの報告書は、インフルエンザ関連の入院と死亡が全体的に少なくなると示唆していますというのも、インフルエンザによる合併症に苦しむ大部分の人は65歳以上の人だからです。

 ただし、昨年末にインフルエンザの症状で医療機関を受診した患者数は、ここ10年間でもっとも深刻であった2017年から2018年のインフルエンザシーズンの時のピークに達しました。このシーズンは、約6万1000人の米国人がインフルエンザで死亡しました。ですので、多くの専門家は、現在がシーズンのピークと判断するのは時期尚早といいます。

◆今年の予防接種の効果は!?

 ところで毎年のワクチンの種類はどのように決まるのでしょうか?

 世界100か国以上100を超える国立インフルエンザ研究所が、年間を通じてインフルエンザの調査し、数千もの患者サンプルを集めて検査します。その後、それぞれの研究所は、代表的なウイルスを、次の5つの世界保健機関(WHO)のインフルエンザ研究センターに情報を送ります。

米国ジョージア州アトランタ(CDC)

英国ロンドン(フランシス・クリック研究所)

オーストラリア、メルボルン(ビクトリア感染症研究所)

日本、東京(国立感染症研究所)

中国、北京(国立ウイルス病制御予防研究所)

 WHOは年に2回、インフルエンザワクチンの研究結果を確認し、その年のインフルエンザワクチンの対象となる特定のウイルス(通常3つまたは4つ)を推奨します。最終的に、各国でどのウイルスをワクチンにするか決定を下します。

 今シーズンの米国の一般的なインフルエンザワクチンは、日本と同様、2種類のA型株(H1N1株とH3N2株)と2種類のB型株(山形系統株とビクトリア系統株)から作られた4価ワクチンです。ただし米国では、今年のワクチンは、流行のH1N1とよく一致していますが、B株には完全に一致していませんでした。

◆ニューオーリンズで、異常に早い時期に始まったインフルエンザ

 実は、今シーズンは昨年の夏からルイジアナ州ニューオーリンズで流行が始まっていました。通常の流行は12月ごろから始まるため、異常に早い時期に始まったといえます。2019年7月31日から11月21日、ニューオーリンズの小児病院は、23人の入院患者のサンプルを含む1268の検査で、B型インフルエンザウイルスの感染を報告しました。この期間中、ルイジアナ州では、B型インフルエンザウイルスに感染した小児が1人死亡しました。

 当局が198人の子供のサンプルでB型インフルエンザの遺伝子配列を調べると、ほぼすべてのサンプルが、今年のインフルエンザワクチンのビクトリア系統B型株のクレードが異なる、要するにわずかな抗原性の違いによって少し種類が違うものでした。ただし、CDCは「ワクチンはまだ有用。流行しているB型インフルエンザウイルスは、ワクチンのビクトリア系統株とは遺伝的に異なるが、この2つは似ている」と述べました。仮に不一致であったとしても、交差防御(似ている抗原にとっても効果があること)によって効果が得られることがあります。また、インフルエンザにかかったとしても、ワクチンは重症化を防ぎます。ちなみにB型ウイルスに対するインフルエンザワクチンの有効性は通常約60%です。

 ベイラー医科大学ウイルス学者ペドロ・ピエドラ医師は「MedPage Today」に、「今年、B型インフルエンザが優勢になっただけでなく、早く流行しました。まれですが、毎年、インフルエンザは予想外なことが起こります」「ワクチンは完全に一致するわけではありませんが、予防策として最善の策です」「ほぼ毎年、ウイルスの1つが完全に一致するわけではありません」といいます。また、ピエドラ医師は、B型インフルエンザ今年優勢であった理由として、温度と湿度という環境と、免疫力のないコミュニティといういくつかの疫学的な理由を提示しています。

◆ワクチンを接種しよう

 さて、デルーシアちゃんの両親は、「子供に予防接種を受けさせてください」「私は、一人でも子供が病気になることを防ぎたい」「あなたの子供がこのように苦しむのを見るのは酷すぎます」と前述のCNN対して呼びかけます。

 東京都感染症予防センターによると、日本では2009年に新型インフルエンザと呼ばれて流行したウイルスで、2011年4月1日から季節性インフルエンザとして位置づけられているA(H1N1)pdm09が流行しています。今後B型が流行する可能性もありますし、別のA型の亜型に感染するリスクもあります。まだ予防接種を受けていない方、今からでも遅くないので早めに接種してください。

<文/大西睦子>

【大西睦子】

内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年4月から13年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)、『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)、『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)がある。

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