伊方原発3号炉のインシデント軽視は、この先どのようなリスクを拡大することになるのか?

伊方原発3号炉のインシデント軽視は、この先どのようなリスクを拡大することになるのか?

2016年操業再開翌日に裏から撮影した伊方発電所夜景 2016/08/13 撮影 牧田寛

 昨年12月26日より第15回定期点検(定検)中の四国電力伊方発電所3号炉が、1月にはいり二つの重大インシデント、一つの重要なインシデント、他にも多くのインシデントに見舞われました。この前代未聞の事態に四国電力は、第15回定期点検を一時中断しています。

 1月28日に四国電力は、「伊方発電所でのトラブルに関するご説明」 という文書を公開しています。残念ながら、この文書ではインシデントとアクシデントをひとまとめにトラブルという工学上全く意味の無い言葉に差し替えているほか、内容も抜けが多く、不誠実と言うほかありません。この文書から後の四国電力による情報発信の質はあまり良くなく、取り扱い部署が変わったものと思われます。本稿では、前回に引き続き重要なインシデントである使用済核燃料ピットにおけるインシデントを現在分かる範囲で解説します。

 

◆何が起きたのか

何が起きたかは、四国電力より次のように公表されています*。

〈*2020/01/20伊方発電所3号機 燃料集合体の点検用ラックへの乗り上げと燃料集合体落下信号の誤発報、伊方発電所でのトラブルに関するご説明 令和2年1月 四国電力株式会社〉

 四国電力による発表の要点はこの部分となります。

「使用済燃料ピット内で、燃料集合体の継続使用に向けた点検のため、クレーンを用いて点検用ラックに挿入していたところ、燃料集合体の下部ノズルがラックの枠に乗り上げたため、燃料集合体の落下を示す信号が発信しました。」

 加圧水型原子炉(PWR)と沸騰水型原子炉(BWR)の間には、使用する用語に微妙な違いがあります。「使用済み核燃料ピット」とは、BWRでの「使用済み核燃料プール」を意味し、どちらもSFPと略称します。

 SFPには、使用済み核燃料と新品の核燃料が仮置きされますが、今回のインシデントは定検初期であり、核燃料の継続使用検査のための移動ですので、使用済み核燃料と思われます。残念なことにこういった基本情報すら明確には公表されていません。

 発生したインシデントは、SFP内で保管されている燃料集合体を引上げ、移動させていたところ、検査用ラックに燃料集合体が乗り上げたものです。燃料集合体がラックに乗り上げたことにより、クレーンの吊り下げ重量が減少し、吊り下げ重量急減を燃料落下と誤認して発報したものです。

 燃料集合体の移動は、目視によって行われており、操作員が誤操作した事によるインシデントと思われます。

◆外部への影響はあるのか

 SFPそのものは、冷却水に中性子吸収材であるホウ酸が十分含まれていることと、ラックを構成するステンレス材にホウ酸を含めるなどの改良が進んでいますので、臨界前核反応であっても発生する可能性はたいへんに低いです。

 また、仮に燃料集合体が壊れた場合であっても、すべての作業において照射後の燃料集合体は極めて強い放射能を持つためにSFPの中でホウ酸水の中にありますし、原子炉建屋内はアニュラス部を介して負圧にしていますので外部に直ちに放射性物質が漏洩することはないです。

 PWRの場合、格納容器と原子炉建屋が原則として一体化しており、受動安全性の塊と言えます。この巨大な鋼製格納容器(SCV)が蒸気発生器(SG)と共に建設費を大きく押し上げるためにBWRでは、経済設計を目標として格納容器の大幅な小型化(自由体積が概ね1/10)とSGの無い系統としましたが、この経済設計が福島核災害の大きな要因となっています。プラント立地に深刻な問題があると指摘される日本原電敦賀2号炉と北海道電力泊発電所を除き、PWR陣営では原子力発電所の操業再開が一巡した一方で、BWR陣営ではいまだに一基も操業再開できない理由でもあります。

 伊方3号炉は、完成度の高い鋼製ダブル格納容器ですし、バウンダリの異常は伝えられていません。

 従って、このインシデントに関しては、外部環境への影響はほぼ生じ得ないと考えて良いです。

◆SFP内での燃料集合体の衝突や落下で何が起きるのか

 燃料集合体は、今回の場合二酸化ウラン燃料ペレットをジルカロイ(ジルコニウム合金)の被覆管に320個詰めヘリウムで封止し、それを17×17の配置で264本束ねたものです。足りない分は、制御棒案内管や計装管に使われています。長さは4m近くあり質量は680kgあります。支持格子はインコネル合金製です。BWRと異なり、チャンネルボックスはありません。

 インコネル(インコ社の商標)は、ステンレスの一種でニッケルを主とした鉄、クロム、モリブデン等の合金で、耐食性にたいへん優れます。ジルカロイは、高価ですが中性子を吸収しにくいために軽水炉の炉心に使われます。かつては、被覆管を含めてステンレスだったのですが、軽水炉の炉心では中性子は貴重な資源ですので浪費しないように第2世代炉(現在のPWRやBWRなど1960年代から主流の原子炉)ではジルカロイに切り替えられました。

 伊方3号炉は、燃料集合体が157体装荷されますので、燃料棒の本数は4万1448本、ペレットの数は1326万3360個となります。ペレットは、核分裂による中性子照射、熱サイクル、核分裂生成物質(FP)の発生によって損傷し、内部に気体FPなどが発生するために被覆管の内圧は上昇します。これだけたくさんの構成部品に一切の欠陥が認められませんので核燃料の品質管理は、工業の最高水準と言えます。

 燃料集合体1体には、燃料棒が264本、ペレットが8万4480個存在します。これらが破損すると外部に強い放射能を持つFPが漏洩します。従って、燃料集合体には、余計な応力などをかけて破損させてはいけません。

 燃料集合体の落下は、水中であっても大きな衝撃を燃料棒とペレットに加えますので、ペレットの破損や、被覆管の損傷、ピンホールなどが生じ、強い放射能がSFPに放出される可能性があります。最悪の場合、クリプトンなどの気体放射性物質はフロア内を汚染しますので作業員の被曝に繋がります。基本的に建屋内は負圧ですので、電源喪失などが無ければ外部に放射能は出ませんが、インシデントとしては重大なものとなります。

 今回は、目視検査の結果燃料集合体には異常なしとのことですので、おそらくゆっくりと乗り上げたものと考えられます。

 繰り返しになりますが、今回は実際に燃料集合体が落下したわけでは無く、落下警報は誤報です。

◆被覆管に穴を開けたらいけない

 燃料集合体の被覆管は、厚み0.5〜0.6mm程度、直径9〜10m程度で長さが4m程あります。この中に320個の核燃料ペレットがはいり、ヘリウムを充填されています。

 既述のように、核燃料ペレットは使用によって損傷が進み、内部のFPを封止する能力は下がりますので、被覆管でFPが外部へ漏出することを防ぎます。

 この被覆管にピンホールがあくと、気体放射性物質などが外部へ漏出することとなりますが、それによって内部が減圧すると、内部に水が浸入します。内部に水が浸入すると浸水燃料(しんすいねんりょう)となり、これが原子力安全に極めて重大な問題を生じます。

 現在商業用軽水炉で用いられる核燃料は、酸化物核燃料ですが、これは非常に頑丈で、被覆管で封止されている限り、制御棒の一挙全抜を起こしても燃料が一挙に崩壊することはありません。

 研究炉で良く用いられる金属板状燃料の場合、反応度事故が起きると燃料板の融着や表面で水の爆発的な気化を起こし衝撃圧力やウォーターハンマーなどによって原子炉は崩壊します。この典型例が1961年1月3日に合衆国で生じたSL-1実験炉暴走事故*で、原子炉は爆発して原子炉蓋を上に跳ね上げ、そのまま蓋が元の位置へだるま落としのように正確に戻ったために当初は何が起きたかは分かりませんでした。保温用アルミフォイルが蓋フランジの下に巻き込まれていたことと、作業員が天井に突き刺さっていたことから原子炉蓋が跳び上がり、元の場所に戻ったことが分かりました。

〈*極めて有名な原子炉反応度事故(暴走事故)で、チェルノブイル核災害までは反応度事故としてSL-1事故が例示された。小型実験炉の点検中に運転員が主制御棒を手で全抜し、原子炉が暴走して爆発した。一部では、失恋した運転員が自殺したなどと言う痴話にされているが、この事故は、第2世代原子炉の設計と原子力安全に重要な役割を果たしている。合衆国はこの事故の解明のために実際に原子炉を暴走させる実験を行っている〉

 その後BORAX(BOiling water ReActor eXperiment)*の一貫である再現実験で実際に原子炉に過剰な反応度を与え暴走、崩壊させることにより、SL-1事故は解明され、現在の軽水炉開発に反映されています。これらに加え、日本の原子炉安全性研究炉(Nuclear Safety Research Reactor; NSRR)の寄与もあり、商用軽水炉における酸化物焼結体燃料の場合、反応度事故に対する耐性は極めて高く、仮に反応度事故を起こしてもBORAXやSL-1のように原子炉炉心が一挙に崩壊することは無いと分かっています。

〈**PWRと異なりBWRには、原理的に反応度事故における受動安全性の欠如が懸念され、実用化に先立ってBORAXによる安全性の確認が行われた。結果、BORAXにより懸念は払拭されBWRは実用化された。原子力工学は、徹底した実証主義の学問であると言われる実例の一つである〉

 しかし、被覆管にピンホールがあいた浸水燃料の場合は、反応度事故が生じた場合、ペレット表面近傍で水の爆発的気化が起こり、ペレットは砕け、被覆管が破裂し、更に水の爆発的気化によって燃料棒が破壊されます。この場合も浸水燃料が少数ならば原子炉が長期運転不能になる以外、外界への影響は原理的にはバウンダリ(閉じ込め機能)によって阻止されます。

 核燃料被覆管が、第二の放射能バウンダリであることはよく知られており、本質をよく理解していない人たちは、「燃料棒にピンホールがあいても放射能は外に出ないから問題ない。騒ぐ奴は情弱。」という暴言を流布しますが、ピンホールがあいた核燃料は、浸水燃料となり、これは反応度事故が生じたときに原子炉炉心に甚大な破壊を生じる恐れがあります。

◆ 「ピンホールの空いた浸水燃料」は最悪

 反応度事故を生じさせないことは、軽水炉技術の極めて重要なものですが、反応度事故が生じたときに原子炉を速やかに事態終息させることは多重防護の原則から同等に重要なことで、ピンホールのあいた浸水燃料は、事態を大きく拡大させる最悪の代物です。

 このため、運転中に燃料棒が損傷し、FPが冷却水中に漏出した場合は、原子炉の運転を取りやめることになります。これは設備利用率を下げますので、電力会社はしばらく様子を見て冷却水中の放射能濃度の推移をしばらく見極めます。そして、ピンホールがあいたと考えられる場合、原子炉は停止され、点検前倒しとなります。

 当然ですが原子炉運転事業者は、燃料集合体のピンホールなどの異常にはたいへんな労力を使ってファイバースコープや耐放射線カメラによる目視検査や放射能漏洩の検査を行い燃料集合体の健全性維持に大きな労力とお金を払っています。

 このように燃料集合体の健全性は、原子力安全の根幹を支えるもので、ぶつけたり、ものをSFPに落としたりすることは起こしてはならないことです。

 燃料集合体は、たいへんに高価なものですから基本的に燃え尽きるまで燃やすことになります。従って、経済的な側面からも燃料集合体は丁寧に、慎重に扱わねばなりません。

 この部分は、石川迪夫(いしかわみちお)氏による『原子炉の暴走―臨界事故で何が起きたか』( 日刊工業新聞社) が、一般向けの入門書としてたいへんにわかりやすいです。関心があればご一読ください。素晴らしい名著です。

◆必ず膨大な数のヒヤリ・ハットがある。

 筆者は、原子力安全の根幹を支え且つ、経済性の鍵である燃料集合体を「ラックに乗り上げさせた」という報を聞いたときにたいへんに驚きました。脇見か何かをしていない限りあり得ないことですし、それを阻止するために複数の人間で操作、監視する作業です。

 今回のインシデントが直ちに問題を起こすことはありませんが、燃料集合体が損傷すると電力会社は経済的に大損するだけでなく、もしも仮に見落としでピンホール燃料が装荷されるとそのうち運転中止に追い込まれます。最悪の場合、反応度事故の際に原子炉炉心が大破することもあり得ます。

 軽水炉技術は、インシデントの可能性を一つ一つ摘み取って行くことで成り立っています。今回のインシデントに際し筆者は、「現場はどうなっているのだろう?」と不安になります。

 この様な重要インシデントの背後には多くのヒヤリ・ハット事故が存在することはハインリッヒの法則から明らかで、本来ならばこのようなインシデントが起こるまでにヒヤリ・ハットの段階でインシデントを摘み取らねばなりません。

 四国電力には、きちんと人的、物的、経済的資源を十二分に投入して、インシデントの原因を完全に解明し、万全な対策を行うことを求めます。そしてこの経験を全原子力事業者で共有し、人類に還元することが求められます。それが原子力を利用するものの義務です。BWR陣営の二の轍は踏んで欲しくありません。

 次回は、すでに概説しました外部電源喪失重大インシデントについてより詳しく論じます。

◆伊方発電所3号炉第15回定検における重大インシデント多発(3)

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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