仕事始めでそろそろ疲弊してきた昨今。瞑想が荒れた心を鎮める理由とは

仕事始めでそろそろ疲弊してきた昨今。瞑想が荒れた心を鎮める理由とは

Kostiantyn Postumitenko / PIXTA(ピクスタ)

 明けましておめでとうございます。微表情研究家の清水建二です。今年はコロナ禍で自粛が要請されましたが、お正月といえばまず初詣、神社や仏閣を想像します。そこで本日は、宗教の精神鍛錬の一つとして知られる瞑想と感情科学の関係について紹介したいと思います。

◆人間の欲求を表す6つの地獄

 仏教思想の中に六道輪廻というものがあります。

 人が死ぬと生きている間の徳や罪業に応じて、地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天界のどこかに生まれ変わるという思想です。また、この六道世界は、死後だけでなく、生きている私たちの心の中にも存在していると考えられています。

 怒りにとらわれていれば地獄界に、欲に溺れていれば餓鬼界に、本能を制御できなければ畜生界に、我が強く心を曲げ争い合っていれば修羅界に、平穏な状態を保っていれば人間界に、歓喜で過ごしていれば天界にいるのと同じ状態だと説かれます。

 こうした仏教思想を日常・ビジネス生活に照らし合わせるとき、様々な六道界にいる私たちの姿が思い浮かびます。

 自分の思いのままに人に怒鳴り散らしている人。

 承認欲求や金銭欲が強い人。

 本能のままに欲を爆発させ行動する人。

 自己の主張に固執する人。

 穏健で日々を誠実に生きる人。

 笑顔を絶やさず周りも幸福にしてしまう人。

 それぞれに具体的な自他の顔を思い浮かべることが出来ると思います。

◆瞑想を習慣化すると、自分の欠点に気付ける

 仕事始めがやや過ぎた今日この頃。新鮮な気持ちで仕事をスタートされていると思います。

 しかし、次第に仕事に忙殺され、積み重なる業務や達成できない売り上げ目標に心が乱され、プライベートの場にもその混乱が波及する。その結果、投げやりになったり、人当たりが強くなってしまう。次第に、人間界や天界以外に身を置いているのと同じ状態になってしまうのかも知れません。

 私は日常の中に瞑想習慣を取り入れています。

 定期的に瞑想をすると、自分が日々、どんな感情状態で生き、どんなふうに人々に接して来たかを思惟することが出来、改めるべき言動に気づかされます。自分とは関係のないと思っていた人間界や天界以外にいる住人に知らず知らずのうちに自らも仲間入りしていることに気づかされるのです。

 怒りやむさぼりのままに行動していたら、生きながらにして地獄や餓鬼、修羅界にいるの同じだと、本当に思い知らされます。

 このような瞑想による個人的な気づきは色々あり、他者の体験談も見聞きしますが、感情科学は瞑想をどのように捉えているのでしょうか。瞑想が感情と表情に与える影響について観てみます。

◆瞑想が心に健康をもたらす科学的根拠

 Rosenbergら(2015)の研究によると、瞑想を3ヶ月間行ったグループと行わなかったグループとを比べると、瞑想を行ったグループは、他者が苦しんでいる状況を目にすると悲しみ表情を浮かべ、怒り・軽蔑・嫌悪表情を浮かべない傾向にあることを報告しています。

 実験プロセスは次の通りです。

@60人の実験参加者をランダムに瞑想トレーニングを受けるグループと受けないグループに分ける。

Aそれぞれのグループは、他者が苦しんでいる様子が写っている映像を視聴する。このとき実験参加者の表情が計測される。また実験参加者はどんな感情を抱いたか自己申告する。

B瞑想トレーニングを受けるグループは、宗教指導者の指導のもと適切な瞑想トレーニングを3ヶ月間行う。瞑想トレーニングを受けないグループは普通に生活を送る。

Cその後、A同様にそれぞれのグループは、他者が苦しんでいる様子が写っている映像を視聴する。このとき実験参加者の表情が計測される。また実験参加者はどんな感情を抱いたか自己申告する。

 実験の結果、瞑想トレーニングを受けたグループは、受けなかったグループに比べ、他者が苦しんでいる様子が写っている映像に悲しみ表情を浮かべ、怒り・軽蔑・嫌悪表情を浮かべない傾向にあることがわかりました。

 さらにAのとき、瞑想トレーニング前ではグループ間に表情の違いがないということ、またCのとき、感情の自己申告においてグループ間に違いがないということがわかりました。

◆対人関係に与える瞑想の効果

 悲しみは共感感情に関連している感情です。苦しんでいる他者に悲しみ感情を抱く人は、その人の苦しみに共感し、その人物を助ける行動をとる可能性が高いと予想されます。怒り・軽蔑・嫌悪感情は拒否反応に関連している感情です。

 苦しんでいる他者に怒り・軽蔑・嫌悪感情を抱く人は、その人の苦しみから距離を置こうとし、その人物を助けない行動をとる可能性が高いと予想されます。

 以上のことから、瞑想には対人感情を社会的に良い方向に変える効果があること、また、意識せずとも自らの中に感情−表情の違いが現れ、行動変容が促されている可能性がある、ということがわかります。

 瞑想は、自律神経を整える、自分を見つめなおすことが出来るといった従来より謳われていた効果だけでなく、自他に対する感情・行動傾向にも良い効果をもたらしてくれるようです。

 瞑想と聞くと「宗教色が強くて敬遠したい」と思われる方もいらっしゃるかも知れません。

 碧海寿広『科学化する仏教 瞑想と心身の近現代』KADOKAWA(2020年)を一読されることをオススメします。宗教の修行法であった瞑想が現代のマインドフルネスに至る経緯やその問題点、瞑想を宗教から切り離すことの功罪について様々に論じられており、興味深いです。

 また、仰々しく瞑想と構えずに、心乱されることが起きたとき、あるいは、一日の終わりに目をつむり、呼吸を整える。そうした状態で今をあるいは今日一日を振り返り、思惟する。そんな習慣づけをしてみてもいいかも知れません。一分前より一分後が、今日より明日が、自分にとっても周りの人にとってもよりよく生きれるようになると私は思います。

 本年も本連載をどうぞよろしくお願いします。

参考文献

Rosenberg, EL, Zanesco, AP, King, BG, Aichele, SR, Jacobs, TL, Bridwell, DA, MacLean, KA, Shaver, PR, Ferrer, E, Sahdra, BK, Lavy, S, Wallace, BA, and Saron, CD (2015). Intensive Meditation Training Influences Emotional Responses to Suffering. Emotion. Online First Publication, May 4, 2015.

碧海寿広『科学化する仏教 瞑想と心身の近現代』KADOKAWA 2020年

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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