大学入学共通テスト、思考力は測れたのか?予備校講師が検証

大学入学共通テスト、思考力は測れたのか?予備校講師が検証

大学入試センター試験に代わり、初めて行われた大学入学共通テスト=16日、東京都文京区の東京大(時事通信社)

◆共通テストの本試が実施されるまで

 これまで毎年多くの受験生が受験してきた大学入試センター試験(以下、センター試験)が31年の歴史に幕を閉じ、その後継として今年から大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が1月16日、17日に実施されました。

 本来は、現在進行中の「大学入試のあり方に関する検討会議」の結論を待って、センター試験を共通テストに変えるかどうかの判断をすべきだったのですが、すでに作問等の準備が進んでしまった共通テストを止めることも難しく、当初の予定通りの日程で実施するに至りました。

 この試験では、「思考力」「判断力」「表現力」を問うことが目的の一つですが、それに合わせて英語、国語、数学に大きな変化がありました。さて、この目的が果たされたのか、実際はどのような試験であったのかを数学の試験を中心に説明しましょう。

(※一部数式の見づらい箇所については、本サイトに表示される画像で確認してください。)

◆記述式の名残はあったのか?

 この共通テストの数学の試験では、当初は「数学I」「数学I・数学A」に記述式の問題を入れる予定でした。

 もう少し詳しく説明すると、記述式の問題を3題入れ、各5点ずつで中間点はなく、ベネッセ系列の株式会社学力評価研究機構が50万人の採点を(数学だけでなく、国語の採点も)引き受ける予定でした。この記述式の出題については2019年12月17日に萩生田光一大臣によって中止されています。

 ここからは、「数学I・数学A」に限った話をします。

 これまでの作問経験者の話では、記述式の問題が中止された時点ではすでに共通テストの問題はほぼできていたようです。しかし、大学入試センターには記述式が中止された2019年12月からでは問題を大幅に変更する余裕はないともいわれています。

 ここからは私の推測も含まれますが、記述式の出題が中止されても試験の制限時間が70分のままであったことも考えると、大学入試センターではすでにできていた記述式の問題についてはマーク式の問題に変え、それに伴う変更は最小限に留めて作成したと考えられます。

 その記述式の名残がある問題のうち2題は推測できます。

 それは、第1問[2](3)のヌの問題と第2問[1](1)のアの問題です。第1問[2](3)のヌの問題は、試行調査で同じような問題があり、「a, b, c の値に関係なく」のような記述がなければ0点になるというものでした。これを記述式の問題として出題していたとすれば、同等な表現をどう採点するかなどもあり、どこまで公平に採点されていたかは疑問が残ります。

 また、第2問[2](1)のアの問題の正解は「xz」なのですが、読みにくい文字、zx、x?z、x×z、x√(z^2 )等の解答をどう採点したかということと、受験生が正しく自己採点できるかなどを考えると、記述式でなくてよかったと思われます。残りの1題は不明です。もしかすると問題を別のものに入れ替えたかもしれません。

 この記述式で表現力を問う予定でしたが、それが問えなくなりました。

◆滲む作問者の苦悩

 出題委員の方々は、新しいテストである共通テストの出題に相当苦労されたことでしょう。そういう事情を加味しなければ、今回の共通テストにはいくつも「練られていないのでは」と言いたくなる部分があります。

 まず、今回の共通テストでは、これまでの求めた数値をマークする(答が312ならアイウの欄に3, 1, 2を順にマークする)ものが減り、代わりに正解を選択肢の中から選ぶものが増えました。それによっていわゆる「まぐれ当たり」が増えていることと思います。

 先ほどの「数学I・数学A」の第2問[2](1)のアの答は「xz」でしたが、これは6個の選択肢から選ぶことになっています。しかし、「単位の異なるものは加えたり引いたりしてはならない」という原則を知っていれば、実質2択の問題です。どうして、この選択肢の中に x/z などを入れなかったのでしょうか。

 また、同じ問題の次の問題では、(イウ)x+(エオ)/5 に −2x+44/5を答えさせていますが、ここでは、分数44/5の表記であるのに対し、それ以降は小数表記で表されちぐはぐな表現になっています。

 そして、続く3つの数値を答える問題に対して、カ.キク、ケ.コサ、シ.スセには、小数第2位までの小数が入ることになっていて、正解は順に2.00, 2.20, 4.40ですが、これでは小数第2位がいずれも0となっておりつまらない問題になっています。(与えられたデータがすべて小数第2位までということを考慮したことは理解できますが。)

  そして、小数第2位が0にならない最後の問のソが逆に選択式の問題になっています。これらは、問題として不備があるわけではないのですが、小数第2位に0が続くと不安を与えた可能性もあります。

◆作成者は作問に集中できなかった?

 「数学II・数学B」でもいくつかありますが、1つ紹介しましょう。第2問の(1)および(2)で2つあるいは3つの関数のグラフの共通点として

・y軸との交点

・y軸との交点における接線の方程式

をあげていますが、後者の接線の方程式が共通点としてあれば、y軸との交点は一致するのはあたりまえのことなので、わざわざ2つあげる必要はありません。

 共通テストの作問者は、「太郎と花子の会話文」を入れるなどの気を遣う点が増え、それによって負担も増し、それが原因で良質な問題に集中できなかった可能性もあります。なお、会話文は、試行調査の問題(2017年と2018年に提示したサンプル問題)よりもかなり控え目な扱いになっていました。

◆思考力を問える問題であったのか?

 共通テストが終了した翌日1月18日の時点での予備校の「数学I・数学A」および「数学II・数学B」の平均点の予想は次のようなものでした。

【数学I・数学A】

ベネッセ・駿台54  河合塾53  

【数学II・数学B】

ベネッセ・駿台58  河合塾54

 しかし、その後どちらも平均点の予想を上方に修正して次のようになりました。

 数学I・数学Aが58点、数学II・数学Bが60点

(※20日に発表された中間発表では、数学I・数学Aが59.20 点、数学II・数学Bが 62.85 点です。)

 つまり、受験生は予備校が考えていたよりもよくできていたということになります。これは、新しい試験であるために、受験生がこれまでよりも時間を割き努力してきたこともその要因の一つでしょう。

◆ともすれば真面目に考えた方が損をするような問題も

 しかし、それ以外にも要因はあります。それは、すでに指摘したように、これまでのセンター試験とは異なり数値をマークする問題が減り、正しい数値や式を「選ぶ」だけの問題が増えたことがその一つです。ダミーの選択肢にも工夫が足りなかったということもあります。

 また、「数学I・数学A」の第3問では、よくわからなくても会話の中にある方法で計算すれば答が得られるものがあり、第4問では、細かい議論をすればそれなりに難しくても気にしないであてずっぽうで計算すれば正解してしまうものなど、ともすれば真面目に考えた方が損をするようなものも見受けられました。

 第5問の最後の問題では、H、B、D、E、Qが同一円周上にのることはありませんから、実質3つの選択肢からの選択問題ですので、時間が足りなくなって最後に適当に選んでもまぐれで正解する可能性は小さくありません。

 このようなことが少なからず平均点を上げている要因になったと考えられます。これまでのセンター試験では解かなければまず正解することはあり得ない問題が多かったのに対し、よくわからなくても正解することがあり得るようになってきたわけですから、一部の塾・予備校などが学力を伸ばすこととは関係のないことを指南するなども今後起こり得ます。

 最後に共通テストでは、誰が指示しているのかわかりませんが、会話文がいくつもの教科の試験で現れますが、この会話文が、「思考力」「判断力」「表現力」に貢献しているとは思えません。

 数学の試験の場合は、作問者も作りにくそうな印象を受けます。今後、これを続けていくのかどうかを検討する必要があるでしょう。会話文では問おうとしていることがストレートに問えていません。

 なお、倫理、政治・経済の第4問の会話文に次のようなものがありました。

P:昨日の世界史の小テスト、難しかったよね。歴史を覚えるのは苦手だなぁ。

Q:そう? 楽勝だったけどな。それにしても、「歴史を覚える」だなんて言っちゃって、歴史の本質が分かっていないね。だからテストもできないんだよ。

P:意地悪な性格だなぁ。過去の事実を正しく記録したのが歴史でしょ?

 この中の「歴史の本質がわかっていないね。だからテストもできないんだよ。」の一文に気分を悪くした受験生もいたようです。会話文が「思考力」「判断力」「表現力」を問うのに本当に必要なのかを考えていく必要があります。

<文/清史弘>

【清史弘】

せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 

関連記事(外部サイト)