<ウクライナ危機>セルビアとハンガリー、「綱渡り」外交=ロシアとEUの狭間で

<ウクライナ危機>セルビアとハンガリー、「綱渡り」外交=ロシアとEUの狭間で

ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対して、ほとんどの欧州諸国は厳しく非難しているが例外もある。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻に対して、ほとんどの欧州諸国は厳しく非難しているが例外もある。旧ユーゴスラビアのセルビアと東欧のハンガリーは国連の非難決議には賛成したものの、セルビアは一連の制裁には参加しておらず、ハンガリーは中立の方針を打ち出し、両国とも対ロ批判で「及び腰」だ。

一方、セルビアはEU加盟を希望し、加盟候補国であり、ハンガリーは既にEU加盟国であり、両国ともEUに配慮せざるを得ない立場にある。

◆選挙で圧勝

こうした中で、4月3日、セルビアでは大統領選挙と議会選(一院制、定数250)が行われ、ロシアに融和的な現職のブチッチ大統領が約6割の票を獲得して再選され、右派与党、セルビア進歩党も第一党の座を維持した。ハンガリーで実施された総選挙は強権政治でEUとは距離を置くオルバン首相が率いる右派与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」が圧勝した。この結果、両国ではEUとロシアの間でこれまで通りの「綱渡り」外交が続きそうだ。

セルビアはEU加盟を目指すことで西側を志向する一方、民族と宗教が似通うロシアとの関係も重視。欧州とロシアの間でバランスを取ることに努めているようだ。

旧ユーゴ紛争でのセルビア人勢力に対してNATOが行った執拗な空爆を記憶するセルビア人とNATOの東方拡大により旧ソ連時代の勢力圏を徐々に「浸食」してきた西側への警戒感が根強いとされるロシア人は、「西側に対する恨みで育まれた被害者意識の絆で結び付いている」と米紙ニューヨーク・タイムズは指摘している。

セルビア人の対西側への反発はロシアへの手放しの「追随的態度」としても表れる。セルビアのタブブロイド紙「インフォーマー(Informer)」は2月、ロシア政府は「潔白」であり、「ウクライナがロシアを攻撃」との大見出しの記事を一面に掲載した。

一方、セルビアの煮え切らない態度はEU内で批判の的となっている。対ロ経済制裁への不参加について、ドイツのベアボック外相は「EUに加盟することは同じ立場をとることだ」とクギを刺した。

◆オルバン氏の続投

ハンガリーの議会選(一院制、定数199)では、オルバン氏のフィデスが、反オルバンで結集した野党連合を破った。オルバン氏は首相としては連続4選(通算では5選)された。

ハンガリーは隣国ウクライナへのロシアの侵攻を非難する一方、欧州諸国の武器を自国経由でウクライナへ供与することは拒否。野党連合はオルバン政権は「親ロシア」だとの批判を展開したものの、有権者は戦争に関与しない姿勢を評価した模様だ。

オルバン政権は司法への介入やメディアの独立性の制限、難民への厳しい政策などをめぐってEUとの間で軋轢が生じており、EU関係者はオルバン政権について「予測不可能であり、EUに突き刺さった棘のようなものだ」と手厳しい。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、オルバン首相のロシアに対する融和的な姿勢を批判し、「誰の味方に付くのか自らはっきりさせなければならない」と訴えた。

ハンガリー政府高官は、「この戦争から距離を置きたい」と主張。ウクライナへ武器を送れば同国西部にいるハンガリー系住民に危害が及ぶ可能性があると指摘。兵器の自国領内通過を拒否する方針を強調した。

◆プーチン氏から祝電

ロシアはセルビアとハンガリーの姿勢をどう見ているのだろうか。ロシアのプーチン大統領は4日、セルビアのブチッチ大統領とハンガリーのオルバン首相に対し、3日の選挙での勝利を受けて、祝意を伝えた。ブチッチ氏に対しては「ロシア人とセルビア人は兄弟のような国民」との見方を示し、オルバン氏には「困難な国際情勢だが、一層の関係発展こそが両国の利益だ」と強調した。

ロシアのウクライナ侵攻に対しては、西側諸国はおおむね対ロ非難で一致しているが、セルビアやハンガリーのように過去の歴史的経緯や地政学的理由などから明確な反対を打ち出せない国も欧州には存在する。

■筆者プロフィール:村上直久「アジアの窓」編集委員

1975年時事通信社入社。UPI通信ニューヨーク本社出向、ブリュッセル特派員、外国経済部次長を経て退職。長岡技術科学大学で常勤で教鞭を執った後、定年退職。現在は時事総研客員研究員。学術博士。

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