<ウクライナ危機>NATO再び拡大へ―フィンランド、スウェーデンの加盟、年内にも実現

<ウクライナ危機>NATO再び拡大へ―フィンランド、スウェーデンの加盟、年内にも実現

ロシアのウクライナへの軍事侵攻は西側の軍事機構である北大西洋条約機構(NATO)の勢力圏拡大を阻止するのが主要目的の一つとされるが、これはかえってNATO拡大を促すという皮肉な結果となりそうだ。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻は西側の軍事機構である北大西洋条約機構(NATO)の勢力圏拡大を阻止するのが主要目的の一つとされるが、これはかえってNATO拡大を促すという皮肉な結果となりそうだ。

ロシアのウクライナ侵略はまた、NATO加盟国の結束を強め、ロシアの脅威にさらされているフィンランドやスウェーデンなど周辺国の危機感を強め、NATO加盟申請へ突き動かしている。申請すれば6月末のNATO首脳会議で承認、各国議会の批准手続きを経て、年内にも加盟が実現しそうな勢いだ。

ロシアは2000年代にはNATOとおおむね友好的な関係を維持した時期もあった。現時点ではにわかには信じがたいが。

◆「カラー革命」

米国が主導するNATOのミッションにロシアが参加したり、ロシアがNATOの「パートナー国」となったり、NATOロシア協力理事会が存在した時期が21世紀に入ってあった。しかし、こうした友好ムードが吹き飛ばしたのは2000年代にNATO周辺国で連続して起きた、民主化のための「カラー革命」だった。ロシアのプーチン大統領はウクライナの「オレンジ革命」(2004年)やグルジア(現在はジョージア)の「バラ革命」(2003年)は米国が策動し、いずれロシアのプーチン政権もターゲットになる可能性があるとして警戒するようになった。プーチン氏は、NATOは米国の策動の手段であるとみなすようになったという。そしてプーチン政権にウクライナ侵攻を決断させたのは、同国がNATO加盟に向けた動きを加速させようとしたことがあるとみられる。

◆北欧2カ国、「中立」から転換

フィンランドとスウェーデンはNATOの「パートナー国だが、東西冷戦中から「軍事的中立」政策を維持してきており、NATOなどの軍事機構にも属していない。両国では長い間、国民の間でNATOへの関心は低かったが、ロシアのウクライナ侵攻がこれを一変させた。両国は近くNATOへ加盟申請を行う公算が大きいとされる。

フィンランドのマリン首相は4月13日の記者会見で「(ロシアのウクライナ)侵攻ですべてが変わってしまった」と述べ、数週間以内に加盟申請を決めるとの考えを示した。フィンランド議会は20日、加盟をめぐる審議を開始。スウェーデン政府も5月中に安保政策見直しの報告書をまとめる方向だ。両国とも6月末のNATO首脳会議までに申請するとみられる。

両国ではNATO加盟への国民の支持率が2,3割台だったがロシアのウクライナ軍事以来過半数を突破し、加盟機運がかつてなく高まっている。NATO拡大に反対するロシアが非加盟国のウクライナに猛烈な攻撃を加えていることを目の当たりにし、特に1340キロの国境をロシアと接するフィンランドでは次の標的になりかねないとの危機感が広がっているという。

スウェーデンのアンデション首相は記者会見で「歴史的に重要な転換期にある。ロシアの軍事侵攻が始まった2月24日の前後で安全保障環境が完全に変わった」との見方を示した。

NATO入りが実現すれば、加盟国への攻撃を全加盟国への攻撃とみなす、NATO条約(北大西洋条約)第5条に基づく集団防衛義務が運用され、両国にとっての抑止力の飛躍的向上が期待される。

◆ロシアとの国境、緊張高まる

フィンランドとスウェーデンがNATO入りすれば、両国とロシアの国境付近の緊張が高まるのは必至だ。ロシアのメドベージェフ前首相は4月14日、北欧2カ国が加盟すれば、「国境は強化されなければならない」と主張、「バルト海周辺で核のない状態はあり得ない」と核配備を示唆した。さらにロシアはサイバー攻撃により、インフラを混乱させたり、偽情報を流布して加盟国の国内政治に介入する可能性もある。

フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請し、6月のマドリード首脳会議で承認された場合、加盟国での批准手続きに入るが、集団防衛義務が適用されない手続き期間中、両国の安全をどのように保障するかの問題が生じる。

この間、米国と英国が二国間ベースでもしくは米英を交えた三国間ベースでの安全保障協定を結ぶ構想も浮上している。最も最近NATOに加わった北マケドニアの場合、手続きを終えるのに約1年かかった。

◆ドイツの変身

ドイツはロシアのウクライナへの軍事侵攻で安全保障環境が一変したと認識するようになった。ポーランド、バルト3国などもそうだ。ドイツは国防費を大幅に増加するとともに、紛争地域への殺傷能力のある武器禁輸を解除した。こうした中で、ラスムッセン元NATO事務総長は、ドイツがロシアから依然として大量の天然ガスと石油を輸入し、この代金として一日当たり数億ユーロを払い続けていることを問題視。これは結果的にプーチン氏の戦争犯罪に加担していることになると批判した(米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿)。この寄稿が掲載されたのは4月21日だったが、その後5月4日、欧州連合(EU)は、ロシアへの追加制裁として、石油の輸入を年内に禁止する方針を発表、ドイツもこれに同意した。

そのうえでラスムッセン氏は、「もしプ―チン氏がウクライナで成功すれば、彼はそこで(侵略を)やめることはないだろう。彼はNATOに弱い部分があればそこを突いてNATOを試そうとするだろう。NATOと密接に連携していても、NATO条約第5条の「集団防衛義務」で守られていない、現在のスウェーデンのような国はリスクにさらされるだろう」と警告した。

ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアの周辺に位置する西欧諸国はNATOに加盟して集団防衛システムの一部に組み込まれない限り、国家としての存続が危うくなる時代が訪れようとしていることを示しているとも言えよう。

■筆者プロフィール:村上直久「アジアの窓」編集委員

1975年時事通信社入社。UPI通信ニューヨーク本社出向、ブリュッセル特派員、外国経済部次長を経て退職。長岡技術科学大学で常勤で教鞭を執った後、定年退職。現在は時事総研客員研究員。学術博士。

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