ファーウェイのハーモニーOSは「目標ありき」の姿勢が生み出した「攻めのOS」

ファーウェイのハーモニーOSは「目標ありき」の姿勢が生み出した「攻めのOS」

ファーウェイが手掛けるハーモニーOSは「アンドロイド・iOSとの対決」などの切り口で語られることが多い。しかしハーモニーOSは従来のスマートフォン用OSと開発に当たっての主たる目的が違っていた。

華為技術(ファーウェイ)が手掛ける鴻蒙操作系統(ハーモニーOS)については、「アンドロイド・iOSとの対決」などの切り口で語られることが多い。しかしハーモニーOSはもともと、それまでのスマートフォン用OSと開発に当たっての主たる目的が違っていた。

■「第2のiOS、第2のアンドロイドでは意味がない」の考え方

ファーウェイが独自OSの開発に着手したのは2012年ごろとされる。「ハーモニーOS」として本格的な開発を始めたのは16年5月だった。ファーウェイはその時点で、「もう1つのアンドロイドやiOSを作るつもりはない。それには価値はない」との意識を明確に持っていた。

ファーウェイはかなり早い時期から「ポスト・スマホ」の戦略を明確にしていたとされる。それは「デジタル技術によりすべてを結び付ける」ことであり、より具体的に言えばIoT(モノのインターネット)や高度なコンピューティングなどで、あらゆるものが高度に効率化され、さらに人々の安全や快適さが実現する社会だ。別の言い方をすれば、スマートフォンのように情報の授受に特化された機器に過度に依存するのではなく、あらゆるモノが情報ネットに組み込まれた社会だ。

「ハーモニー OS」は、あらゆるハードウエアデバイスの搭載システムの問題が解決でき、「ハードが違うとシステムも違う」状況に別れを告げることができることも目指して開発された、つまりハーモニーOSを搭載すれば、ハードやシステムごとに異なるアプリが必要という問題が解決され、開発作業が効率化されることになる。

■「アンドロイドを代替できるOS」のイメージが一人歩き

ファーウェイの経営陣の一員として現在は端末事業の最高責任者(CEO)などを務める余承東氏は、米国が中国への対抗策の一環としてファーウェイに制裁を科す約2カ月前に「独自OSを準備している。アンドロイドを使えなくなった場合、それに代わるプランBはすでにある」と発言した。

この発言が注目されて「ファーウェイは独自OSで米国による制裁に対抗」との見方が強まったのだが、時系列を考えれば少々おかしいことになる。

まず米国でトランプ政権が発足したのは17年だ。トランプ大統領は15年の出馬記者会見で対中貿易問題について言及したが、中国や中国当局を敵視して強硬策に踏み切る考えを示す表現はなかった。トランプ政権が発足してからも米中は協議を繰り返し、双方の対立は解消可能であるとみられていた。米国が19年5月に、ファーウェイを含む複数の中国企業との取引を禁止した時には、むしろ「そこまでやるか」との衝撃が強かった。

しかし、ファーウェイが独自OSの開発に着手したのは12年で、遅くとも16年には「既存のOSとは本質的に異なるOSを開発」との意識が明確だった。トランプ大統領によるエンティティーリスト(取引禁止リスト)の発表よりしばらく前に「危険な兆候」をつかんでいたとしても、ハーモニーOSの開発当初から、「アンドロイドに代わるプランBの入手」が主たる目的だったとは考えにくい。

■他者との協力・提携と、積極的な独自開発を平行させる企業体質

さらに、ファーウェイの「社風」の影響もある。ファーウェイは研究開発に極めて熱心な会社として知られるが、「何が何でも独自路線」を目指しているわけではない。むしろ、「他者が開発したよいものを取り入れる」ことに積極的だ。その上で、「目標実現のために必要な“道具”が入手できない」状況が発生すれば、「自主開発の資金には糸目をつけない」というやり方を貫いてきた。「目標ありき」を出発点として、その実現のために最も合理的な道筋を追求してきたとも言える。

すでにアンドロイドやiOSという全世界的に主流のOSが存在するならば、「そのOSでは達成できない目標がある」と認識しないかぎり、ファーウェイが独自のOSの開発に乗り出したとは考えにくい。つまりハーモニーOSは当初から、米国による圧力から自らを「守る」ことよりも、新たな目標を実現するための「攻め」の発想が強くあったと考える方が自然だ。

■炭坑用ハーモニーOSは、今後の利用法のひな型か

ハーモニーOS 1.0の発表は19年、ハーモニーOS 2.0の発表は20年だった。そして21年9月には、中国国家能源集団と共同で開発された鉱山用システムの、ハーモニーOS・フォー・マイニング(以下、ハーモニーOSFM)が発表された。

このハーモニーOSFMは、ハーモニーOS開発の当初目的にまさに合致したOSと言える。ファーウェイは21年10月に、炭鉱事業など5事業を扱う部門を「軍団」という組織に改編した。「軍団」といっても軍事と関係するわけではなく、事業に伴うニーズの研究から研究開発、販売、維持補修などの全てを、軍部隊のように「自己完結型」で遂行できる組織ということだ。

炭鉱事業を重視したのは、坑内作業の少人数化や無人化によって炭鉱労働者を過酷で危険な労働環境から解放し、同時に高効率化することが、ファーウェイが目標とする「次の社会像」に合致するからであり、システムを実用化すれば炭鉱以外の鉱業分野への応用や、中国国外の鉱業企業への売り込みも見込めるとの考えがあった。その目標のために、ハーモニーOSが利用できたということだ。

ファーウェイはそれ以降もハーモニーOSの改良を進めており、7月にはハーモニーOS 3.0を搭載した初のスマートフォンであるMate50を発表する予定だ。しかしハーモニーOS 3.0の主たる改良点としては「ハードウェアとソフトウェアの連結最適化」「ファイル・システムの垂直方向の高速化」「高性能IPCの実現(プロセス間通信)」が挙げられている。

IPCとは、産業の現場で用いられるパソコンであり、データ収集や制御、さらに「見える化」で威力を発揮する。産業の現場で制御用に用いられてきたプログラマブルロジックコントローラ(PLC)よりも、「ソフトウェアの幅広い利用で柔軟な対応が可能になる」「現場からのデータをリアルタイムで分析しながら最適な処理をする」などが実現するという。これらにより、ハーモニーOS 3.0は産業用やIoTを強く意識したOSであることは間違いない。

■海外市場のスマホに搭載は困難、しかしIoT用なら可能性あり

市場分析会社のストラテジー・アナリティクスによると、スマートフォンプラットフォームとしてハーモニーOSの中国における市場シェアは21年1−3月期には0%だったが、22年同期は4%に成長した。同社は少なくとも23年まではシェア拡大が続くとの見方を示し、一方ではハーモニーOSが欧米や新興国市場で広く受け入れられることは難しいと指摘した。

ハーモニーOSの中国国外での浸透が難しい大きな理由としては、グーグルモバイルサービス(GMS)が利用できないことなどが挙げられている。中国国内ではグーグルによる各種サービスが利用できず、百度など中国企業が同様のサービスを提供している。従ってGMSの利用の可否は中国国内のユーザーにとっては、「無用の機能」だ。しかし中国国外のユーザーにとってはGMSが使えなければ、「実用性に大いに欠ける」ことになってしまう。

確かに、現状ではハーモニーOSが中国国外で一定以上のシェアを獲得することは考えにくい。パキスタンやロシアのような中国と関係が良好な国であれば、スマートフォン用OSとしてハーモニーOSを受け入れることに障壁はないだろうが、GMSが利用できないので、消費者が受け入れるかどうかは大いに疑問だ。

しかしIoTあるいは産業用に特化した機器ならば、GMSを必要としない場合も多い。ハーモニーOSにアンドロイドなどでは実現できない機能があれば、「ハーモニーOSしか選択肢はない」という状況が出現する可能性はある。

なお、ルイ・ヴィトンが1月に発売したスマートウオッチは、iOSとアンドロイドに加えて、ハーモニーOSにも対応している。同製品は日本での販売価格が約43万円の「高級ブランド商品」だが、中国での需要も大いにあると判断した上での、ハーモニーOSへの対応と考えられる。外国製品が中国市場を重視する戦略を立案するならば、ハーモニーOSを無視できない状況になりつつあるとも考えられる。(構成 /如月隼人)

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