米国の「中国ハイテク企業締め出し」、先行き不透明で自国内に「死活問題」も発生

米国の「中国ハイテク企業締め出し」、先行き不透明で自国内に「死活問題」も発生

米国が中国企業に科した制裁は、長期的に見れば米国にとって「技術競争でより不利な状況」をもたらす可能性がある。米国内で発生している問題も深刻だ。

米国政府は2019年5月、中国企業70社を列記する「エンティティーリスト」を発表した。自国企業などに対して、リストに掲載された企業との取引を厳しく制限する措置だ。リストに掲載された企業で特に注目されたのは、スマートフォン売上台数でアップルを抜いて世界第2位に躍り出ていた華為技術(ファーウェイ)だった。スマートフォン製造に必要な電子部品を米国企業から調達できなくなり、さらに中国企業が製造したスマートフォンではグーグルが提供する各種サービスを利用できなくなるからだ。

■米国の制裁により、ファーウェイの「脱皮」が加速

しかし、それから3年が経過した現在も、ファーウェイは生き残っている。それどころか、企業としての体制を整備して、技術力も大いに向上させた。

スマートフォン分野での「快進撃」の記憶は実に強烈だったが、同社の状態は大きく変化した。まず同社はスマホの売り上げに大きく頼るのではなく、「通信会社向け事業」、「(通信会社以外の)事業者向け事業」、「端末事業」の三大分野を推進する性格を強めた。

「端末事業」にはスマートウオッチの製造販売も含まれる。ファーウェイはスマートウオッチを利用した、通信とデータ処理の技術を駆使しての「発症前に体の異変を知ることができる予防医学」の構築を強調している。ファーウェイにとってのスマートフォンの販売は、この「端末事業」の中のさらに一部ということになる。

■ファーウェイの「ピンチ」は、大きなチャンスにつながる可能性も

ファーウェイの事業の中で、特に注目されているのは「事業者向け事業」だ。太陽光発電、炭鉱、港湾運営、自動運転車など手掛ける分野は実に幅広い。ファーウェイのこの分野での事業展開の特徴は、自らが太陽光発電などを直接手掛けるのではなく、各分野の企業に対して、自社が蓄積してきた技術を総動員して、最適な専門機器やソリューションを提供する点がある。

「事業者向け事業」の中でもファーウェイの存在感が増している分野の例として、クラウドサービスがある。同社の2022年4月の発表によると、21年におけるクラウドサービスによる売上高は前年比34%増の201億元(約3850億円)で、中国国内市場ではアリババクラウドに次ぐ第2位だった。またクラウドサービスの中でも重要な分野であるIaaSでは、ファーウェイが世界第5位だったという。

「あまりにも偉大な成功」を経験すると、その成功経験に固執したことが大失敗につながる例は多い。象徴的な実例として語られることが多いのが、米国企業のコダックだ。同社は1975年にデジタルカメラの試作に成功した。しかし主力分野のフィルム関連事業にこだわるあまり、デジタルカメラの開発にさほど力を入れなかった。そして日本のカシオ計算機が95年に普及版のデジタルカメラを発売。コダックはその後のデジタルカメラ分野の急速な発展についていくことできず、2012年に倒産した。その後、会社規模を大幅縮小して印刷会社として再建された。

ファーウェイの場合、「苦境」は現在も続いている。しかし、スマホ事業での大成功という「過去の栄光」に束縛されない状態が、米国の制裁のおかげでより早く実現した感すらある。ピンチは時として、大きなチャンスのきっかけになる。

■米政府が中国製品撤去のために用意した助成金は実情と比べて大幅に不足

一方、制裁を科した側の米国の状況はどうなのか。米国メディアのブルームバーグは11日、米国当局が進める「安全の確保」を理由とする自国の通信インフラからの中国ハイテク製品の締め出しが順調に進んでいないと報じた。

米国当局は自国の通信インフラで使われている華為科技(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)の製品を他の製品に交換するよう、分野ごとに指示している。業者側の負担を低減するために、助成金制度も設けたが、予算総額が大幅に不足している。米連邦通信委員会は助成金として19億ドル(約2500億円)の予算を用意したが、1月には181の申請者からの請求金額の合計が56億ドル(約7200億円)に達したという。連邦議会では追加予算を組む動きがあるが、成立するかどうかは不明だ。

影響が特に大きいのは、地方の規模が小さな接続業者だ。中国製品の排除という政府の方針は支持しつつも、資金が足りない場合には事業からの撤退を決断すると話す経営者もいるという。

また、ZTEは米国国内での顧客サポートをすでに停止した。ファーウェイもそれに続くとの見方がある。そうなれば、落雷やハリケーンなどで施設に被害が出れば、関連エリア内の通信が突如としてストップする可能性がある。通信が途絶えることで、米国の緊急通報である「911番」の通話も不能になる恐れがあるという。

■米通信業者は10年前、自国政府の誘導により中国製品を導入

米国の地方の通信業者が中国製機器を導入しはじめたのはおおむね10年前という。皮肉ことに、業者が中国製機器を導入した大きな理由は、携帯電話サービスの拡張のために補助金を拠出した政府が「低コスト」を求めたからという。

米国政府が「中国製品締め出し」のために制定した助成金制度には、もう一つの問題がある。同等の機能を持つ中国製品以外の機器に交換する場合に対しての助成金という制約だ。技術の進歩が速い通信業界では通常、「機器交換」はアップグレードを意味するが、助成金に付帯する条件のために、機器を交換しても技術面では「停滞」せざるをえないという。

また、通信の仕様が変わるために、サービスの個別利用者が、携帯電話などの端末機器を自己負担で買い替えねばならない場合もある。米国による「中国企業制裁」は、自国の業者にも消費者にも、大きな負担をもたらしつつある。

■米国で「中国との競争について見通しが甘かった」の真剣な反省

米ハーバード・ケネディ・スクール ベルファーセンターは2021年12月、「大いなる技術の対抗:中国 vs 米国」と題する長大なリポートを発表した。同リポートは、米国国内における「中国関連予想」が、はずれ続けたと紹介した。

まず、全米アカデミーが1999年に発表した10年後の「ハイテク世界」の予想で、中国に触れた部分はなかった。つまり、先進的技術の開発について、中国は「問題外」と見なされていた。当時はそれ以外の将来予想でも「21世紀に中国が巨大工業国になることはない。人口はあまりにも大きく、国内総生産(GDP)はあまりにも小さい」といった見方が一般的だった。

2010年になると、中国が巨大工業国として成長しつつあることははっきりと認識されていたが、中国問題の専門家ですら「中国では(学習の方法の)大部分が丸暗記」であり、中国は「規則に縛られた国」であり、中国人はイノベーションを成し遂げることはできず、模倣しか出来ないと考えていた。また、「情報技術における進歩はファイアー・ウォールの背後にある独裁的な体制の下ではなく、自由に考える者で成り立つ社会で達成される」と考えが一般的だった。

そして、ベルファーセンターのリポートは、技術分野における中国観は現在までに「中国は巨大製造国の地位を越えて、21世紀の基礎的な技術分野である人工知能(AI)、5G、量子情報科学(QIS)、半導体、バイオテクノロジー、グリーンエネルギーで、脅威ある対抗者になった。中国はいくつかの競争において、すでにトップだ」などと、大きく変化したと指摘。同リポートによれば、多くの米国人は古い中国観に固執しているが、専門家からは「このままの状態が続けば、中国は最先端技術の分野で、10年以内に米国を追い越す」との指摘も出ている。

■米国のファーウェイ制裁、中国の「米国猛追」をさらに加速する可能性

上海証券取引所が2019年7月に開設した、新興ハイテク企業向け株式市場の「科創板」では、上場企業全体が21年に投じた研究開発額が前年比29%増の合計852億4000万元(約1兆6320億円)に達した。また科創板板上場企業が投じた研究開発投資の営業売上高に対する比率は平均13%だった。

最も成功した中国ハイテク企業の一つであるファーウェイは、最低でも売上高の10%に相当する金額を研究開発費に充てることを社是としている。21年における研究開発費の売上高に対する割合は、前年比6.5ポイント増の22.4%だった。同割合が大きく跳ね上がった最大の要因は売上高が前年比28.6%と激減したことだが、研究開発費は実際の金額も、前年よりわずかではあるが増えている。

中国ではファーウェイの創業者であり最高経営責任者(CEO)である任正非氏が、「経営の神様」と見なされている。米国の圧力に堂々と立ち向かう姿が、「愛国心」を刺激している面もあるが、それだけではなく、常に長期展望をもって会社を成長させてきた姿勢と手腕が評価されているという。そのファーウェイの経営に大きな特徴が、「研究開発に多くをつぎ込む」だ。

科創板に上場した企業の経営者が、任氏やファーウェイの経営方針を大いに意識にしていることは間違いない。その結果、中国のハイテク企業には「研究開発に多くをつぎ込む」が、企業文化として浸透したと言える。その結果、中国企業が画期的な技術を開発する可能性は高まりつつある。企業の研究開発に対する米国のファーウェイに対する制裁が、長期的に見れば中国との技術開発競争で、米国にとって「さらに不利な状況」をもたらす可能性は否定できない。(構成 / 如月隼人)

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