<コラム>「崇拝」する日本人もいる、韓国のチョーセンニンジンとは

<コラム>「崇拝」する日本人もいる、韓国のチョーセンニンジンとは

韓国の山は、山ぶどうや山イチゴ、ポップンジャ、きのこなど、日本と変わらずというか、日本以上に豊かな恵みを与えてくれるが、韓国と言えばなんといっても高麗人参だ。写真は韓国・ソウル。

韓国の山は、山ぶどうや山イチゴ、ポップンジャ(覆盆子、ブラックラズベリー)、きのこなど、日本と変わらずというか、日本以上に豊かな恵みを与えてくれるが、韓国と言えばなんといっても高麗人参(インサム)だ。

日本などでも栽培されているようだが、その薬効の面においては韓国産にはるかに及ばないらしい。中国産もあるがこれも韓国産に遠く及ばないという。なぜこの朝鮮半島のものにそういう薬効が強くあるのかわからないが、とにかく大きな天の祝福であることだけはまちがいない。

特に山に自生する山人参(サンサム)は貴重だ。畑に栽培する高麗人参は見られても、サンサムは日本ではほとんど見られないだけに、さらに価値があろうというものだ。山でこれを見つけたとき、「シンバッタ」と大声で叫ぶ。そうすることによって、そこら一帯のサンサムは自分のものであることを宣言することになるという。

このサンサム、ほんとうのサンサムというのは、サンサムの実を鳥が食べ、その鳥が排便をしてそこから育ったものをいうそうだ。サンサムの実を人間が1回手にとり、それを山や畑にまいて育てたものは、ほんとうのサンサムではないという。人間の手に触れたときの熱によって、本来のサンサムではなくなるという。いわれてみるとそうかな、という気もするがすごいことだ。

サンサムは、葉っぱが人間の手のように5枚単位で出てくる。5枚そろうまで10年以上かかるそうだ。次の枝に5枚でてくるとこれは20〜30年ぐらいたっているという。さらに5枚、5枚と出てきて全部で30枚ぐらいになると、80年から100年。これぐらいになると1億ウォン(約1000万円)を超えるものもあるという。200年を超えたものは10億ウォン(約1億円)を超えるというからすごい。

サンサムの薬効によってなんでも治るというものでもないが、虚弱体質は改善され、ときにはガンが治ったなどという話も聞く。根っこから葉っぱの先まで1人の人が全部食べるのがよいとされている。何人かで分けて食べるのは、薬効の面から言うとだめなのだそうだ。

山歩きの名人つまりサンサム狩りや薬草狩りの名人のことをこちらではシンマニと呼んでいる。筆者はこのシンマニ仲間といっしょに1年に2、3回山歩きをするのだが、今までの数十回の山行(サンヘン)で、実際にサンサムを見つけたことは3回ほどである。それくらい出会える機会は少ない。

しかし見つけたときはそれは感動ものである。サンサムを前にして韓国式で仁義を切ってから採取にとりかかる。韓国式の仁義というのは、韓国式の敬礼である。両手の甲を額にあててそのまましゃがみ込み、膝を地面につけてから頭もつける。そうしてからおもむろに立ち上がる。これで完了。

採取するときは、金物の道具は使わず、すべて手や木だけで掘り進める。サンサムの周囲1メートルあたりから徐々に土をどけてゆくのである。根っこの1本1本までが大切なものだからだ。ゆえにサンサム1本掘るまでかなりの時間を要する。しかし掘っている時間も、胸躍る時間である。

学生らに「きのう山でサンサムを取ってきたよ」なんてさりげなく言うと、皆「おーっ」と驚きの声を上げる。学生も韓国人ではあるが、サンサムなんてシロモノを見たことがないからだ。だいたい例外なく「何本取ったんですか」「どれくらい大きいんですか」など質問攻めになる。「サンサムは30年ものでも20センチくらいしかないんだよ」などとサンサム講釈がはじまるわけだが、静かな口調でしゃべってはいるが、わが心はぎんぎらぎんだ。「ぎんぎらぎんにさりげなく」という歌があったけれど、あの歌はまさにこんなときのために作られた歌なんじゃないのか。

以上は山に自生するサンサムの話だが、普通にチョーセンニンジンというと、畑に栽培する高麗人参のことになる。東京に住んでいるわたしの知人などは、わたしが帰省するたびにチョーセンニンジンを買って帰るので、韓国ではだれでも自由にいつもいつも食べているような錯覚をもっている人もいるが、決してそうではない。

高麗人参は韓国でも貴重なもので、そう簡単に食べられるものではない。かといって一度も高麗人参を食べたことのない韓国人はおそらくいないと思われるが、それでも年がら年中食べているわけではない。高価だからそんなにやすやすとは口に入らないのだ。

だから日本に帰るたびに高麗人参をもってきて、と言われても海苔を買うように気軽な気持ちで買うわけにはいかないのである。福岡出身で今はなくなってしまったわたしの叔父は、子どものときから韓国人が近くにいたようで、高麗人参のことを知っていて「あれは何でも治る薬らしい」などと言う。

そんな鬼のような効き目はないと思うが、それほど「崇拝」している日本人もいる、ということはここに書いておいてもいいかと思われる。この叔父の子どものころの話だが、病気で寝ていた近所のおやじさんがよく言っていたそうだ。「チョーセンニンジンさえ手に入れば、この病気も治るんだがな」。治るかどうかは知らねど、こういう人にこそ、チョーセンニンジンをプレゼントしたいものだと思ったことだった。

■筆者プロフィール:木口政樹
イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。三星(サムスン)人力開発院日本語科教授を経て白石大学校教授(2002年〜現在)。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。

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